『みんなのヴァカンス』ギヨーム・ブラックは『おおかみこどもの雨と雪』がお好き

みんなのヴァカンス(2020)
原題:À L’abordage
英題:All Hands on Deck

監督:ギヨーム・ブラック
出演:サリフ・シセ、Asma Messaoudene、Soundos Mosbah、Benjamin Natchouang、Édouard Sulpice etc

評価:55点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

夏ですね、大人も夏休みですね。夏といえばバカンス映画ですね。数週間の休暇を取る文化があるフランスでは、毎年のようにバカンス映画が量産されている。カイエ・デュ・シネマの批評家もバカンス映画には目がなく、年間ベストにねじ込む傾向がある。さてエリック・ロメールはもはやおらず、ジャック・ロジエも映画を作らなくなってしまった時代のバカンス映画のスター監督は誰か?恐らく、ギヨーム・ブラックだろう。彼の作品は、ジャック・ロジエ映画に登場する女々しい男の目線でナヨナヨしたバカンス映画を撮る傾向がある。この気持ち悪さが癖になる監督だ。さてそんな彼の新作『À L’abordage』。フランス語で、「搭乗」、「偶発的な衝突」、「船が海岸に近づく行為」を示す言葉とのこと。ワンナイトラブをしてすっかり惚れ込んだ男が、彼女のいる場所に近づく。一緒について行った友人が別の女と邂逅、親密になると言う内容を暗示したタイトルになっているのであろう。ということで観てみました。

『À L’abordage』あらすじ

Paris, un soir au mois d’août. Un garçon rencontre une fille. Ils ont le même âge, mais n’appartiennent pas au même monde. Félix travaille, Alma part en vacances le lendemain. Qu’à cela ne tienne. Félix décide de rejoindre Alma à l’autre bout de la France. Par surprise. Il embarque son ami Chérif, parce qu’à deux c’est plus drôle. Et comme ils n’ont pas de voiture, ils font le voyage avec Edouard. Evidemment, rien ne se passe comme prévu. Peut-il en être autrement quand on prend ses rêves pour la réalité ?
訳:8月のある晩のパリ。一人の少年が一人の少女と出会う。同い年ではあるが、同じ世界には属していない。Félixは仕事をして、Almaは次の日には休暇に出る。しかし、それは問題ありません。Félixは、フランスの反対側にいるAlmaに合流することを決める。サプライズで。彼は友人のシェリフを連れて行った、一緒の方が楽しいからだ。そして、車を持っていないので、エドゥアールと一緒に旅をすることになる。もちろん、計画通りにはいかない。夢を現実と勘違いしていると、そうならないこともあります。

AlloCinéより引用

ギヨーム・ブラックは『おおかみこどもの雨と雪』がお好き

フェリックスは夜の喧騒にアルマと出会いワンナイトラブのひと時を送る。あの夜が忘れられない彼は、サプライズで彼女の休暇先に現れようと企画する。友人シェリフを引き連れいざ大冒険。実家に帰ろうとする見ず知らずの男の車に乗り彼女のいる場所を目指すが、間抜け顔でポテチを食していたら怒られたり、彼が車を傷つけてしまい修理に1週間かかる羽目となったりと不穏な空気が漂う。

だが、なんとかフェリックスはアルマと再会する。フェリックスのパートでは『オルエットの方へ』におけるキモ上司とOL軍団との間にマッチョなイケメンが割り込み勝ち目のない三角関係が生まれることと同様に、川のライフセーバーとの三角関係が繰り広げられる。自分の意中の女性が取られるのではと焦燥がフェリックスに襲いかかるのです。

一方、完全に放置された友人シェリフは、子連れの女性と出会う。赤ちゃんの面倒を見るうちに親密な関係となっていき、フェリックスがワンナイトラブで感じた恋情が円環構造をなしていく。

この赤ちゃんとシェリフの掛け合いが可愛らしく面白いのだが、ここで大問題が発生する。ギヨーム・ブラックはカイエ・デュ・シネマで2010年代のベスト映画として細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』を挙げている。その愛が炸裂しており、シェリフは『おおかみこどもの雨と雪』のTシャツを着てバカンスをエンジョイしているのです。映画としてはあまりに違和感ある画が形成されていくのですが、問題は子どもを抱く女性に対してシェリフが熱い眼差しを向ける場面でそのTシャツを着ているのです。あの映画は、狼に実質産み逃げされた女性が、ある種奇形となった子どもを孤独に育てるという内容。そのグロテスクな内容がそもそも私は嫌いなのですが、その背景がこの映画を侵食し、シェリフは優男に見えて女性を消費しているだけに見えるのです。なんて気持ち悪いことでしょう。確かに、ギヨーム・ブラックは『女っ気なし』で気持ち悪い男の描写を得意としていることは分かる。でもこれは一線を超えてしまったと思った。

なので、面白い映画であるが評価は出来ないなと感じました。日本公開するのかな?

ギヨーム・ブラックの2010年代ベスト映画


祖国 イラク零年(アッバス・ファデル、2015)
6才のボクが、大人になるまで。(リチャード・リンクレイター、2014)
・おおかみこどもの雨と雪(細田守、2012)
・テイク・シェルター(ジェフ・ニコルズ、2011)
アラビアンナイト(ミゲル・ゴメス、2015)
・L’Escale(カーヴェ・バフティアリ、2013)
・ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択(ケリー・ライカート、2016)
湖の見知らぬ男(アラン・ギロディ、2013)
ありがとう、トニ・エルドマン(マーレン・アーデ、2016)
・ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン(ポール・フェイグ、2011)
プティ・カンカン(ブリュノ・デュモン、2014)
・La Coupe à dix francs(Philippe Condroyer、1974)

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※MUBIより画像引用