『ホドロフスキーのサイコマジック』ソーシャルディスタンシングで救えないもの

ホドロフスキーのサイコマジック(2019)
Psychomagie, un art pour guerir

監督:アレハンドロ・ホドロフスキー

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

数年前に、アレハンドロ・ホドロフスキーが発表した新作『ホドロフスキーのサイコマジック』が遂に日本お披露目となった。本作は、『エンドレス・ポエトリー』同様クラウドファンディングによって実現した企画で、ホドロフスキーが50年前に見出し構築してきた心理療法《サイコマジック》を紹介するドキュメンタリーである。チェ・ブンブンもこの企画に出資しており、エンドロールに名前が載っているため、アップリンクの先行オンライン上映で鑑賞しました。『ホドロフスキーのDUNE』で薄々感じていた、良い意味での胡散臭さ、ビッグマウスな感じは、この作品で更に良く裏切られました。

『ホドロフスキーのサイコマジック』概要


「エル・トポ」「ホーリー・マウンテン」の鬼才アレハンドロ・ホドロフスキー監督がこれまで作り上げた映像表現を自ら解き明かす集大成的作品。ドイツの精神分析学者エーリッヒ・フロムとともに精神分析を学んだホドロフスキーは、自身が考案したが考案した心理療法「サイコマジック」を「科学を基礎とする精神分析的なセラピーではなく、アートとしてのアプローチから生まれたセラピーである」と語る。ホドロフスキーのもとに悩み相談に訪れた10組の人びとが出演し、「サイコマジック」がどのように実践され、作用しているのかが描かれる。そして、自身の映像表現に「サイコマジック」がどう作用しているかを過去作やさまざまな実験的な映像を用いて実証していく。
映画.comより引用

ソーシャルディスタンシングで救えないもの

《カルト映画監督の王であるアレハンドロ・ホドロフスキーが自ら開発した心理療法のドキュメンタリーを撮る。》

映画ファンにとってみればとても面白そうな企画であるが、よくよく考えたら結構ゾッとする内容だ。新興宗教、なにやら危ない宗教の洗脳動画を魅せられるのでは?これを観たら何かを失うのでは?という恐怖を感じます。ただ、実際に蓋を開けてみれば、ホドロフスキーは真剣かつ論理的に、人と人との関係性や、内面にある苦痛をどのようにして外に出すのかを考えていました。そこには決して、自らのカリスマ性を活かして弱者から搾取しようとか、権力を得ようといった邪悪なものを感じませんでした。そして本作は90歳を超えたアレハンドロ・ホドロフスキーが自分の作品と活動を振り返るある種の遺言状となっていました。

なので、ホドロフスキーがあまり語ってこなかった『ファンドとリス』や『TUSK』からも自分のセラピーに対する影響を考察しているところが新鮮だったりする。

次から次へと患者がやってくる。患者は己の中にある性別や、大人と子供の境界線、トラウマに苦しんでいる。そんな患者を救う鍵は《アート》にあるとホドロフスキーは考える。ただ、サルバドール・ダリは夢から現実への転換でもって人々のトラウマを癒そうとしたのに対し、ホドロフスキーは夢に入ることこそが大事なのだと声を大にして語る。トラウマや痛みとは言語化できない無意識の世界にあるものだという理屈に基づいている。そして、夢=非現実をアートに持ち込むことで彼は人々の心を治療できるのではと考える。

例えば、裸になりひたすら抱きしめ合う。かぼちゃに写真を貼り、それを破壊させる。鎖を繋いだ状態で街を歩かせてみたり、胸に皿を置き、それを割ってみせるなどなど。人々は、誰かに見られている、誰かの反応があることを意識するあまり、自分を抑圧してしまう。あるべき姿として、窮屈な心の壁に自分の性や理想を押し込んでいる。そして、通常それを解放するには大きな躊躇いが生じる。それをホドロフスキーは抱擁し、寄り添うことで解放してみせる。破壊願望を爆発させたり、自分の隠していた気持ちを吐き出させるのだ。

その中にユニークなエピソードがある。

アダルトチルドレンな男が独白する。

「自分が吃音だと母親が喜ぶんだ。自分は大人になれずにいるんだ。」

彼は大人になれない自分に苦悩している。そんな彼に対してホドロフスキーが行ったことは、彼にコスプレをさせ、遊園地に同行することだった。彼は遊園地で子どものようにはしゃぐ。コーヒーカップに乗ったり、子どもよりも我先にアイス片手に乗り物に乗ったりするのだ。はたからみると、薄気味悪い光景なのですが、それをホドロフスキーは暖かく見守るのです。これは、「大人になれない自分」という概念を取り払うために、敢えて子どもとして振る舞う機会を設けているのだ。

どうでしょうか?

ホドロフスキーはただの胡散臭い教祖なのでしょうか?

この作品を観ると、ますますホドロフスキーが好きになる。彼は本気で人々の苦痛を癒しで解放しようとしていたのだ。

今のご時世、ソーシャルディスタンシングだ!リモートワークだと物理的な接触を避ける動きが活発になっている。無論、これは非常に大事なことだが、人と人とが触れ合うことでしか癒えないものがあることを忘れてはならない。サイコマジックはある意味、ポストコロナに向けたホドロフスキーからの重要なメッセージなのかもしれません。

まさしく NO ART NO LIFE.ですね。

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