『唐人街探偵 東京MISSION』メガ密のユートピア/分断される世界への処方箋

唐人街探偵 東京MISSION(2020)
原題:唐人街探案3
英題:Detective Chinatown 3

監督:チェン・スーチェン
出演:ワン・バオチャン、リウ・ハオラン、妻夫木聡、トニー・ジャー、長澤まさみ、染谷将太、鈴木保奈美、奥田瑛二、浅野忠信、シャン・ユーシエンetc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2021年7月9日(金)よりミステリーアクション映画『唐人街探偵 東京MISSION』が公開される。本作は、東京・中国映画週間で上映された『僕はチャイナタウンの名探偵(唐人街探案)』シリーズの3作目である。ワン・バオチャン、リウ・ハオラン、妻夫木聡、トニー・ジャーと中国・日本・タイのスター俳優が日本を舞台に難事件を頭脳と拳で解決していく本作は、中国で公開されると初日で約164億円の興行収入を叩き出し、『アベンジャーズ/エンドゲーム』の全世界オープニング興行収入の記録を破り歴代No.1に躍り出た快挙を成し遂げている。日本では一般公開されていないシリーズではありますが今回日本公開が決まりました。

この度、配給を手がけているアスミック・エースさんのご好意で一足早く観賞しました。私は、正直シリーズ1,2作目を観賞していません。まるで、『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』から観るような状況だったのですが杞憂。めちゃくちゃ面白かったです。

『唐人街探偵 東京MISSION』あらすじ

中国で大ヒットを記録している人気シリーズ「唐人街探案」の第3弾。妻夫木聡、長澤まさみ、染谷将太、浅野忠信ら日本人キャストが多数出演し、主人公の探偵コンビ、タン・レン&チン・フォンが、東京を舞台に事件解決に挑む姿を描く。さまざまな国際的な事件を解決してきた中国の探偵コンビ、タン・レンとチン・フォンは、日本の探偵・野田昊から協力を依頼され、東京にやってくる。彼らが挑むのは、東南アジアのマフィアの会長が密室で何者かに殺されたという難事件で、犯人として起訴されたヤクザの組長・渡辺勝の冤罪を証明しなければならない。タイの探偵で元刑事のジャック・ジャーも加わり、一同は事件解決に向けて奔走するが、今度は、殺された会長の秘書である小林杏奈が何者かに誘拐されてしまう。エリート警視正の田中直己、謎の指名手配犯・村田昭らも絡み、事態はさらに複雑化していく。

映画.comより引用

メガ密のユートピア/分断される世界への処方箋

チン・フォン(リウ・ハオラン)&タン・レン(ワン・バオチャン)が日本へ降り立つ。飛行機内でドカ食いをした為、ゲリラゲリに襲われるタン・レンだったが、息をつく間もなく、妻夫木聡演じる野田昊が出現し、そのまま群れのアクションが展開される。一見、通俗ながらもこのアクション一つから滲み出るジョン・フォードの趣に感銘を受ける。総勢72名ものアジア人が彼らめがけて突進してくると思いきや、彼らそっちのけで大乱闘を繰り広げる。リュックを背負ったヲタクと思われる人はゼエゼエ言いながら階段を駆け上がり、飛び蹴りする男たちの狭間の中で、ゴミ箱を被せられた男は階段から落ちてゆく。赤のキャビンアテンダントと紺のキャビンアテンダントが階段で殴り合いをする中、飄々と闊歩する野田。「ウェルカム・トゥ・トーキョー」と観客もろとも不思議の国ニッポンへ引きづりこまれるのであります。違和感しかないトーキョー描写がメガ密空間で描かれるのだが、まさしく『静かなる男』の均等かつ繊細に押並べられていく個性の連動、群れの躍動感にノックアウトされていき、「日本っていいな」と説得されていってしまう。

さてそんな『唐人街探偵 東京MISSION』ですが、御察しの通り推理はある種のマクガフィンとなっている。観客に謎解きをさせるのではなく、名探偵コナンさながら、殺人という事実に対して脚本家の「真実」へと爆走していく。そのプロセスで巻き起こるアクションやギャグに魅力のニトログリセリンを注ぎまくる作品である。

故に、次から次へと刺客や修羅場が押し寄せてくる。死体を探す為、病院に潜入する場面では複数のチームが同時刻に潜入するものだから、対峙してしまうアクシデントが同時多発してしまう。終いには警察チームとエレベーターの中で対峙する究極の密室修羅場が展開される。その修羅場をどのように乗り越えていくのだろうか?また、ヤクザに囲まれた状態でいかにして必要な情報を聞き出すのか?

時に変装、時に大胆な陽動をもって修羅場を解決していく。頭脳よりも拳で解決しがちなお茶目さこそあれども、ゲリラゲリを気にする暇もない修羅場の強行突破に圧倒されました。

また、本作最大の注目ポイントは中国人、日本人、タイ人がいかにしてコミュニケーションを取るのか?問題の華麗なる解決方法にある。クエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』では、ナチス映画における言語問題を「奇遇にもあなたも私も英語がわかる。ではここからは英語で会話をしよう。」とメタ的に言及することで、御都合主義ながらも説得力をもって問題解決を図っていた。本作では、観客が想像できる範囲の言語問題の解決がなされるのですが、それを登場させるシチュエーションがあまりにも斬新で感動を覚えます。御都合主義に胡座かくことなく、創意工夫で魅力的に演出してみせるところが素晴らしかった。

2010年代後半から、ドナルド・トランプの台頭、ブレグジットと世界はドンドン個人主義へと分断されていった。それに追い打ちをかけるように新型コロナウイルスがパンデミックを引き起こし、益々世界はバラバラとなっていった。もはや、音楽フェスをはじめとする祭の混沌、アジアの喧騒とした雰囲気はフィクションになってしまったように見える。本作は、コロナ禍におけるメガ密空間というユートピアを魅せ、その中でアジアの名優たちが対立しながらも一丸となって真実を求めようとする姿が熱い映画です。

まさしくコロナ時代における心の処方箋と言えることでしょう。

日本公開は2021年7月9日(金)です。

P.S.『ワイルド・スピード』シリーズ3作目『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』でストリートレースのスターターとして一瞬登場した妻夫木聡が、『唐人街探案』では日本代表の探偵として大活躍しているこの躍進っぷりにも興奮しました。

※画像はアスミック・エースさんより提供