『EXILE』会社でのハラスメントは家庭にまで持ち込まれ…

EXILE(2020)
Exil

監督:Visar Morina
出演:ミシェル・マティチェヴィッチ、サンドラ・フラー、ライナー・ボック、トーマス・ムラーツ、Flonja Kodheli etc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

映画ライターの済藤鉄腸さん(@GregariousGoGo)がコソボ映画が熱いと少し前に語っていた。彼がオススメしていた『EXIL』という作品を探していたら、トルコのMUBIで見つけたので早速観てみました。

『EXILE』あらすじ

EXIL tells the story of a chemical engineer of foreign origin who feels discriminated and bullied at work, plunging him into an identity crisis.
訳:EXILは、職場で差別やいじめを受け、アイデンティティの危機に陥った外国人の化学エンジニアの物語です。

imdbより引用

会社でのハラスメントは家庭にまで持ち込まれ…

昨今、「ハラスメント」という言葉が一般常識として定着してきた。日本でも、最近は企業でハラスメント講習が行われるほど大きな問題となっている。だが、実際のところどうだろうか?本作は、表面化しにくい嫌がらせについての映画である。

化学プラントで働く技術者のXhafer(Misel Maticevic)は、会議室につくが20分経っても会議が始まらず困惑する。どうやら知らない間に会議室が変更になっていたらしい。これで2回目だ。同僚のUrs(Rainer Bock)は最近おかしい。自分と目を合わせようとせず避けている気がするのだ。それは段々とエスカレートしていき、必要な血液テストのデータを中々渡してくれず仕事に支障を来たし始める。

一方で、家庭でも不可解なことが起こる。家の前でベビーカーが燃える放火事件が発生するのだ。彼はコソボからの移民である。通報を聞きつけやってきた警察からは小馬鹿にされる。小さな嫌らしい差別が自分を苦しめているのではと思い始めるのだ。

コソボからドイツに移り住んだVisar Morina監督が8年もの歳月をかけて描いた本作は、表面化しない嫌がらせをこれでもかと刺してくる作品である。そして、そのハラスメントが単なる加害者/被害者の構造にとどまることを回避することにより、事態の深刻さを物語っている。

まずXhaferに対するハラスメント描写だ。彼が段々と、声を荒げ始めているのを同僚達は気にする。そして、会議の場で議長が「我々は団結しなければならない、君の出身はどこかね?えっクロアチアだっけ?」と露骨に出身国を間違えたり(コソボの立ち位置こそ分からないが、日本人に例えると、フランス人に中国人と間違えられるみたいな居心地の悪さだろう)、その直後にUrsが延々とXhaferに向かって拍手して嫌味を突きつける。このシーンの空間造形が、Xhaferを拒絶するような構造になっていて印象的だ。

そして重要なのは、Xhaferは家では妻にモラルハラスメントを働いているということだ。肉体を交えるときの暴力的な仕草による力関係の誇示はもちろん、警察にサインをしないと言い喧嘩したことに対して妻が物申すとブチギレ始める。常にピリピリしていて、妻に当たり散らしているのだ。よくよく映画を観ると、会社の受付の女性に対して横暴な態度を取っていることにも気づくでしょう。

抑圧の発散の対象が自分より弱い女性や家族へ無意識に向かってしまうのだ。

どうでしょうか?本作はドイツとコソボの関係を描いただけの映画でしょうか?モラルハラスメントが日本でも問題視されているので、劇場公開は難しいにしても映画祭で上映されないかなと私は期待しています。

※imdbより画像引用