酷評

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【ネタバレ考察】『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』失われたマドレーヌを求めて

James Bond…License to kill…History of violence…

映画館ですっかり擦り込まれること約2年。ようやくダニエル・クレイグボンド最終章『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』が日本公開されました。Twitterでは台風の負けんじと10/1(金)初日に映画館に駆けつけたものの、あまりの微妙さに荒れている人が多数観測された。まさか007で、あの面白そうな予告編でそんな大暴投はないだろうと思ってTOHOシネマズららぽーと横浜で観てきました。確かに、大暴投はなかった。『闇の列車、光の旅』、『ビースト・オブ・ノー・ネーション』のキャリー・ジョージ・フクナガ監督なので堅実な映画作りをしている。だが、その真面目さ故かあまりにも退屈だった。007でここまでつまらなくできるのかと思うほどに退屈だったのです。今回は、そんな悲しい駄作『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』に対してネタバレありで文句を徒然なるままに書いていきます。

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『イン・ザ・ハイツ』American Dreams are Dead.

うちの職場は意外とゆるいところがあって、仕事の士気を上げる為にラジオの使用が許可されている。先日、音楽ジャーナリストの宇野維正が『イン・ザ・ハイツ』を楽しそうに紹介していて少し興味を持った。正直、予告を観るとミュージカル映画お馴染みバークレー・ショットを何の批評性もなく使用している感が強く不信感を抱いていたのですが、夏映画を浴びたいということもあり映画館に行ってきました。結論から言うと、テーマは興味深いが演出が凄惨で退屈な作品でありました。

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【ネタバレ酷評】『茜色に焼かれる』激情に不幸を過剰積載していく日本閉塞感ものの最終兵器

夫(オダギリジョー)が交通事故で亡くなるものの、謝罪なしに政治的にもみ消されて早七年のところから始まる。そこから展開されるのは、新型コロナウイルスによってカフェが廃業となり、妻・田中良子(尾野真千子)は量販店で花を売りながらマネージャーにパワハラされ、風俗店でも客から暴言を吐かれながら日銭を稼いでいる。息子・純平(和田庵)は学校で先輩にイジメられている。

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【ネタバレ考察】『SNS 少女たちの10日間』正義の闇に呑み込まれる者たち

『SNS 少女たちの10日間』である。本作はチェコでSNSを通じた児童虐待が横行していることに対して、監督が少女に見える役者を集めて実情を調査していく内容。3人の女優にスカイプのアカウントを作らせ、心理学者や児童保護センター局員、弁護士といった様々な専門家を配備した状態で、性的目的で迫ってくる男の実態を調査した。その結果、10日間で2,458人もの男たちが彼女たちにコンタクトを取ってきた。終いにはチェコの警察まで出動する騒動となった問題作だ。TwitterやFilmarksでの評判も高いので、あつぎのえいがかんkikiで観てきました。序盤までは強烈な映像のオンパレード、知っているようで知らなかった世界の提示に圧倒された。今年ベストに入るだろうと思った。しかしながら、段々と本ドキュメンタリーが犯した倫理的問題点があまりにも凶悪で一線を超えてしまっていることが気になり始め、評価できなくなってしまいました。本記事では、ネタバレありで本作の問題点について語っていく。かなり強烈な内容なので読む際はお気をつけください。

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『るろうに剣心 最終章 The Final』ゼロ年代時代劇に愛を込めて空中分解

本作のテーマは、「過去の罪は償えるのか?」「恨みはいかにして浄化されるべきか?」である。剣心は善人ではあるが、過去に人斬りで大量殺戮を行なっている。人を殺したという事実は変わらない。降らせた血の雨の跡は拭い去ることができず、過去の亡霊のような存在として縁が現れるのだ。一方、縁は恨みを拭い去ることができない。暴力でしか痛みを拭い去ることができない状態になっている。それが目には目を、歯には歯をの戦争を巻き起こしてしまう。アクション面ばかり注目されがちだが、ドラマ面はコロナやパワハラ問題で憎悪と過去がしがらみとなって人々が傷つけ合っている今に通じるものがあるのです。

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【アカデミー賞】『ソウルフル・ワールド』幸せであることを強要されるディストピア

学校で音楽を教えるジョー・ガードナー。生徒は協調性ゼロで耳苦しい不協和音が響き渡る。彼はトロンボーン使いのコニーを指差す。くすんだ金属の色合いのリアルさに身を乗り出す。そしてジョー・ガードナーはジャズクラブに行くのだが、これが凄まじい。仄暗い空間の中で、彼の憧れのミュージシャン・ドロシアのサクソフォーンがキラリと光る。陰影礼讃の極みに圧倒される。街に出れば、消防車が現実と寸分違わないリアルさで突っ込んでくる。リュミエール兄弟の『ラ・シオタ駅への列車の到着』を公開当時初めて目の当たりにした観客さながらの衝撃は魂の世界の前衛的ヴィジュアルとの融合により観る者を飲み込む。

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【ネタバレ酷評】『すばらしき世界』:ショーシャンクの空に、その後

西川美和はそんな受刑者出所後の苦悩を時にコミカルに描いて魅せる。役所広司演じる主人公・三上は旭川で十年以上の服役を終える。軍事演習のように勇ましく歩き、過剰に大きな声で挨拶をする彼に禍々しさを覚える。爆弾が爆発しそうなハラハラドキドキが画面を支配する。彼は、久しぶりのシャバに「今度こそはまともに生きよう」とポジティブな表情を浮かべ、新たな人生を歩み始める。自分の母親をテレビディレクターの男・津乃田(仲野太賀)が近づいてきたこともあり、前向きだ。しかし、そんな彼の希望は不協和音によって打ち砕かれる。スーパーに行けば万引き犯に間違えられる、免許の更新に行こうとすれば教習所に通わねばならない。脳に持病がある彼の精神は、不安定でフラストレーションが溜まると暴力的に振る舞ってしまう。彼には人を助けたい心はあれども力が制御できず、不良に絡まれていたおっさんを助けようとしてチンピラをフルボッコにしてしまい、それが原因でテレビの案件がなくなってしまったりするのだ。そんな彼の心理を興味本位、ゲスな心で解剖しようとする2人のテレビ関係者。幼少期に親の愛を受けず施設に入れられたのが原因ではとズカズカ彼の精神領域に土足で踏み入れていくのだ。