【金曜ロードショー】『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』特別編集版:戦争は人間の手をしていない

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』特別編集版

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

昨日、金曜ロードショーで『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』特別編集版が放送されました。普段、金曜ロードショーは観ないのですが、猛烈リクエストを受けました観賞しました。これが、実写映画でやったらカンヌ国際映画祭でパルムドール獲るレベルに素晴らしい作品でした(海外の映画人はアニメ映画を軽視している問題があるので辛いものがある)。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』特別編集版あらすじ

圧倒的なクオリティと美しい映像世界を作り出し、テレビアニメ放送後、日本のみならず世界中で大きな反響を巻き起こした話題作。2019年に劇場公開した、もうひとつの物語「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝-永遠と自動手記人形-」を本編ノーカットで地上波初放送!自動手記人形として成長を重ねたヴァイオレットが、良家の子女のみが通う規律の厳しい女学校に通う新たな依頼主・イザベラの元へ教育係として雇われる。次第に心を通わせる二人。やがてイザベラの過去の秘密が明らかに…。

※金曜ロードショーサイトより引用

戦争は人間の手をしていない

兵士として活躍し、両手を失った女ヴァイオレット・エヴァーガーデン。戦争は終わり、社会は日常へと戻ろうとしていた。心を失った彼女も兵士から一般人へと戻ろうとする中で、自動手記人形として手紙の代筆修行に励む。成績は優秀だが、人の心が分からず、冷たい報告書を作ってしまう彼女が成長していく過程を描く。

本作を観た時、頭に浮かんだのはウィリアム・ワイラーの『我等の生涯の最良の年』だ。第二次世界大戦が終わり、兵士が帰還する。悪の入り込む余地のない恍惚とした平和を背に、心に残る傷がジワジワと炙り出されていくスタイルは、まさしく美しい風景の中で人を殺し、殺された記憶から苦痛と対峙し乗り越えようとする本作に通じるものがある。

特記すべきは義手の存在である。ヴァイオレットは両手を失い義手をつけている。しかし、通常は手袋をつけている。タイプをする時や、過去と向かい合う時に手袋は外される。冷たい手は、彼女の冷え切った感情、兵器として人を殺めてきた過去を象徴している。終戦後、他者から見ると一般人に見えるが、その内面はどうか?人間の内面をこの手袋の着脱で表現しているところに目を奪われる。『我等の生涯の最良の年』でも義手の男が登場するが、彼以上に物語における義手の扱いを突き詰めていると言えよう。

そして彼女はその冷たい手、人を殺した手/失った手で手紙を書く。人を救う手、温もりの手を取り戻そうとする。だが、失ったものは戻らない。だから義手が生身の手に戻ることはない。それでも彼女は生を渇望する。時に過去の亡霊に苛まれる時もある。そんな彼女が出張で、病気の母を持つ少女の相手をすることになる。かつて機械だった彼女が、人間を取り戻した。そんな彼女が少女の為に機械=人形に徹するのだ。その彼女が発する言葉の一つ一つが冷たくもどこか温もりのある質感で発せられる。そこへ少女が「あなた、遊ばれることはあるけど遊んだことはないのね」と強烈な言葉のパンチが繰り出される。

これにより、この物語は強烈なテーマを刻み込むことに成功した。つまり、モノとなってしまった者がモノの手触りを抱えながらヒトへ戻っていくまでの過程をテーマにしていると。

それにしても、こんな複雑な心理を描いた作品が颯爽と金曜ロードショーで放送されるなんて事件ですね。

※映画.comより画像引用