【東京フィルメックス】『死ぬ間際』男、逃げた。

死ぬ間際(2020)
原題:Sepelenmis Ölümler Arasinda
英題:In Between Dying

監督:ヒラル・バイダロフ
出演:Orkhan Iskandarli,Rana Asgarova,Huseyn Nasirov etc

評価:99点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第21回東京フィルメックス最優秀賞作品賞に輝いたアゼルバイジャン映画『死ぬ間際』。ドキュメンタリー監督であるヒラル・バイダロフ初の長編劇映画にしてヴェネチア国際映画祭コンペティション選出に続いての快挙。観た人が、口々にヤバいものを観たと語る本作をオンライン上映で観ました。

『死ぬ間際』あらすじ


タル・ベーラの薫陶を受けたアゼルバイジャンの新鋭ヒラル・バイダロフの長編劇映画第2作。行く先々で死の影に追われる主人公の一日の旅を荒涼たる中央アジアの風景を背景に描き、見る者に様々な謎を投げかける。ヴェネチア映画祭コンペティションで上映。
※東京フィルメックスサイトより引用

男、逃げた。

陽光と霧が織りなす幻影空間を男が歩いていく。幽霊のように。100の扉があって男が変わった開け方をするとどうこうといった哲学的な小話から始まる本作は、これだけで他のフィルメックスコンペティション作品との格の違いを表明する。男は麻薬密売の元締めを殺すわけだが、丘の上の墓場を固定カメラで撮る。その豊穣な土地を活用とした人の動きに魅了される。

そして男は逃げる。ひたすら逃げる。ただ、男には死神としての磁場が流れており、いく先々で出会う女性は死んでしまう。女は顔を知らぬ男と結婚し、男は戦争に駆り出されてそのままいなくなるのだが、そこに愛はあるのか?愛なき結婚がもたらす搾取について語って亡くなっていく。そしていつしか男を追跡するヤクザですら消滅してしまう。男は霊的存在となる一方で、愛を渇望する。彼は対話を求めるのだが、それは叶うことはない。

通常死神的描写として安易にイングマール・ベルイマン『第七の封印』をオマージュしがちである。しかし。ヒラル・バイダロフはアゼルバイジャンの土地が持つ、この世のものとは思えない独特な土地を活用し、生と死の狭間をじっくりじっくりと捉えていく。花嫁とバイクに乗って走っていたのに、突然男は「降りろ!」と言う。そして道から外れ、草原に入っていく。霧がドンドンと濃くなっていく、男は死神として死の世界に入り、またバイクのある方向=現世に戻っていく。この長回しが持つ説得力。死が限りなく近くにある世界の説得力が素晴らしい。

正直、難解でよくわからない映画ではある。挿話が切り替わる際に挿入される死神と狂犬病の女のエピソードは何を意味しているのかなんてことはよくわからない。しかしながら、本作は映画という魔法に満ちた作品であり、この世のものとは思えない衝撃がある。芸術が持つ人智を超えた存在に触れる快感があったのだ。

ヒラル・バイダロフ、アゼルバイジャンのヒラル・バイダロフ、今後期待したい監督である。

岩波ホールかどこかで日本公開されることを祈りたい。

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