【OAFF2021】『こことよそ』対話不全のコロナ禍において

こことよそ(2021)
Dito at Doon

監督:JPハバック
出演:ジャニーン・グッチェーレス、JC サントス、ヴィクター・アナスタシオ、イェッシュ・ブルセ、ロトロト・デ・レオンetc

評価:85

おはようございます、チェ・ブンブンです。

16回大阪アジアン映画祭でフィリピンのコロナ映画『こことよそ』を観ました。2020年からパンデミックとなり、今も続いているコロナ禍。世界でもコロナ時代をどのように映画に落とし込むか悩んでいる時期である。そしてベルリン国際映画祭でラドゥ・ジュデ監督の『Bad Luck Banging or Loony Porn』が受賞したことからも映画関係者の関心の高さが伺える。さて『こことよそ』はどんな作品なんでしょうか?

『こことよそ』あらすじ

コロナ禍で外出が規制され、四六時中、自宅で過ごす女子大生のレン。病院で働き詰める看護師の母との会話もままならないなか、友達とオンラインでつながる時間が唯一の気晴らしになっていた。ある日、リモ飲みで紹介されたイケメンにキュンとするが、その朝、レンのSNSの投稿に噛みついてきた男性だと分かり

リモート・ラブにどっぷりはまるレンを好演するのは、『女と銃』OAFF2020)でフィリピンのアカデミー賞ことFAMAS賞の最優秀主演女優賞を手にし、表現者の厚みを増すジャニーン・グッチェーレス。母親役のベテラン女優とは実の親子で、恋のお相手も『女と銃』で共演したJCサントスという、安定感のある布陣だ。

厳格なロックダウン中のマニラを舞台にしているため、レンの登場シーンのほとんどが家の中だが、オンラインとオフラインの描写をスクリーン上でうまく融合させ、若い男女の繊細な心模様をビビッドに演出できているのは本作の魅力だろう。多彩で秀逸なインディーズ作品を次々と製作・配給するTBAスタジオとJPハバック監督がタッグを組むのは、長編デビュー作“I’m Drunk, I Love You”2017)に続いて2度目。今、最も旬な俳優、監督、映画会社の3拍子が揃った本作をお見逃しなく。

16回大阪アジアン映画祭より引用

対話不全のコロナ禍において

2020年初頭、まだ世界的に深淵なる闇しか見えてなかった頃、世界中でロックダウンが勃発し、リモートワークやオンライン飲み会といった新しい生活様式に適用せざる得ない状況となった。何日も、何ヶ月も外出規制が続く中、人々の心は閉塞感に蝕まれ余裕がなくなってきた。それはSNSに顕著に表れ、通常であれば無視すべきクソリプに暴力的な言葉で返したり、他人にとっては正しいことに対して自分の正論をぶつけるなど、コミュニケーションにおける間合いが取れない人が増えてしまった。

そんな状況を一見ぬるいラブコメにみせかけて辛辣に描いたのがこの『こことよそ』だ。ロックダウン中のマニラ。主人公のレンは病院で働く母が心配である。自分は厳格にロックダウンを守っているのに街を安易に出歩く人が許せない。そんな思いをSNSで呟いたら、「外に行かないといけない人もいる」と噛み付かれた。激しい口論を繰り広げ、ひとまず論破したことに満足したレン出会ったが、オンライン飲み会でその噛み付いた男と再会してしまう。最初は啀み合う二人だったが、レンは次第に彼のことが気になり始める。

こういう内容なので、コロナに対する自分の価値観によっては女/男どちらにも感情移入できずフラストレーション溜まることでしょう。ヒロインのレンは所謂、自分が我慢していることを他人に強要するタイプの人だ。母親がコロナと隣り合わせで生きているため、自分は厳格にロックダウンを守っている。それだけにSNSで遊び呆けている人たちが許せないのだ。それで自分の正義に溺れ、他者の自由を奪ってしまっている。

一方で彼女のSNSに噛み付いたカロイは、コロナ禍でも仕事をしないといけない人であり、過激な自粛警察には疑問を抱いている。ただ、彼はリモートによるコミュニケーションの距離感が下手で、しつこいぐらいに謝ってきたり、妙なタイミングで電話する。マスクなしの自撮り写真を送ってきたりするのだ。リモートにより、様々な人と接することができるが、それは表面的であり、何故彼/彼女があのような発言をしたのかまで考えが及んでいない。それがヒリヒリした軋轢を生み出しており、生々しさを感じる。

また、この映画では面白い技法が使われている。オンライン飲み会が始まったり、電話をするシーンになると、登場人物が一堂に会するのだ。これはリモートが主流になり、場所の概念がなくなりつつある今を象徴している。5年前だったら前衛的すぎて受け入れられなかった技法が自然な形で盛り込まれているのが興味深かった。

日本公開は厳しい映画だと思うが、個人的には第16回大阪アジアン映画祭トップクラスに面白い作品でした。