【 #サンクスシアター 3】『螺旋銀河』Synonymを求めAntonymと対峙する

螺旋銀河(2014)

監督:草野なつか
出演:石坂友里、澁谷麻美、中村邦晃、恩地徹etc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

MiniTheaterAIDのリターンであるサンクスシアターで『王国(あるいはその家について)』の草野なつかデビュー作『螺旋銀河』が配信されていました。本作はリアルタイムでインディーズ日本映画の民が絶賛していた作品。長らく観たかったのですが、なかなかタイミングが合わなかった。『王国(あるいはその家について)』のあの歪な傑作を観ているだけにずっと探していたのですが、遂に対峙できました。

『螺旋銀河』あらすじ


シナリオ学校に通う綾。共同執筆者を立てるという条件で原稿が課題のラジオドラマに選ばれ、偶然言葉を交わした同僚・幸子に目を付ける。
※サンクスシアターより引用

Synonymを求めAntonymと対峙する

トイレで会社員の深田は社員証を拾う。すぐさまトイレを飛び出し、「すいません」とその主と思われる赤い女性に声をかける。しかし、彼女は気づかない。言おうかどうか刹那の迷いが生じるが、意を決して「澤井さん」と社員証の名を呼びかける。彼女は「ありがとう」と答え、続けざまに「前にも会いましたっけ?」と質問する。社員証の名を勝手に読んで申し訳ないと謝る深田に、彼女は嫌味っぽく「ありがとう、深田さん。」と答える。そこへ、澤井の同僚と思しき二人組が現れ、食事に誘い始めるが、ドライな突き放しで断り足早に去っていく。

カメラは澤井の行動を追う。彼女はラジオのシナリオコースに通っていて、もうすぐ卒業制作に入るらしい。そして、彼女のシナリオが実際に公共のラジオ電波に乗ることが決まる。ただ、講師からは裏で「一番酷い」、「他者がない」と圧をかけられるのだ。友だちがいない彼女、自分の世界で完結している彼女から見える世界には他者がそもそっも存在しない。あるのは高いプライドのみだ。そのプライド故、架空の友だち=漫画家を召喚してしまい、講師は意地悪にもその漫画家を連れてくるように言い放つ。さて彼女はどうするのだろうか?

彼女はSynonym(=同義語)を求め、自分と似た雰囲気を持つ深田に偽の漫画家を演じさせることにする。そして目論見は成功し、なんとか企画は軌道に乗るのだが、講師は明らかに深田のことが気に入っている。自分だけが注目されたいのに、自分はこの物語においてモブキャラであり、他者になってしまっていることにフラストレーションを抱く。一方、深田は冴えない人生にやってきた遅すぎた輝ける青春に興奮すると共に、澤井のSynonymになろうとする。積極的に脚本に口出ししたり、彼女と同じ服を着たりする。そして、自分のカレシが澤井の知り合いであることに興奮するのだ。実はそのカレシは澤井の元カレなのに。

本作は、ドストエフスキーの『分身』を彷彿とさせながらも、コインランドリーやラジオといった空間を用いて草野なつか色の銀河を作り出すことに成功している。深田が語るコインランドリーには幾つもの世界が存在し、それが交差する場所という理論が澤井の「自分ばっかり」な性格を克己していくのを手助けする。彼女は失恋のせいだろうか、自分に歯向かう存在Antonym(=対義語)を拒絶し、うちなる世界に引きこもっている。彼女が偶然見つけたSynonym的存在が実はAntonym的存在であり、その存在が自分の人生を侵食していく。それも自分が見たい世界を目の前でチラつかせながら人生を奪っていく状況と対峙する。その絶望を通じて、初めて他者の存在を認めざるえなくなり、彼女がそれを認めることによってラジオドラマが完成されていく過程はとても美しいものがある。

日本にも『仮面/ペルソナ』的な上質な心理ドラマを作れる監督が存在することに嬉しくなる。心理劇でありながらも、例えば深田がトイレに入り不自然な目線をカメラに捉え続けさせ、溜めた後に洗面所に屈っしている澤井の姿を魅せるといったユニークなカメラワークも多く楽しい作品でした。

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