【CPH:DOX】『Bakken』世にも奇妙な世界ふれあい街歩き

Bakken(2021)

監督:Adrian Skarstad, Theodor Nymark, Ömer Sami, Mikkeline Daa Natorp, Rikke Norgaard Hansen, Mary Cvathe, Thomas Dyrholm, Niels Østergaard, Claes Hedlund, Anna Rettl, Louis Franscisco Vernal, Yujin Jung, Mikkel Kruse, Bertram von Undall, Andreas Tang, Nanna Buch, Amr Hatem, Sofus Agger, Amin Zouiten, Signe Raunkjær, John Skoog※監督多過ぎだろう

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

CPH:DOXのラインナップを見ていたら、ビジュアルが引っかかった作品にであった。『Bakken』という60分くらいの作品だ。本作はデンマーク・コペンハーゲンにある遊園地「Bakken」を撮ったドキュメンタリーだ。コペンハーゲン中心街にあるチボリ公園と並ぶ老舗の遊園地であり、世界最古の木造ジェットコースターが有名である。そんな遊園地を舞台に何を魅せてくれるのか予備知識なしで観たのですが、これがとんでもない映画であった。

『Bakken』概要

For over 400 years, the theme park Bakken north of Copenhagen has been a place where people have gone to have fun and enjoy life. Today, the old amusement park is a parallel to the more upscale Tivoli in the center of Copenhagen. A popular place with a deep and rich history and a distinctive geography. ‘Bakken’ explores both in a cinematic and social intervention. In three long, uninterrupted one-takes shot over a single summer’s day and night, the camera moves slowly through the park while the guests alternately react to the lens or try to ignore it. A gang of Pierrot clones mingle with the visitors. The film is an joint creation between students of the Royal Danish Academy of Fine Arts and the Danish Film School, initiated independently by the students. Using Bakken as a frame – historically, architecturally and socially – all the contributors helped develop the concept for both the film and the performative interventions in front of the camera, which are sometimes inseparable from the hedonistic and condensed semi-fictional universe that an amusement park is.
訳:コペンハーゲンの北にあるテーマパーク「バッケン」は、400年以上もの間、人々が楽しみながら人生を謳歌するために訪れてきた場所です。今日、この古い遊園地は、コペンハーゲンの中心にあるより高級なチボリと並行しています。深くて豊かな歴史と、特徴的な地理を持つ人気の場所。『Bakken』は、映画的かつ社会的な介入の中で、その両方を探求しています。ある夏の昼と夜の間に撮影された、途切れることのない3つの長いワン・テイクの中で、カメラは公園の中をゆっくりと移動し、客たちは交互にレンズに反応したり、無視しようとしたりします。ピエロのクローンのような一団が来場者に混じっている。この映画は、デンマーク王立芸術アカデミーの学生とデンマーク映画学校の学生が共同で制作したもので、学生が独自に始めたものです。歴史的、建築的、社会的にバッケンをフレームとして使用し、すべての貢献者が、映画のコンセプトと、カメラの前でのパフォーマティブな介入の両方を開発しました。

※CPH:DOXより引用

世にも奇妙な世界ふれあい街歩き

夕方、森をカメラが散策していると、段々と恍惚が眼前を包み込み、来場者の陽気な声が木霊する。遊園地は非日常へ導く存在だ。カメラはフラフラと遊園地を彷徨う。どういうわけか、アトラクションには乗らない。長回しでずっと遊園地を彷徨うのだ。「世界ふれあい街歩き」のノリながら、段々と雲行きが怪しくなる。明らかに撮影の角度がおかしいのです。だいの大人が撮影しているにもかかわらず、子ども目線から撮影がされているのだ。だから、遊園地の中にいる人は不審者を見るような眼差しでカメラを覗き込む。チャラい男の人はカメラに向かって指を差し出しイタズラしようとするのだ。

そうこうしているとカメラは、回転するメリーゴーランドスレスレを掠めていき、店に入る。すると、どういうわけか店の裏側の地下世界に潜り込んでしまうのだ。ピーター・フォンダ主演の『未来世界』でも遊園地の裏側に堂々と入っていく異常な場面がありましたが、明らかにカメラが入ってはいけない場所に潜りこむ大胆さに驚愕する。そして、カメラは暴走し、舐めるようなでも意図していないように装いつつ女の子を撮ったり、休憩する従業員を隠し撮りし始めたりする。そうこうしているうちに、人類が全くいなくなってしまったかのような静寂に包まれる空間へと迷いこむ。そして再び栄えている空間に出ると、人々はマスクをしている。そうです。ここはコロナ時代の『Bakken』だったことが分かる。そして、いつしか閉店後の人が誰もいない虚無を幽霊のように徘徊するのだ。

本作は、気持ち悪いカメラワークで遊園地を徘徊しているだけの映画に見えるが、そこにはコロナ時代によりより一層非日常の快感が尊く感じられる様と、その我々が求める非日常がなくなってしまうのかもしれない不安を表象した作品と捉えることができます。この独創的なアートドキュメンタリーに私は衝撃を受けました。劇場公開は厳しそうな作品故、こういう作品と出会えるのが映画祭の強みだなと感じました。

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※CPH:DOXより画像引用