【 #サンクスシアター 22】『東京人間喜劇』オフ会0人よりも深き地獄

東京人間喜劇(2008)

監督:深田晃司
出演:青年団、角舘玲奈、根本江理子、河村竜也、古舘寛治、岩下徹、齋藤徹、荻野友里、木引優子、足立誠etc

評価:70点(「写真」のみ90点)

おはようございます、チェ・ブンブンです。

サンクスシアターで深田晃司監督の『東京人間喜劇』を観た。濱口竜介監督もそうだが、深田晃司監督も会話の不協和音によってドラマを捻るのが上手い監督である。本作は3本のオムニバスとなっており、Filmarksで評判が高かったので観たのですが2話目の「写真」が壮絶な地獄で私好みでした。というわけで書いていく。

『東京人間喜劇』あらすじ

劇作家・平田オリザの主宰する劇団青年団の演出部に所属する深田晃司監督が、フランスの文豪バルザックの作品群「人間喜劇」に着想を得て手がけた長編映画。ダンサーのサインを求めるファンの女性2人が雨の夜の街を駆け抜ける「白猫」、アマチュアカメラマンの女性が開いた個展の一日を通じて友情への期待と失望を描く「写真」、右腕を事故で失った夫とその妻との間に横たわる溝を描き出す「右腕」の3編で構成。

映画.comより引用

オフ会0人よりも深き地獄

喜劇とは笑い話ではなくあくまで「悲劇ではない」という話は有名である。

明らかに地獄な話にもかかわらず「喜劇」とついているのは、ギリギリで「悲劇」に倒さないことなのだろう。あるいは『本気のしるし 劇場版』のように壮絶な地獄すぎて、人間深層心理にあるドス黒いものが浮かび上がってきた時に生じる悪魔的笑いに対して「喜劇」と呼んでいるのだろうか?無論、タイトルはバルザックの「人間喜劇」から取られているのだが、なんだかこんな理論が脳裏を掠めました。

個人的に前者の非常に難しい演出に成功したと思われる第2話「写真」に賞賛を贈りたい。この世にはオフ会0人よりも深いところにある地獄が存在する。それは案外近いところにある。

写真家はるなが個展を開くこのエピソードは辛辣だ。対して能力もないのにイキっている。初日にパーティを開こうとするが、友人たちからは既に来ないモードが漂っている。というよりかは彼女の個展にもかかわらず、その空間で浮いているのだ。そこに、通りすがりのデブが現れて「パーティするの?」と写真を観ようとしないくせにタダ飯を食おうとにじり寄ってくる。彼はいきなり、「北海道で唐揚げはザンギと言うんだ」と語る場面は、言葉が通じない人の不気味さを風刺したユニークな場面となっている。そして、当然ながら誰もパーティには来ない。これが一人なら、嘘がつけるが、彼女が一人なのを見ている人が存在する。さらには、彼女のに人は来る。唐揚げデブだ。だから、「個展に人が来る」という目的は達成されておりこの時点で「悲劇」から外れる。ここに痺れました。そうです、この世にはオフ会0人より深き地獄が存在するのです。

また、彼女のもとにモノホンのカメラマン「のざか」がやって来る場面があるのですが、このやり取りが秀逸だ。のざかが「その写真カメラ何使っているの?」「その写真ボケているけど意図的にやっているの?」と数個質問しただけですぐに化けの皮が剥がれてしまう。ムキになって、彼女が好きだと言うアンリ・カルティエ=ブレッソンやウォーカー・エバンスを知ったかぶるが、これまた失敗に終わる。そしてのざかは対等に話すことができないと侮蔑の目線を投げつけながら去っていく。全くの初心者となら出さない目線であろう、だがはるながイキって自爆しているのをみて、幻滅し軽蔑する。これは自分も昔やったことあるのでリアルだなと思った。そしてもう一度、その場面を観直すと確かにのざかの作品はアンリ・カルティエ=ブレッソンやウォーカー・エバンスを足して二で割ったような作品を撮っている。だが、似すぎて批評家からは「二番煎じだ」と酷評されそうな写真となっている。はるなとの身長差を巧みに使って彼女がマウントを仕掛けるようにして、のざかが恥ずかしそうに自分の作品を魅せるシチュエーションを作り出しているところに業を感じました。

この超絶技巧の傑作を踏まえると、第1話の「白猫」はプライド高い女性の妙な角度からの会話のいやらしさこそ不気味だがパワー不足であり、一方で第3話「右腕」は黒沢清になろうとしてなれないもどかしさがあった。特に「右腕」に関しては『芸術と手術』、『臆病者はひざまずく』といった手から身体が乗っ取られていく映画の傑作を知ってしまっている以上、また深田晃司監督の超絶技巧を知ってしまっている以上、もう少し面白くできたのではと思うところありました。

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※映画.comより画像引用