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【ネタバレ考察】『ペンギン・ハイウェイ』ボインボインの陽のもとに

【ネタバレ考察】『ペンギン・ハイウェイ』ボインボインの陽のもとに

ペンギン・ハイウェイ(2018)
Penguin Highway(2018)


監督:石田祐康
声の出演:北香那、蒼井優、
釘宮理恵etc

評価:80点

Twitterで「訳がわからん」という声と「大傑作」という声が飛び交っている映画『ペンギン・ハイウェイ』。TOHOシネマズのフリーパスで観てきました。原作が『夜は短し歩けよ乙女』の森見登美彦だけに予想はしていたが、かなりヘンテコな作品であった。原作は未読なのだが、アニメとしての利点を活かして森見登美彦の世界観を魅力的に表現しきった傑作であると考えた。今回は、そんな難解な作品『ペンギン・ハイウェイ』を読み解いていくことにします。※ネタバレ記事です。

『ペンギン・ハイウェイ』あらすじ

海がないにも関わらず、ペンギンが大量発生する町。勤勉家のアオヤマ君は、歯医者のお姉さんのおっぱいにインスピレーションを掻き立てられながら、ペンギンの謎の解明に挑む。しかし、それはヘンテコな冒険の始まりであった!

ボインが切り札モーソー合戦

今年の日本アニメはなんだか可笑しい。大衆向け、ティーンズ向けの作品に見せかけてセクシャルでエロチズムなのはいつものことだが、『仮面/ペルソナ』や『アイズ ワイド シャット』等難解映画の残像が見えるのはどういうことなんだろう?しかも、オマージュというレベルを超えて物語の軸として使われ、ディズニーなんかが決して真似できない形而上たる世界が作られているではありませんか!本作は、原作者が森見登美彦だけあって、想像を絶する世界を魅せていた。

厄介なことに《高慢》《自惚れ》などといった単語は知らぬ自称研究者の少年は、ボインなお姉さんをミューズとして見ていた。ボインなお姉さんを前にするとアイデアが次々と浮かぶのだ。そんな中、町に謎のペンギンが大量発生する。海なんかないのに。少年は、ボインなお姉さんを媒体にこの謎に迫る。やがて、彼はゾーンで出会う。制御不能なボヨンに。バインバインと暴れまわるボヨン、町は危機に瀕する。この危機を救う切り札は、ボインだった、、、なんちゅう話なんだ??

スタニスワフ・レムが謎を読み解く鍵だ!

本作を観ると、原作者の森見登美彦の拘りを非常に尊重していることが伺える。通常この手の不条理ヘンテコな話は、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』から引用/オマージュされるものだ。しかしながら、本作では『鏡の国のアリス』のジャバウォックを引用するマニアックさを魅せている。そして森見登美彦は本作のアイデアをこの作品から得たのであろう。それは『ソラリスの陽のもとに』だ。その引用アピールを特殊な形で匂わせている。それは、歯医者でいじめっ子にアオヤマ君が脅す場面。「スタニスワフ症候群って知っている?歯を抜かないと、病気が口を蝕み、頬が晴れ上がり、歯から何かが生えてくる…」とアオヤマ君が脅す。スタニスワフ症候群は調べてみたらどうやら存在しない。森見登美彦でっち上げの病名だ。なんでワザワザ、《スタニスワフ》というマニアックな名前を起用したのだろうか?それは、本作が『ソラリスの陽のもとに』を脱構築した話だったからだ。

『ソラリスの陽のもとに』とは、惑星ソラリスの調査をしている宇宙船に心理学者が潜入し、超常現象に苦悩するというSF小説だ。宇宙船の救難信号を受け、心理学者のクリス・ケルビンが派遣される。宇宙船には、人工頭脳の研究をしているスナウトと物理学者のサルトリウスがいるのだが発狂しておりまともに会話が通じない。謎が深まる宇宙船だったが、ケルビンの前に自殺したはずの恋人が現れる。幻影であると一度は殺すのだが、再び彼の前に彼女が現れる。やがて、これはソラリスが知能を持っており、ケルビンと対話する為に送り込んだものであると知る。ただ、やがて妻の幻影によって自身の過去に囚われていき、また自身の分身の出現によってパラノイアに陥っていく。

本作は、研究者という《合理》と《論理》に支配された唯物論者が、観念的現象を前にどう思考し乗り越えていくのかを主題としている。そしてこれは、まさしく勉強家で論理的思考しかしないアオヤマ君が、海なき場所に発生したペンギンという超常現象に向き合ううちに、新しい自分と出会う本作の軸と通じているのだ。

アオヤマ君にとって、非論理的なモノとは?

