『街の上で』今泉力哉のユリシーズ、またはカウンターだらけの恍惚地獄譚

街の上で(2020)

監督:今泉力哉
出演:若葉竜也、穂志もえか(保紫萌香)、古川琴音、萩原みのり、成田凌etc

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

愛がなんだ』で映画をあまりみないような人にも認知され、カルト的人気となった今泉力哉監督最新作『街の上で』を観ました。ブンブンの師匠である寺本郁夫氏は映画芸術の中で、カウンターの多い作品だと語っていたが、これは物理的カウンターだけではなく、心理的カウンターが多い作品だと思いました。それと同時に、これは今泉力哉が手がける『ユリシーズ』として大傑作だと感じたのでこれから評を書いていきます。

『街の上で』あらすじ

「愛がなんだ」の今泉力哉監督が、下北沢を舞台に1人の青年と4人の女性たちの出会いをオリジナル脚本で描いた恋愛群像劇。下北沢の古着屋で働く青年・荒川青は、たまにライブを見たり、行きつけの古本屋や飲み屋に行ったりしながら、基本的にひとりで行動している。生活圏は異常なほどに狭く、行動範囲も下北沢を出ることはない。そんな彼のもとに、自主映画への出演依頼という非日常的な出来事が舞い込む。「愛がなんだ」にも出演した若葉竜也が単独初主演を務め、「少女邂逅」の穂志もえか、「十二人の死にたい子どもたち」の古川琴音、「お嬢ちゃん」の萩原みのり、「ミスミソウ」の中田青渚が4人のヒロインを演じる。成田凌が友情出演。
映画.comより引用

今泉力哉のユリシーズ、またはカウンターだらけの恍惚地獄譚

オデュッセウスはポセイドンの怒りによってトロイア戦争勝利による凱旋から10年近く地獄巡りをさせられる。それをジェイムズ・ジョイスはダブリンのとある1日の不穏な人間関係に収斂させた。今泉力哉は、失恋から再び恋を得るまでの過程を『オデュッセイア』がごとく描いている。つまりこれは今泉力哉の『ユリシーズ』と言える。

荒川青はカノジョが不倫していることを知り、問い詰める。すると彼女から「別れたい」と言われる。彼は、彼女を手放したくない想いと主導権を握りたいという想いから、あれやこれや会話を選択するのだが、Win-Winの関係が生まれてしまい、別れることこそが両者最大の得となってしまう。こうして破局した荒川青の前に、次々と会話の不条理が押し寄せてくる。行きつけのバーでは、のらりくらりと店員に会話を躱され、本屋では大事なことを言った瞬間に客が現れ、店員さんに「えっなんだって?」と聞かれてしまう始末。バイト先の服屋では、何か問題を抱えている女に声をかけるものの、肝心なタイミングでカレシが登場してしまう。警察官には絡まれ、延々と妹が好きだと聞かされる。あれやこれやしているうちに、映画の撮影に呼ばれ、エキストラに朝ドラの人と間違えられ、打ち上げでは映画関係者に演技が下手だと遠巻きに言われてしまう始末。

彼の歩くところには、物理的カウンターによるある種の断絶と、会話によって生じる不協和音という名の心理的カウンターしかないのだ。では彼は変わるのだろうか?その不条理の渦の中で。それがあまり変わる気配がない。幽霊のように下北沢の街を彷徨い、混沌に身を任せているのだ。

恍惚とした夜の風景、おしゃれで文化的な街・下北沢。そこにある美しき地獄に、観るものはチクチク心を刺されながらも、その会話の不協和音あるあるの鮮やかさに魅了される。ジャン・ユスターシュの面影を感じる大傑作でありました。

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