【告知あり】『コントラ KONTORA』後ろ向きに歩く男と邂逅する少女ムシェット in JAPAN

コントラ KONTORA(2019)

監督:アンシュル・チョウハン
出演:円井わん、間瀬英正、山田太一、小島聖良、清水拓蔵etc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2021/3/20(土)より新宿K’s cinemaより公開される『コントラ KONTORA』を配給のリアリーライクフィルムズさんのご好意で観させていただきましたので感想を書いていきます。

『コントラ KONTORA』あらすじ

インド出身・日本在住のアンシュル・チョウハン監督が、日本の田舎町を舞台にモノクロ映像で撮りあげたファンタジックな人間ドラマ。女子高生のソラは父と2人で暮らしているが、父子関係は冷え切っていた。ある日、急死した祖父が遺した第2次世界大戦中の日記を見つけた彼女は、その中に宝の存在を示す記述を発見し、密かに宝探しを始める。時を同じくして、ソラの住む町に、無言で後ろ向きに歩くホームレスの男が現れる。ソラの父が男を車で轢いたことをきっかけに、ソラと男の不思議な交流が始まる。主演は「タイトル、拒絶」の円井わん。エストニアのタリン・ブラックナイト映画祭でグランプリと最優秀音楽賞、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭の国内コンペティション長編部門で優秀作品賞を受賞した。

※映画.comより引用

後ろ向きに歩く男と邂逅する
少女ムシェット in JAPAN

インド出身監督アンシュル・チョウハンが異郷日本において映画を撮り始めた。『東京不穏詩』では、女優の夢を抱いて上京してきたものの男の暴力によって無残にも破られた女が故郷に帰るのだが、そこにも居場所がなく苦しむ様子を描いた。驚いたことに良くも悪くも日本の典型的な閉塞感ものの質感を再現していて、アンシュル・チョウハン監督に惹かれた。

さて、そんな彼が放つ長編2作目は凡庸な日本閉塞感ものから一歩抜き出ることに成功している。

学校にも家にも居場所がなく、タバコを吸ったり酒を飲んだり、口答えしたり不良になろうとしているものの周囲はやんわりそれをスルーしてしまい生き地獄を感じている少女ソラ(円井わん)が、亡くなった祖父が遺した宝箱を手に入れる。そこの中には「鉄腕を埋める」というメッセージが書いてあり、彼女は非現実を求めて深淵の森で宝探しを始める。

一方その頃、町では後ろ向きに歩き続けるホームレス(間瀬英正)が出現する。車通りの多い道路をグルグルと回り始めたりと予測不能な動きをする彼に町人はドン引きする。案の定、自転車に轢かれたりするのだが、それでも後ろ向きに歩き続けるのだ。その二人が邂逅した時、物語は思わぬ方向に走り始める。

あらすじからして奇天烈な内容で、短編映画のような勢いがありますが、本作はなんと2時間半近くある。最初の1時間は、二つの物語が並列で描かれ、どのような話になるのか予想がつかないのだが、段々と本作がユニークなだけに留まらず普遍的な閉塞感のもがきを捉えようとしていることに気づく。さらには、大胆な内容で長尺にもかかわらず一切の無駄を許さない画の作り込みがされているのだ。

その力強さはロベール・ブレッソンの『少女ムシェット』をイメージせずにはいられない。家にも学校にも居場所がないムシェットが深淵の森で出会った密猟者と親密な関係になると思いきや、地獄の門を開いてしまう様子を冷たいノワールで包みこむ感じに近いものがあります。

また、本作における間瀬英正の演技が強烈なのも魅力的です。彼はほとんど話さないホームレスを演じているのですが、感情が爆発しそうなのをグッと堪える筋肉の強ばりや、この世のルールが欠如してしまっているが故に唐突に紙を食べ始めたり、止まって動いてを繰り返したりする様子、ソラと交流するうちに段々と感情が芽生えてくる姿の身体表象が素晴らしい。言葉を発さず、どこまで演技のグラデーションを深化させられるのかを徹底的に追求しており、それが映画に直接魅力を付加いき2時間半飽きることがありませんでした。

2021/3/20(土)より新宿K’s cinemaより公開なので是非挑戦してみてください。

【告知】劇場販売用パンフレットに寄稿しました

僭越ながら、この度『コントラ KONTORA』劇場販売用パンフレットに寄稿しました。STRAY BOMBS~迷える不発弾~」というタイトルで一度観ただけだと咀嚼しにくい本作にネタバレありで補助線を引きました。

2019年:ギャスパー・ノエ『CLIMAX/クライマックス』プレス寄稿
2020年:平林勇『SHELL and JOINT』監督note寄稿
2021年:『コントラ KONTORA』劇場販売用パンフレット寄稿

と着実に映画の伝道師として実績が積めて非常に嬉しいです。しかも、どれも唯一無二のユニークな作品について寄稿できているのでありがたい限りです。

私CHE BUNBUNにしかかけないインスピレーション掻き立てられる寄稿となってますので、是非劇場で手にとってみてください。

※リアリーライクフィルムズさんより画像提供

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