【MUBI】『CAT STICKS』人間ちゅ~る を追い求めて…

CAT STICKS(2019)

監督:Ronny Sen
出演:Tanmay Dhanania, Joyraj Bhattacharya, Sumeet Thakur etc

評価:99点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

「インド映画」というどういったイメージを浮かべるであろう?

豪華絢爛で、美男美女が歌い踊る、時に『ロボット』や『マッキー』のような狂ったVFXが観られる…そう感じる人は少なくないであろう。インドは世界有数の映画大国で、1年で作られる映画の本数は世界最大と言われる。それだけに日本に入ってくるインド映画は厳選された氷山の一角である。これは世界から見ても同様で、米国iTunesで配信されるインド映画の多くは「豪華絢爛で歌って踊る」伝統的なものとなっている。ただ、この10年、インド映画界はそういったステレオタイプのイメージから脱却しようとする動きがある。いや言い方を変えれば、世界中が踊らない歌わないインド映画を発見し始めたのだ。弁当を通じて孤独な男の人生に一変化が訪れる『めぐり逢わせのお弁当(2013)』、映画監督を目指しリクシャー(インドのタクシー)のドキュメンタリーを撮っていくうちに狂気にかられていく『リクシャー(2016)』、そして近年ヴェネツィア国際映画祭で頭角を表しているチャイタニヤ・タームハネーの登場(『裁き(2014)』、『The Disciple(2020)』)と着実に力をつけている。さて、今回MUBIのインド映画特集「A JOURNEY INTO INDIAN CINEMA」で配信された傑作『CAT STICKS』について語っていきます。

『CAT STICKS』あらすじ


On a rainy night in Calcutta a group of desperate addicts chase brown sugar, but the permanent intoxication they seek proves elusive. Cat Sticks weaves their stories into a chiaroscuro, traverses with them through states high and low, spaces real and unreal. A relentless downpour plays backdrop to lives balanced on a precarious high. Some of them seek a release, while others do not seem to want the night to end.
訳:カルカッタの雨の夜、黒砂糖を追いかけていた中毒者たちのグループは必死になってヤクを追いかけていたが、彼らが求める恒久的な酩酊感は得られなかった。Cat Sticksは、彼らの物語を明暗のコントラストの中に織り込み、彼らと一緒に高低差のある状態、現実と非現実の空間を行き来する。容赦ない土砂降りの雨が、不安定な高みにバランスのとれた生活の背景を演じている。彼らの中には解放を求める者もいれば、夜が終わることを望んでいない者もいる。
IMDbより引用

人間ちゅ~る を追い求めて…

『シン・シティ』を彷彿とさせる重厚で荒々しいオープニングタイトルが観る者の胸ぐらを掴み、混沌のインドへと放り込む。ザーザーと豪雨が覆うい、雷の閃光が画面を照らす。そこには大きな朽ち果てた飛行機が放置されており、そこへ男がやってくる。ここはジャンキーの寝床だ。ジャンキーたちは、薬物でハイになる。そして、生気を失ったかのようにぐったりとする。イチモツのところから懐中電灯を照らし、陰影を照らす馬鹿げているシーンですら、カッコ良く見える。そうです、この映画はインドのジャンキーの放浪という他愛もない話を1秒たりとも無駄のない耽美的ショットで紡ぎ出す作品なのだ。ジャンキー映画にありがちなサイケデリックな描写はない。あるのは強固な白黒に叩きつけられる雨と暴力、それを照らす煙に光だ。汚く退廃した土地をクールに捉える演出はフィリピンのラヴ・ディアスが得意としているが、あれとは違う。ここには音楽がある。えっ音楽?他のインド映画と変わらないのでは?いいえ、ここで使われる音楽はロックだ!伝統的な民族音楽ではない、ロックの劈くような音色がモノクロームの世界を引き裂いて見せるのです。

そして、固定カメラで「遠く」と「近く」のショットを手繰り寄せ、スローモーションを使うことでドラッグのトランス状態を表現していく。例えば、男が洗面所で闘う場面では、ヌルッとした官能的な水の動きを捉えてから、バシャッと標的に被せる。同性愛者の男がドラッグを注入する場面では、まるで社交ダンスのように、手を取り合い、肉体的関係から、ドラッグの高揚感へと結びつけ、陰翳礼讃、暗夜に煌めく光の中で微かな同性愛者の幸運なひと時が紡がれる。

このようなアクションを多用し、一方で大学の話等他愛もない会話でアイデンティティを保とうとするものの「ドラッグを追い求めるだけのゾンビ」となってしまう虚無を対比させることで、インドアンダーグラウンドで生きる者の絶望を汲み取っている。

HIGH ON FILMSでの監督インタビューによれば、インドではボンベイやデリーに仕事が集中しており、コルカタには仕事がないとのこと。そして監督はこの土地に囚われており、街を離れることができないとのこと。そんな監督の精神的もどかしさが、本作のジェンキーたちが大学や都会についてどこか羨望の眼差しを抱きながら語る描写に繋がっているといえよう。

監督デビュー作にはその人の人生の全てが刻まれるとよく言うが、まさしく『CAT STICKS』はRonny Senの魂が凝縮された一本と言えよう。

荒削りではあるが全力で支持したい、この才能は注目していきたい。

※New Indian Expressより画像引用

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