『I Was a Simple Man』ハワイ、死の淵に立つ

I Was a Simple Man(2021)

監督:クリストファー・マコト・ヨギ
出演:スティーヴ・イワモト、コンスタンス・ウー、ティム・チョウ、カノア・グー、ネルソン・リー、Chanel Akiko Hirai、Hau’oli Carr etc

評価:55点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

2021年の映画ベストを決めるために最後の追い込みを行っている。ハワイを舞台にしたアピチャートポン・ウィーラセータクン映画のような世界観の作品『I Was a Simple Man』を観ました。ハワイ・ホノルル出身のクリストファー・マコト・ヨギ監督は2018年に発表したデビュー作『August at Akiko’s』で注目を受ける。本作は音楽家であるアレックスが幼い頃の記憶だけを頼りに、先祖の家を探す映画である。過去には『お化け(Obake)』という作品を発表しており、日本ともゆかりがある監督とのこと。そんな彼の『I Was a Simple Man』は不思議な映画であった。

『I Was a Simple Man』あらすじ

A family in Hawai’i faces the imminent death of their eldest as the ghosts of the past haunt the countryside.
訳:ハワイのある一家は、長男の死が迫る中、過去の亡霊が田舎に取り憑いている。

IMDbより引用

ハワイ、死の淵に立つ

高層ビルを見つめるおじいさんマサオ(スティーヴ・イワモト)、大自然にドンと構える高層ビルは美しくも、どこか景観を損ねている気がする。その土地の魂が吹き飛んでしまいそうな景観だ。ハワイといえばリゾート地であるが、本作は少し離れた昔ながらの暮らしに目を向ける。薬を飲む、ゆったりと酒瓶数本小机におき、お昼寝をする。外で長い竿を使って果物を取る。長閑な生活の中に、少しづつ死の気配が漂い始める。最後のひと時は家族と過ごす必要があるが、家族は問題を抱えている。息子は心に病を抱えており、娘はマサオと疎遠であったことに腹を立てていたりする。小津安二郎の『東京物語』は老人が東京にやってくるが家族に相手にされない話である一方、本作は家族が老人の場所まで来るがどこか邪険に扱う様子が描かれている。そんな中、マサオは悪夢を見る。玄関前に現れた幽霊のような存在、「あなたが本当にここにいないことを知っている」と木霊する空間。走馬灯のような幻影がゆっくりとマサオを死の世界へと誘い飲み込んでいく。虚実曖昧な世界に、フッと家族の面影が挿入されていく。

なるほどこれはスピリチュアルな『東京物語』といったところか。正直、画は面白いが、アピチャートポン・ウィーラセータクンを意識した映画レベルにとどまっており、話に物足りなさがあった。他の作品もスピリチュアル系と聞いているので、ちょっと地雷な監督かなとは思った。

※IMDbより画像引用