さて、本作、コーラがペンギンに化け、林の奥にはボヨンボヨン揺れ動くスフィアが鎮座、空間は歪み、ボインな姉ちゃんな突然消え、少年は何かを感じたところで物語は終わる。これらの現象はなんだろうか?本作が『ソラリスの陽のもとに』をベースにしているのならば、超常現象の根源に迫る必要がある。アオヤマ君にとって非論理的なモノとは何かを考えると腑に落ちた答えが見えてくる。それは何か?ブンブンは《性欲》だと考える。

アオヤマ君はむっつりスケベだ。歯医者のボインなお姉さんの豊満な乳房に惹かれている男の子だ。しかし、乳房に対する恥じらいを隠すかのように、クラスメイトには正々堂々と《おっぱい》を連呼する。それも澄ました顔で。そして、いじめっ子に対して、「お前、好きなんだろ。好きなら好きだと言えよ。」と恋心を積極的に抉っていく。ただ、これはアオヤマ君が歯医者のお姉さんに恋心を抱いていることを隠そうとする反応だ。現に、劇中アオヤマ君はなかなかお姉さんに「好きだ」とは言わない。「お姉さんのおっぱいが好きだ。」と常に婉曲表現で本心を隠そうとしているのだ。

これは、自然現象や社会現象には常に合理的な理由があると考えているアオヤマ君にとって、自身の性欲というコントロールできない現象に対して説明ができず、無理に自分の腑に落とし込もうとする上で生じる所作だ。

そして、それを象徴するかのように、町の超常現象がある。お姉さんはペンギンを召喚できると中盤に分かる。その発生条件は、「気持ちよくなると出るんだよね。」と語られていることから、これは射精、マスターベーションのメタファーであると考えることができる。また、林の奥のスフィアは、ボヨンボヨンと官能的な動きをする。そして、このスフィアのある空間を外部から隠そうとする姿を観察すると、性欲を周りに悟られるのを防ごうとする思春期の心理現象を暗示しているように見える。

また、本作ではルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』が引用されるが、アリス二部作は一般的にティーンエイジャー向けのポルノだと言われている。制御できない性欲の高まりが、巨大化縮小するアリスに投影されていたり、不条理による混沌に反映されているのだ。

そうなってくると、お姉さんの存在も分かってくる。これは、アオヤマ君にとって理想の女性像なのだ。実体はないが、この世界にいるはずの理想の女性。彼は、自身が生み出した限りなくリアルな妄想の世界の淵で、非論理的な性欲の世界と対峙し、自身なりの落とし所を見つけて大人の階段を一段登る。そして幻影であったお姉さんを棄て、現実の中から理想の女を探そうとする。ペンギン・ハイウェイという運命の道を歩み続ければ、この世の真理に辿り着き、理想の女性に出会えるという結論にいたるのだ。

つまり、論理的であることに固執した少年が不条理の道を駆け上がることによって、観念的世界を知り進化する話だと言えよう。

最後に…

いかがでしたでしょうか?なんで最近のアニメは難解なんだろう『リズと青い鳥』はイングマール・ベルイマンの『仮面/ペルソナ』で、『未来のミライ』はスタンリー・キューブリックの『アイズ ワイド シャット』だった。本作はスタニスワフ・レムの『ソラリスの陽のもとに』をアンドレイ・タルコフスキーの『惑星ソラリス』にちょっぴり『ストーカー』を足したような作品だった。こんなのディズニーやイルミネーションの映画では絶対に観ることのできない世界だ。そしてどれも、アニメとしての自由さを最大限使って魅力的に描いた傑作であった。ブンブン大満足でした。

ブロトピ:映画ブログ更新
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