【ネタバレ考察】『ブレイブ 群青戦記』高校生よこれは戦争だ!死と隣り合わせなのだ!

ブレイブ 群青戦記(2021)

監督:本広克行
出演:新田真剣佑(真剣佑)、三浦春馬、山崎紘菜、松山ケンイチ、鈴木伸之etc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

昨年末、友人から「『ブレイブ 群青戦記』観に行こうぜ!」と誘われた。予告編を観ると、高校生が戦国時代にタイムスリップして、各部活の特技を活かして織田信長を倒す内容だそうだ。高校生が文化祭でやりそうなテーマなのですが、どうも漫画原作ものらしい。監督は当たり外れが大きい本広克行(『亜人』、『踊る大捜査線』シリーズ)。大丈夫なのだろうか?ただ、日本映画界の大衆映画監督の中では比較的、内輪に逃げず観客の方を向いている監督なのでワンチャンあるのかもしれない。不安と期待を抱えながら観たのですが、これが大傑作でありました。今回はネタバレありで書いて行きます。

『ブレイブ 群青戦記』あらすじ

集英社「週刊ヤングジャンプ」で連載された笠原真樹原作の人気コミック「群青戦記」を、「踊る大捜査線」シリーズの本広克行監督が実写映画化。新田真剣佑が単独初主演を飾るほか、三浦春馬、松山ケンイチら実力派キャストが集う。スポーツ名門校で弓道部に所属する西野蒼は目立つことが苦手で、弓道場で練習に打ち込むばかりの日々を送っていた。幼なじみの瀬野遥は、そんな蒼のことを心配している。ある日、1本の雷が校庭に落ちた直後、突如として校庭の向こうに城が出現、校内には刀を持った野武士たちがなだれ込んでくる。全校生徒がパニックに陥る中、歴史マニアの蒼は、学校がまるごと戦国時代、しかも“桶狭間の戦い”の直前にタイムスリップしてしまったことに気づく。織田信長の軍勢に友人たちを連れ去られた蒼は、後に徳川家康となって天下統一を果たす松平元康と手を組み、野球部やアメフト部の選抜メンバーたちと共に立ち上がるが……。主人公を導く松平元康(後の徳川家康)を三浦、彼らの前に立ちはだかる織田信長を松山がそれぞれ演じる。

※映画.comより引用

高校生よこれは戦争だ!
死と隣り合わせなのだ!

大衆映画とyoutube動画は似ていると思う。それは、大衆が考えることはできても実行に移せないことをやってみせることにある。人々の夢を、財力や人脈、技術力で叶える。そこが重要だ。

大衆映画の場合、中高生が学園祭でやりそうな出オチ一発芸のような作品をいかに学園祭レベルから大手の映画に昇華させられるのかが肝となってくる。しかし、多くの場合で内輪のノリに逃げてしまい、金がかかった学園祭に留まってしまう。

さて、『ブレイブ 群青戦記』はどうか?明らかに学園祭の出し物同然なプロットであるが、その一発芸的面白さに傲慢になることなく徹頭徹尾アクションを畳み掛ける作品に仕上がっていた。

冒頭、よくある大衆映画にありがちな長い前置きを大幅にショートカットして、タイムスリップを強制発動させる。そして高校生の前に、落ち武者のような軍団が右から左から雪崩のように押し寄せて来て、高校生を皆殺しにする。そうです、時は戦国時代だ。情け無用弱肉強食の世界。高校生という安全圏は存在しない。原作はどうかわかりませんが、ここで本広克行は部活動を映画的に魅せるオーディションを開始する。映画として描いた際に、学校の華である野球部やサッカー部といった球技は魅力的に映すことが難しい。そこでサッカー部を無惨に抹殺する。そして野球部を球技担当として採用する。野球部にはボールとバットがある。これで戦ってもらうことにする。そして、格闘技系を硬め、その中心に科学部を配置することで文化系要素を追加するのだ。武器として映えないテニス部は潔く留守番させ、現代に戻るための装置作りの要員として動かす。

最終的に織田信長の城にカチコミにいく集団の部活構成はかなり偏りがあるのですが、冒頭の殺戮シーンで多様な部活を提示しながら、あらゆる角度で抹殺していくことでその違和感を緩和させている。

そして、このアクションがまるでジョン・フォードの映画『静かなる男』を観ているかのように美しい。わちゃわちゃしているのだが、統率が取れているのだ。森から体育会系軍団がゾロゾロと現れ、スクラムを組む場面。戦が小休止に入り、皆でおむすびを頬張りながら親の飯を語り合う場面、役者の個性的な表情の配置もあって様になる。短い時間の出来事にもかかわらず、第二次世界大戦で何ヶ月も戦いを共にした同士の絆が空間から滲み出てくるのだ。

そして、織田信長軍との交戦が始まれば、集団対集団から個対個のアクションへシームレスに移ろいゆく。アメフト部が武器を持った軍勢に神風体当たりをかまし、その横では野球部がボールを投げつける。

剣道部や格闘技系の部活が肉弾戦をしている狭間から弓道部の矢が敵を貫く。『バトル・ロワイアル』さながら、極限状態に陥った高校生はもはや死すら恐れず、容赦無く軍勢を抹殺していく。戦争とはそういうものだという深作欣二の哲学がポップながらも継承されている。

だから、誰が死ぬのか、重傷を負うのかが全く読めないのです。

そして何を隠そう、三浦春馬演じる松平元康の演技がカッコいい。高校生たちを囮に織田信長の城へ攻めさせる。そして、戦局が終盤になった時に彼が現れる。頭脳明晰な囮作戦であったが、彼も重要局面では先陣を切って戦うのだ。高校生軍団は混沌の中でがむしゃらに戦っているのに対して、松平元康からは圧倒的なオーラ。迷い一つないまっすぐな目が光る。そんな彼ですら、戦火では簡単に死ぬ。そこに人間味がある。

『バトル・ロワイアル』が通俗なデスゲームものにみえて、シビアな戦争映画だったのと同様、『ブレイブ 群青戦記』も本物の戦いを描いている。そして、本作には無数の粗やツッコミポイントがあるのだが、それに対する凄惨な戦争描写とのアンバランスさが映画をスパイシーに仕上げていて、個人的に大満足でした。

また嬉しかったポイントとしてTOHOシネマズのお姉さん・山崎紘菜が大活躍していたことにある。山崎紘菜はTOHOシネマズのイメージが強くなりすぎたのと、セルフブランディングに失敗してなかなか映画の中で輝くことがなかった。確かに、この映画でも役というよりかは山崎紘菜を演じてしまっているところはあるものの、極限状態における決断のヒリヒリした感情を表現するのに成功していたと思う。

というわけで私はこの映画を大いに評価したい。

P.S.『ブレイブ 群青戦記』で圧倒的成長を遂げた新田真剣佑こと西野蒼は後に雪代縁として緋村剣心に立ち向かう訳ですな。

※映画.comより画像引用