【死ぬまでに観たい映画1001本】『我等の生涯の最良の年』コロナ禍に観たい元に戻れぬ人

我等の生涯の最良の年(1946)
The Best Years of Our Lives

監督:ウィリアム・ワイラー
出演:マーナ・ロイ、フレドリック・マーチ、ダナ・アンドリュースetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

『死ぬまでに観たい映画1001本』に掲載の作品の中で全く気乗りのしない作品があった。『我等の生涯の最良の年』は食指の動かないタイトルに、3時間近い上映時間が重なり10年以上無視してきた作品なのですが、『死ぬまでに観たい映画1001本』完全攻略を目指し観てみました。

『我等の生涯の最良の年』あらすじ


1946年度のアカデミー受賞映画で、製作者サミュエル・ゴードウィンが、テーマを示して小説家マッキンレー・カンターにストーリーを執筆させ「エイブ・リンカン」のロバート・E・シャーウッドが脚色し「孔雀夫人(1936)」「デッド・エンド」「嵐ヶ丘(1939)」と同じくウィリアム・ワイラーの監督、グレッグ・トーランドの撮影になったもの。出演者は「雨ぞ降る」マーナ・ローイ「我が道は遠けれど」のフレドリック・マーチ「疑惑の影」のテレサ・ライト「影なき殺人」のダナ・アンドリュース、新人のヴァジニア、メイヨおよびキャシー・オドンネル「脱出(1944)」のホギー・カーマイケル、傷い軍人ハロルド・ラッセルで、グラディス・ジョージ、ローマン・ボーネン、スティーヴ・コクラン、ミナ・ゴンベルらが助演する。なお作品賞のほか、ゴールドウィンが製作賞、ワイラーが監督賞、シャーウッドが脚本賞、マーチが主演男優賞、ラッセルが助演男優賞及び特別功労賞を、それぞれ受けている。
映画.comより引用

コロナ禍に観たい元に戻れぬ人

コロナ禍が数ヶ月続き、人々はコロナが収束してももはやコロナ以前の生活に戻れないことに気付き始めている。そんなポストコロナの苦悩を疑似体験させてくれるのが本作だ。本作は第二次世界大戦が終わって1年後に公開されたもので、驚くべき速さで戦後を描いた作品となっている。

戦争が終わり、幾月幾年も会えなかった家族、故郷を目指す3人の男。長い長い旅の終わりのこれ以上のないカタルシスが胸打つオープニングから始まる。高校時代アメフト部に所属していたホーマーは両手を失い義手をつけているが、憐れみの目で見られることを拒絶し、書類のサインから、タバコに火をつけるといった細かい作業も自分でやるのだ。しかし、彼は抑圧してきた不自由さに耐えきれなくなり、好奇の目で見る子どもに怒鳴り散らしたり、妻そっちのけで銃の手当をして気を紛らわせている。かつての栄光はないのだ。

あの頃の華は失われてしまっているのだ。

アルは戦前は銀行員だったが、PTSDに罹ってしまいアルコール中毒となってしまう。毎晩のようにクラブに繰り出すのだ。家族の様子もガラリと変わってしまい、もはやメイドはいない。息子は、自分の話す話題が差別的だと言い始める。そうです、彼は戦前の差別的価値観が変わってしまった社会に自分をアップデートできずに苦しんでいるのだ。

あの頃の華は失われてしまっているのだ。

フレッドは勲章を沢山つけた優秀な大尉だった。しかし戦時中に重宝された爆撃手としての腕は、戦後社会には通用しない。かつての知人は自分が従軍している間にそれなりの地位を築いたらしい。だが、彼が就活をしようにも思うような職は見つからない。爆撃手時代、週給400ドルだったのが、週給32ドルで退屈な仕事をしないといけないのだ。しかも市民は帰還兵に職が奪われることを警戒し、蔑視の目で見てくるのだ。

あの頃の華は失われてしまっているのだ。

戦後1年にしてPTSDから帰還兵と市民の職を巡る対立、変わる価値観をアップデートできずに苦しむ人を余すことなく描くウィリアム・ワイラーの手腕に脱帽する。しかも、朽ち果てた戦闘機に郷愁を寄せるシーンから、過去に囚われ精神が砕けた人を象徴させるといった印象的な場面も多い。

『死ぬまでに観たい映画1001本』によれば、公開当時リベラル派の批評家、マルクス主義の批評家双方から酷評されたと書いてあるが、これほどまでに天国から地獄へ突き落とす辛辣な傑作はそうそうなかろう。観ず嫌いしていて本当に申し訳ないと思う。

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