【特集ブリュノ・デュモン】『欲望の旅』好奇を失った彷徨える肉体

欲望の旅(2003)
TWENTYNINE PALMS

監督:ブリュノ・デュモン
出演:デヴィッド・ウィザック、エカテリーナ・ゴルベワetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

鬼才ブリュノ・デュモンの作品は日本でなかなか紹介されないのですが、数少ない日本で一般劇場公開&DVD化された映画がある。それが『欲望の旅』である。過激な性描写が特徴な為、官能映画として紹介されたようだが、中身は明らかなデュモンの映画であった。

『欲望の旅』あらすじ

フォトグラファーのデヴィッドはアメリカ人、モデルのカティアはフランス人。恋人同士のふたりはロサンゼルスを離れ、南カリフォルニアの砂漠へ雑誌用の写真を撮るために車を走らせる。上手く言葉が伝わらない代わりに、幾度となく体を重ね合うふたり。29パームズ・ストリート沿いのモーテルに泊まり、部屋で、プールで、ときには南カリフォルニアの荒涼とした大地で、果てることもなく、彼らは情事を重ねていく。馴染みのない土地で、ふたりだけの世界に堕ちていくデヴィッドとカティア。しかし、そんな彼らを襲った突然の暴力の嵐。ふたりはかつてない無力感を味わい、途方に暮れる。そしてデヴィッドが取った行動が、衝撃の結末を導く―

※Amazonより引用

好奇を失った彷徨える肉体

沖縄音楽のようなものが流れる車内。フォトグラファーであるデヴィッドと恋人カティアは南カリフォルニアの地を疾走する。新たなインスピレーションを得るために。風車が沢山立ち並ぶ空間に降り立ち、カティアは裸になるがイマイチアイデアが浮かばない。

青い背景に同化しそうな安ホテルのテレビで、写真家の映画を観てもデヴィッドは関心がない。無気力となってしまった彼は、人との関わりを忘れてしまったかのようだ。故に、アジアンレストランで食べ物をシェアして食べると語り店員を苛立たせても、その気持ちが分からない。

そんな彼にカティアは寄り添う。自由を手にし、恋人もいる者ですら、孤独に陥ると無気力となり、肉体的交わりも、運動レベルになってしまう。その中で、いかにエロスを取り戻していくかについて本作は語っている。

車=心の内面にカティアを置き、時にはハンドルを彼女に渡す。他者に自分を委ねることで、人との関わりを取り戻していく。カティアはドジっ子故に、車に傷をつけてしまう。だが、それを受容する。そこに人間らしさの片鱗を感じる。

一方で、無気力となった人間は動物に近づく。人間的理性の外側に広がる世界に足を踏み入れてしまう。そこにあるのは荒涼とした本能/暴力の地である。本作のダラダラとした旅の終盤に強烈な暴力が待ち受けている。人によっては衝撃を受けるであろう。だが、これは理性の外側にある世界に浸りながら理性を取り戻そうとする男の傲慢さに訪れる、野生の暴力と考えると腑に落ちる。

男の孤独を癒すために女性を配置している安易な官能映画に思えて、実はそれを批評した映画とも取れるのだ。同時期に、ガス・ヴァン・サントが『GERRY ジェリー』を発表している。これも荒涼とした地の放浪を通じて、人間の本質を鋭く分析した映画だったが、それに通じるものを感じた。

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※MUBIより画像引用

 

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