【OAFF2021】『いとみち』メイドと三味線の不思議なマリアージュ

いとみち(2020)

監督:横浜聡子
出演:駒井蓮、豊川悦司、黒川芽以、横田真悠、中島歩、古坂大魔王、宇野祥平etc

評価:40点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

16回大阪アジアン映画祭で横浜聡子監督作『いとみち』を観ました。横浜聡子監督といえば『ウルトラミラクルラブストーリー』や『俳優 亀岡拓次』といった変わった作品を作るイメージがある。今回の『いとみち』は青森のご当地映画となっており、セリフの大半が津軽弁となっている意欲作である。

『いとみち』あらすじ

主人公の相馬いとは、津軽三味線が得意な青森・弘前市の高校生。三味線を弾く時に爪にできる糸道に名前の由来を持つ。強い津軽訛りにコンプレックスを持ち話すことが苦手で友人も少ないが、芯はじょっぱり(意地っ張り)。一大決心をして津軽メイド珈琲店でのアルバイトを始めたことをきっかけに、祖母、父、バイト仲間たちに励まされ、16歳のいとは成長していく。

思春期の少女の葛藤を核に、津軽三味線が紡ぐ三世代家族を描いた人間ドラマ。駒井蓮と豊川悦司が父娘役を演じる、待望の横浜聡子監督最新作。

16回大阪アジアン映画祭サイトより引用

メイドと三味線の不思議な
マリアージュ

本作はヒロインいと(駒井蓮)が全編津軽弁で話す関係で、日本映画でありながら何を話しているのかが非常に分かりにくい作品となっている。大阪アジアン映画祭では英語字幕がついていたものの、劇場公開時では字幕はつかないと思われるので、語尾をはっきりと語らない、いとの意図を汲み取ることが重要になってくる。本作は、津軽弁にコンプレックスを持つ少女がバーバルコミュニケーションとノンバーバルコミュニケーションの狭間で折衷を図りアイデンティティを確立して行くまでを描いている。ポスタービジュアルから、よくある町興しものかと思うかもしれませんが、テーマに対する鋭い視線が感じられる。

いとは津軽弁のせいで学校で笑い者にされている。青森の人も東京からすればかなり訛っているのですが、いとの津軽弁はもはや何語か理解するのが困難な程。だから学校ではなるべく話さないようにしている。そんな彼女は三味線の才能がある。家族から三味線の腕を磨くことを期待しているのだが、三味線(=ノンバーバル)で自己表現したくないと考えている。そこで彼女は一念発起して、メイド喫茶でアルバイトすることを決める。

青森にある小さな小さなメイド喫茶で働くことになるのだが、そう簡単に津軽弁は直らない。そして津軽弁が出ることを抑え込もうとするばかりに、ぎこちない動きをするのだ。

本作はコメディとして撮られていながらも、話すことにコンプレックスを抱きつつも、バーバルコミュニケーションを身につけなりたい自分になろうとする者が、得意なノンバーバルコミュニケーションとどう向き合うかを辛辣に描いている。だから、三味線とメイドが重なる瞬間は極度に抑えられている。それが本作における弱点にも繋がっていて、コミュニケーションのグラデーションを描いて置きながらも、水と油のごとく三味線とメイドが反発して配置されてしまっているのが気になってしまった。これにより彼女の三味線の才能が分かりにくくなってしまい、物語上重要な要素でありながらも単に青森紹介の為の駒に終わってしまった感じが否めません。

今回の横浜聡子監督は、攻め切れていないように思いました。

※映画.comより画像引用