【 #サンクスシアター 11】『ユートピア』インディーズが生んだ逆異世界転生もの

ユートピア(2018)

監督:伊藤峻太
出演:松永祐佳、ミキ・クラーク、森郁月、高木万平、ウダタカキetc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

Mini Theater AIDのリターンであるサンクスシアターで一時期話題になったファンタジー映画『ユートピア』を観ました。本作は、下北沢にあるミニシアター・トリウッドが製作に入っており、なんと劇中で話される異世界の言葉ユートピア語は文法から作り上げるトールキンスタイルで構想7年製作5年の長い歳月かけて創造されている。インディーズ映画の力強さを感じる一本でした。

『ユートピア』あらすじ

童話「ハーメルンの笛吹き男」に着想を得て製作されたオリジナルのSFファンタジー。2006年に高校3年生で製作した「虹色★ロケット」が劇場公開され、DVD化もされた伊藤峻太監督が、同作以後、10年の歳月をかけて完成させた。ある夏の朝、まみが目を覚ますと外は雪が降っていた。さらに謎の少女ベアが現れ、電気や水などライフラインも途絶。混乱する中、まみは言葉の通じないベアになぜか懐かしさを覚え、惹かれていく。やがて、ベアが1284年にドイツのハーメルンで笛吹き男にさらわれた130人の子どものうちのひとりであることが判明。時を同じくして、東京から子どもたちの姿が少しずつ消え始め……。伊藤監督が脚本、編集、VFXなども担当し、劇中に登場するユートピア語も編み出し、世界観を作り上げた。

映画.comより引用

インディーズが生んだ
逆異世界転生もの

異世界転生ものといえば、大抵は現代社会で陰日向にいたものが突然死ぬなどしてファンタジー世界に飛ばされて人生の再起を図りがちである。本作は逆のことをしている。まず、そこが興味深い。

ある日、まみ(松永祐佳)が悪夢から目を覚まと、床に斧のようなものが刺さっている。恐る恐るベッドの上を見ると夢で見た女の子が寝ているではありませんか。むっくり女の子が起きると、何かを伝えようとしているのだが、英語でもない東欧系の謎の言語を話していて全く理解できない。通常、異世界転生ものでは都合よく言語の壁は解消されがちだ。あのリアル路線な「本好きの下克上」ですら、異世界の転生前の世界にない言葉だけ通じない設定にしているくらい言葉の問題は厄介なので御都合主義で処理されてしまう。

しかしながら、『ユートピア』では泥臭い会話の積み重ねで自己紹介する様子が捉えられている。「私の名前はベアです」とユートピア語でゆっくりと話す。そして自分を示しながら再度「ベア」と言うことで、自己紹介を行なっていることを表現する。そのルールを学習したまみが、同様の方法で日本語でまみと話し意思疎通を取る。

言葉が通じないので、その都度立ち止まってゆっくり伝えたいことを噛み砕いて話す。まみは、そもそも彼女が使っている言葉が何語か判断がつかないので、時折「Where?」と英語を織り交ぜる。その繰り返しにより、いつしか言葉が通じなくても心で通じるようになる。

海外留学すると、言葉の壁が少し解消された頃に訪れるソウル・トゥ・ソウルのコミュニケーションというものを本作では緻密に描いていたのだ。本編で描かれる2つの世界での軋みが混沌を生んでいく物語やインディーズにしては本格的なVFX以上にこの演出に心が奪われました。

VFXに関しては、ゼロ年代初頭の日本の大作映画っぽい古臭さがあってちょっと胃もたれするものがありましたが、映画に対する情熱が全編に渡って伝わってくる映画であり、これが現実の「映像研には手を出すな!」かと思いました。

※映画.comより画像引用

サンクスシアター関連記事

【 #サンクスシアター 1】『旧支配者のキャロル』撮るか撮られるか映画撮影は魔界の儀式
【 #サンクスシアター 2】『OUR CINEMAS』À la recherche du temps-cinéma perdu
【 #サンクスシアター 3】『螺旋銀河』Synonymを求めAntonymと対峙する
【 #サンクスシアター 4】『遭難フリーター』闇が生まれる瞬間を見た
【 #サンクスシアター 5】『ざくろ屋敷 バルザック『人間喜劇』より』:半過去のアニメ
【 #サンクスシアター 6】『豆大福ものがたり』豆大福が出馬!汚職に賄賂にてんやわんや!
【 #サンクスシアター 7 】『ウルフなシッシー』映画であることを諦めてしまっている

 

created by Rinker
ジェネオン ユニバーサル エンターテ
created by Rinker
パイ インターナショナル