【東京フィルメックス】『無聲(むせい)』加害者も実は被害者で

無聲(2020)
The Silent Forest

監督:コー・チェンニエン
出演:ツー・チュアン・リュー、Buffy Chen、Kuan-Ting Liu、ヤン・グイメイ、タイ・ポーetc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第21回東京フィルメックスで話題だった『無聲』を遅ればせながらオンライン配信で観賞しました。台湾の聾唖学校で起きた実際の映画化ということで観たのですが、思いの外エンターテイメント寄りに作られていました。

『無聲』あらすじ


聾唖学校に転校してきた少年がスクールバスである“ゲーム”を目撃する。それは彼がその後目にする残酷な現実の序章に過ぎなかった……。台湾で実際に起こった事件を元にしたコー・チェンニエンの監督デビュー作。台北映画祭でオープニング作品として上映された。
※東京フィルメックスサイトより引用

加害者も実は被害者で

聾唖学校に転校してきた少年Chang Cheng(ツー・チュアン・リュー)は、可愛い女の子Bei Bei(Buffy Chen)と親密な関係となり良い学園生活が送れそうであった。しかしある夜、先輩に連行され暴力を振るわれてしまう。そしてBei Beiはレイプまがいのことをされていることを知る。「先生に言おう」と訴えるChang Chengだが、Bei Beiは調和が乱れると言い、その申し出を断る。そんな反対を押し切って、彼は先生に報告する。学校には組織的問題がある。学校サイドとしてはいじめがあることを外に知られると評判が落ちてしまうから隠したいのだ。正義感の強い先生は、なんとか組織を動かし、関係者を呼び出して事情聴取をするのだが、驚くべきごとに数百件にも及ぶイジメやレイプ、パワハラが横行していたのだ。一方で、先生にチクったことが原因でChang Chengは袋叩きに遭う。

「お前のせいで尋問されたじゃねぇか。」

実はこの聾唖学校ではもはや暴力が歴史的循環となっており、被害者は加害者となる運命にあったのだ。Chang Chengをイジメたアイツですら過去に暴力の被害にあっていたのだ。これは決して聾唖学校のマニアックなケースでないことはお分りいただけただろうか。日本の教育現場ですら、「イジメはありません」という言葉の下に暴力が隠されてしまっていることが日常茶飯事となっている。そして、加害者/被害者の関係が複雑になってくると、被害者が告発した段階で、他の被害者からの暴力を受ける危険性があるのだ。日本の映画業界がアップリンク、ユジクと次々にパワハラが告発されても結局ネガティブな示談で終わったり、黙殺による風化で終わってしまったりする。恐らくは、こういったメカニズムがあるのだろう。

話を戻すと、こういったハードな内容を重々しいシリアスドラマとしてではなくエンターテイメント、ある種のサスペンスとして手慣れた手つきで描いたコー・チェンニエンの手腕を大いに評価したい。監督デビュー作とは思えない、実際の暴力をあえて映さず観客の想像力に恐怖を委ねる手法や、『アベンジャーズ』デートという甘い描写が突然悲劇に変わる瞬間など。青春映画としての甘酸っぱさの狭間に事件の凄惨さを潜ませていくヒット&アウェイ演出が鋭かった作品と言えよう。

とはいえ、どうしても手話映画の傑作『ザ・トライブ』と比べると見劣りする部分が多いのですがね。

※東京フィルメックスサイトより画像引用

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