【ネタバレ】『サマーフィルムにのって』高解像度の時代劇/低解像度の青春キラキラ映画

サマーフィルムにのって(2020)

監督:松本壮史
出演:伊藤万理華、金子大地、河合優実、祷キララ、板橋駿谷、甲田まひる、ゆうたろう、小日向星一、池田永吉、篠田諒etc

評価:45点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

映画仲間が2020年のベスト映画に挙げていた青春映画『サマーフィルムにのって』を観てきました。映画を作る方の「映像研には手を出すな!」としてかなり期待していたのですが、正直問題が多い映画でした。

『サマーフィルムにのって』あらすじ

元「乃木坂46」の伊藤万理華が主演を務め、時代劇オタクの女子高生が映画制作に挑む姿を、SF要素を織り交ぜながら描いた青春ストーリー。同じく伊藤主演のテレビドラマ「ガールはフレンド」を手がけた松本壮史監督が伊藤と再タッグを組み、長編映画初メガホンをとった。高校3年生ハダシは時代劇映画が大好きだが、所属する映画部で作るのはキラキラとした青春映画ばかり。自分の撮りたい時代劇がなかなか作れずくすぶっていたハダシの前に、武士役にぴったりの理想的な男子、凛太郎が現れる。彼との出会いに運命を感じたハダシは、幼なじみのビート板とブルーハワイを巻き込み、個性豊かなスタッフを集めて映画制作に乗り出す。文化祭での上映を目指して順調に制作を進めていくハダシたちだったが、実は凛太郎の正体は未来からタイムトラベルしてきた未来人で……。主人公ハダシを伊藤が演じるほか、凛太郎に金子大地、ビート板に河合優実、ブルーハワイに祷キララとフレッシュなキャストがそろった。

映画.comより引用

高解像度の時代劇/低解像度の青春キラキラ映画


時代劇好きなハダシ(伊藤万理華)が青春キラキラ映画にうつつ抜かす映画研究会にゲンナリしている中、友人の背中押し、そして映画館で自分の映画にふさわしい人と邂逅し、本格時代劇を作る。



勝新太郎や市川雷蔵の演技に対して愛情たっぷりに語り、『ブレックファスト・クラブ』さながら、部活の垣根を超えて映画を作っていく青春の眩さ。そしてスマホやドローンを使って柔軟に撮影する高校生ならではの雰囲気の表現は魅力的であった。伊藤万理華の演技は「映像研には手を出すな!」の浅草氏さながらのコミカルさがあって、彼女の演技には惚れるものがあった。

しかしながら、その時代劇に対する解像度の高さが仇となってしまっていた。というのも、本作は愛を叫んでしかいない青春キラキラ映画に対して憎悪を向けているわけだが、肝心な青春キラキラ映画に対する解像度が低すぎた。単に低いのならまだしも、松本壮史監督と共同脚本家の三浦直之はテクニックを持っているので、余計にたちが悪い。映画が進むと、ライバルの花鈴(甲田まひる)とハダシが編集の息抜きに青春キラキラ映画を一緒に観る場面がある。

花鈴はただのチャラい陽キャラに見えて、実は青春キラキラ映画に対して熱い哲学を持っていることがわかり、その熱量によって和解する。それだけ青春キラキラ映画に熱量あるのであれば『黒崎くんの言いなりになんてならない』の壁ドン演出がどうとか具体的な作品名を挙げて議論すべきなのだが、それがなく全くもってフェアじゃない。監督の青春キラキラ映画に対する解像度の低さが際立ってしまうのだ。

そう思ってくると、この映画のハッタリが薄っぺらいものに感じてくる。未来では人々は時間がなくなり1分でも長編の映画になっている。とSF要素を入れてくるが、果たしてこの映画にSF要素は必要だったのだろうか?はたまた、レールを敷いているが移動撮影の場面を画に収めないのはどういうことか?と思えてきてしまう。

そして極め付けは最期。花鈴とハダシの文化祭映画対決で、ハダシはこともあろうか最後の場面で映画を止めてしまう。そして、舞台上で即興で映画を撮り始めるのだ。これはギミック映画の巨匠ウィリアム・キャッスルでもやらないだろう。それはもう映画ではなく演劇だからだ。

だからこそ、本作は演劇で観たかった。実際の映画製作をより舞台上という虚構で生み出す演劇。観客を共犯関係に導き、まさしく文化祭の観客と一緒に映画を完成させる。あのラストは演劇的ハッタリであって映画でやるべきではなかったであろう。

伊藤万理華の演技や祷キララの「恋」に恋をしている演技の良さもあり楽しかったけれども映画としてはダメダメだったなと感じた。

※映画.comより画像引用