【ガイ・マディン特集】『臆病者はひざまずく』乳房を求める手を顕微鏡で覗いてみよう

臆病者はひざまずく(2003)
Cowards Bend the Knee or The Blue Hands

監督:ガイ・マディン
出演:ダルシー・フェール、Melissa Dionisio、エイミー・スチュワート、Tara Birtwhistle、Louis Negin etc

評価:100点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

給付金で購入したガイ・マディンBOX収録のサイレント映画『Cowards Bend the Knee or The Blue Hands』を観ました。本作は2004年の第5回東京フィルメックスにて『臆病者はひざまずく』という邦題で公開されています。これが想像以上にトンデモナイ怪作でした。

『臆病者はひざまずく』あらすじ


アイスホッケー選手の周囲に起こるビザールな出来事を異様なイメージの氾濫で綴る。マディソン本人の記憶が様々なサイレント映画と混交されて詰め込まれたかのような作品。
CINEMATOPICSより引用

乳房を求める手を顕微鏡で覗いてみよう

医者が顕微鏡を覗きこむ。すると、万華鏡のように人々の残像が浮かび上がり、やがてそれがアイスホッケー会場へと繋がっていることが判明する。ガイ・マディンはアイスホッケーのスター選手である。彼は恋人のベロニカに堕胎手術をさせるべくメータのところへ行くのだが、そのままベロニカのことを放り投げメータにうつつを抜かすようになる。その罪悪感と欲望を幻影として描いていく。

本作の特徴はなんといっても「手」に対する執着だ。彼の欲望を象徴するかのように、彼の手は女の乳房を、お尻を鷲掴みにしようとする。それを女は叩いていくのだ。そして、その抑えきれない欲望は人に語ってもなかなか理解されない。警察のところへいき説明しようにも、信じてもらえず、思わず警察菅をビンタをしてしまうアクションを提示してもジョークとして受け止められてしまう。ガイ・マディンが描く欲望と理性の闘いは例のごとく、彼の持つ膨大なサイレント映画のアーカイブと彼の常軌を逸した思想の悪魔合体により、この世のものを超越した世界を提示し続ける。執拗に欲を抑えこむ手を捉え続けることで、画面に魔力が帯びていき、欲望の抑止を具現化させることに成功していると言える。その欲望の退避表現として、氷の乳房を弄くり回すというアイデアは、抑圧により壊れた理性を表象しており、なんてガイ・マディンは自分に正直なんだろうと感心してしまう。こんなにも自分の脳内ヴィジョンを自慰として観客に見せつける監督も珍しい。

そして、それは他の方も言及している通り『イレイザーヘッド』で描かれる、親になる責任への逃避の表象に近いものがある。自分の世界が、子どもを持つことによって瓦解するかもしれない。だから彼は映画の中で堕胎させ、不倫する。「妊娠」という現実から逃れようとするのだ。そう聞くと、とんだクズ映画であり倫理的にアウトに見えるかもしれない。しかし、彼の場合は乳房を鷲掴みにしようとする手を徹底的にはたき、女に徹底的に虐められる描写で持って自己批判している。

ガイ・マディンの内なる闇と向き合う、それもサイレント映画の世界で描くことで、普遍的な男性の逃げ腰というクズな側面を批評してみせたのだ。

何よりも理屈抜きで非凡的なショットの連続に多幸感を得ること間違いなし。映画表現の異次元に身を投じる喜びに満ち溢れた作品であった。

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