【ネタバレ考察】『漁港の肉子ちゃん』よくよく考えたら恐ろしい映画では?

漁港の肉子ちゃん(2021)

監督:渡辺歩
出演:大竹しのぶ、Cocomi、花江夏樹、中村育二、石井いづみ、⼭⻄惇、八十田勇一、下野紘、マツコ・デラックス、吉岡里帆etc

評価:20点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

「みんな、望まれて生まれてきたんやで」と炎上しそうな煽り文句で警戒していた『漁港の肉子ちゃん』。映画仲間がオススメしていたので、急遽観ることにしました。てっきり漫画の映画化かなと思っていたら、西加奈子の同名小説の映画化だと知り驚きました。

『漁港の肉子ちゃん』あらすじ

明石家さんまの企画・プロデュースで、直木賞作家・西加奈子の同名ベストセラー小説をアニメ映画化。漁港で暮らす食いしん坊で脳天気な肉子ちゃんは、情に厚くて惚れっぽく、すぐ男に騙されてしまう。しっかり者でクールな11歳の娘キクコは、そんな母のことが少し恥ずかしい。やがて母娘の秘密が明らかになり、2人に最高の奇跡が訪れる。底抜けに明るくパワフルな主人公・肉子ちゃんの声を大竹しのぶが担当。木村拓哉と工藤静香の長女でモデルのCocomiがキクコ役で声優に初挑戦し、「鬼滅の刃」の花江夏樹らが共演する。「海獣の子供」が高い評価を受けた渡辺歩監督とSTUDIO4℃が手がけ、スタジオジブリ出身の小西賢一がキャラクターデザイン・総作画監督、「サヨナラまでの30分」の大島里美が脚本を担当。

映画.comより引用

よくよく考えたら恐ろしい映画では?

ノイズだらけのゴチャゴチャした映像と、ジブリ、ポスト新海誠映画、デフォルメされた肉子ちゃん描写が不協和音を引き起こし、開幕早々心閉ざしそうになる。

話はヴィジュアルに反してシリアスだ。お人好しで頭が弱いせいで、次々と男に搾取されて棄てられた肉子ちゃんが娘(ボーイッシュなヴィジュアルの関係で中盤まで男の子だと思っていた…)連れて東北に流れ着く。何故か、船の上で暮らし、距離感がバグっている母に反発することなくキクコは新しい環境に馴染みつつある。

そこに、『茜色に焼かれる』さながら日本の閉塞感が次から次へと押し寄せてくる。豪快で頭の弱い母に対する思春期女子の恥じらいに始まり、小学校という閉塞空間で繰り広げられる女子コミュニティの仁義なき戦いが展開される。そして、彼女に恋や肉体の変化に対する葛藤がやってくる。そういった複雑な心情を肉子ちゃんに悟られないように自己処理しないといけないのだ。何故ならば、肉子ちゃんに話してしまうと、それがどれだけ拡散され、自分の心が傷つけられるかがわからないのだ。

人間関係の始め方が分からず、間合いの取り方を見誤り不幸街道をまっしぐら突き進む肉子ちゃんを嫌いにならないように、自分のせいで苦難を引き起こさないように押し殺しながら生きるキクコを底抜けに明るいタッチで描いている。

私は日本映画にありがちな仄暗い色彩に抑圧された人を押し込め叫ばせる映画は大嫌いだ。しかし、ここまで底抜けに明るい映画もこれはこれでどうかしていると思う。そのモヤモヤは後半になるとエレクトリカルパレードのようにやかましく私の心を掻き乱す。

キクコは実は肉子ちゃんの子どもではないことが発覚し、真実が語られる。それが、肉子ちゃんの親友が妊娠をしたものの男に逃げられ、その重圧から肉子ちゃんにキクコを押し付けていたというものだ。それだけならまだしも、肉子ちゃんとその親友は定期的に電話で連絡を取り合っており、しかも彼女はキクコの運動会にもやってきていたのだ。にもかかわらず、キクコには会おうとしなければ、どうやら今は別の男と子どもを授かり生きているらしいのだ。あまりにも酷い搾取されっぷりであり、それをドラえもん感動エピソードばりの嫌いの裏返し=好き理論で展開で語るもんだから唖然としました。

しかも本作の着地点がキクコに生理が来るところで終わるのだが、トイレ越しに肉子ちゃんが紅白饅頭を持ちながら「オメデトウ」と言うデリカシーのなさ本当に怖いなと思いました。また、直前にあったシーンが肉子ちゃんの親友が男に産み逃げされたエピソードだけに一瞬、模型少年に犯され妊娠したとも思ってしまうため、凶悪なシーンであることは間違いありません。

とはいってもいい場面はある。何と言っても肉子ちゃんを演じた大竹しのぶが、アニメーションのデフォルメされ変容する肉体と見事にシンクロしていたのだ。『プロメア』の堺雅人を始め、俳優が声優をやると意外と演技が虚像に宿らないイメージがある。だが、本作の大竹しのぶは、虚像に魂を吹き込んで奥行きある演技を魅せていました。これだけは良かったです。

※映画.comより画像引用

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