ザ・ホワイトタイガー(2021)
The White Tiger
監督:ラミン・バーラニ
出演:プリヤンカー・チョープラー、ラージクマール・ラーオ、アダーシュ・ゴーラブ、Perrie Kapernaros、Vedant Sinha etc
評価:85点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第93回アカデミー賞に「踊らないインド映画」がノミネートされているのをご存知だろうか?『ザ・ホワイトタイガー』である。本作は第93回アカデミー賞脚色賞にノミネートしており、『ノマドランド』や『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』などとしのぎを削っている。『華氏 451』のリメイクやリーマンショックを描いた『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』など多彩な映画を放つラミン・バーラミがジャーナリストであるアラヴィンド・アディガの同名小説を映画化しました。これが凄まじい作品でありました。
『ザ・ホワイトタイガー』あらすじ
インドの貧困層に生まれた青年が理不尽な現実に翻弄されながらも成り上がっていく姿を、ユーモアを交えながらシニカルに描いた社会派ドラマ。イギリスの権威ある文学賞ブッカー賞を受賞したアラビンド・アディガの小説「グローバリズム出づる処の殺人者より」を原作に、「ドリーム ホーム 99%を操る男たち」のラミン・バーラニが監督・脚本を手がけた。インドの貧しい村で生まれ育ったバルラムは、裕福な一家の運転手として働くことに。持ち前のずる賢さで主人の信頼を得るバルラムだったが、ある事件をきっかけに、これまでの奴隷のような人生から抜け出すことを決意する。本作が映画初主演となるアダーシュ・ゴーラブが主人公バルラムを演じ、「クイーン 旅立つわたしのハネムーン」のラージクマール・ラーオ、「ベイウォッチ」のプリヤンカ・チョープラーが共演。第93回アカデミー賞で脚色賞にノミネート。Netflixで2021年1月22日から配信。
※映画.comより引用
Netflixに踊らないインド映画登場
かつて、ダニー・ボイルがインドのサクセスストーリー『スラムドッグ$ミリオネア』を作り、これが第81回アカデミー賞作品賞を含む8部門を受賞した。本作はダニー・ボイルのスタイリッシュな演出による熱いドラマで傑作ではあるのだが「インド映画といえば踊りでしょ?」といったステレオタイプの演出があった。本作では、まず一切の踊りを排除している。踊らないインド映画にも傑作があることを強調しようとしている。また、『スラムドッグ$ミリオネア』とストーリー演出が酷似しているものの、少年が成し上がっていく物語に深みを与えることでリアルなインド社会と2020年代流のサクセスストーリーを紡ぐことに成功している。
主人公バルラム(アダーシュ・ゴーラブ)はインド片田舎の低カースト市民だ。この村の人は自分のカーストに満足している。檻に入れられた鶏はその状況に満足し、自由を勝ち取ろうとしていない。だがバルラムは違う。バイト一つとっても栄転のチャンスを伺っており、情報収集していたのだ。これは、先進国と移民労働者との関係性を鋭く象徴しているようにもみえる。ヘコヘコしているようで、出世する為、心の中では野望をギラつかせている。能ある鷹は爪を隠す様子を、ナレーションの黒いユーモアと、実際の行動を対比させることで効果的に描いているのだ。
そして、このナレーションベースの物語はマーティン・スコセッシ映画ばりの饒舌さと的確な編集で1秒足りとも飽きることなく爆走していく。例えば、バルラムが豪邸で何気なく香水をつけると「4,200」と値段が見える。次のシーンでは、彼の月給が200だということが分かる。これにより、レートが分からなくてもその香水が彼の手に届かない価格であることが分かるのだ。こういった細かい演出が多いので、アカデミー賞脚色賞ノミネートは納得である。
そして、安易にサクセスストーリーを終わらせない。彼はビジネスで大成功を納めていくのだが、彼が生み出すカーストに捉われない合理的なビジネスモデルが、2時間駆け抜けた物語に基づいているので説得力があるのです。
Netflixは今後も第77回ヴェネツィア国際映画祭で脚本賞を受賞したチャイタニヤ・タイムハネー『夢追い人』を配信したりするなど、インド映画の多様性がようやく表に出てくるようになりました。踊らないインド映画に注目している私にとって嬉しい話だ。
※映画.comより画像引用
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