【東京国際映画祭】『ヴェラは海の夢を見る』身体と言葉を繋ぐ者ですら

ヴェラは海の夢を見る(2021)
原題:Vera Andrron Detin
英題:Vera Dreams of the Sea

評価:25点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

済藤鉄腸さん( @GregariousGoGo )さんがコソボ映画が熱いと語っており、自分も『EXIL』でコソボ映画の魅力に惹かれていたが、まさか第34回東京国際映画祭コンペティション部門にコソボ映画が選出されグランプリを受賞するとは思いもよらなかった。これは嬉しいと思う一方で、肝心な中身は私の苦手盛りだくさんな映画であった。

『ヴェラは海の夢を見る』あらすじ

夫の突然の自殺の後、ヴェラは家がギャンブルの借金の抵当になっていたことを知らされる。男性優位の環境に抵抗する女性を力強く描いたコソボの女性監督のデビュー作。

※第34回東京国際映画祭サイトより引用

身体と言葉を繋ぐ者ですら

手話通訳者のヴェラ。彼女に次々と苦難が押し寄せてくる。夫の自殺、抵当にかけられる家、そして男性によって抑圧される重圧。果たして彼女に明日はあるのだろうか?

観ていて、日本映画にありがちな不幸を並べ共感を誘うタイプに映画に見えた。撮影/演出の面で光る場面は確かにある。夫を呼びに行き、扉に入るヴェラが、感情を抑えようとして抑えきれずどうしようもない表情で、足から崩れ落ちるように出てくる描写で夫の死を表現したり、聾唖者が手話で会話するカフェの中、大音量で証拠動画を突きつけるが周囲にことの深刻さが伝わらない空間の不気味さは興味深いものがある。

しかし、折角手話通訳者という言葉から身体へ、身体から言葉へ翻訳する者を主人公にしているにもかかわらず、その関係性と閉塞感とか交わっているように見えず、ただ「私辛いです」を並べているだけにしか見えなかったのが残念であった。恐らく、言葉と身体を繋ぐ者ですら社会に潰されてしまうことを表現する為に手話要素を敢えて活かしてないのだろうけれど、だったら映画の要素に組み込む必要性がない。

だったら、パワハラ被害者が家ではモラハラを繰り広げてしまう抑圧を悪夢的描写に包んだ『EXIL』がコンペティションに選ばれてほしかったなと思った(まあ、2020年の作品だから無理筋ではあるが)。

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※第34回東京国際映画祭サイトより画像引用