【東京国際映画祭】『牛』アンドレア・アーノルドの軟禁牛小屋※ネタバレ

牛(2021)
COW

監督:アンドレア・アーノルド

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第34回東京国際映画祭でまさかまさかのアンドレア・アーノルド監督最新作『COW』が上映された。アンドレア・アーノルド監督は長編5作中3作(『Red Road』、『フィッシュ・タンク』、『アメリカン・ハニー』)でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞している天才的な監督である。そんな彼女が牛目線のドキュメンタリーを撮ったということで、ラインナップ発表されるとTwitter映画ファンの間で盛り上がった。これが予想以上に壮絶な内容であった。

『牛』概要

『フィッシュ・タンク』(09)のアーノルド監督が一頭の牛の生活を描く。ドキュメンタリーであるが、劇映画に劣らないドラマ性を有したユニークな作品。カンヌ映画祭プレミア部門で上映。

※第34回東京国際映画祭サイトより引用

アンドレア・アーノルドの軟禁牛小屋

搾乳工場の牛目線で描くドキュメンタリーと聞いたらラストは大方想像できる。この手のジャンルは切り口が重要なのですが、『牛』は圧倒的にアンドレア・アーノルド印だ。『アメリカン・ハニー』の風味を宿した『GUNDA』となっている。

牛の出産から始まる。ドロドロぐちゃぐちゃな赤子を舐める。牛は、汚く狭い空間の中、人間にコントロールされているのだが、まさしくディストピア映画のような凄惨でドラマティックな画で牛を捕らえ続ける。カメラに向かって、「年前ウォーーーーウォ(なんだ、テメェ!)」と煽りを入れる牛は、狭い通路を通る。すると柵が閉まる。牛が移動する度に退路が塞がれ、牛は運命を悟ったような目線で我々のことを観るのだ。

登場するガジェットは、クローネンバーグ映画のように気持ち悪い。耳に穴を開けられ、頭にドリルされ、その上に青い液体をかけられる。仕舞いには、牛固定機で横にされる。機械が肉体を侵食する気持ち悪さが全面に伝わってくる。

そんな絶望的な状態にもかかわらず、空を見上げると晴天が広がっていたり、花火が上がっていたりする。空の自由に渇望の眼差しを向けながら、感傷的な音楽を背に搾取され続け死にゆく運命に身を投じていくのです。その運命を象徴するように、カメラは牛小屋外で雑に放置されている牛の死骸に注目する。

本作は、人間の鬼畜さも余すことなく描いている。クリスマスの日、サンタ帽子被りながら容器に、搾乳部屋に連行する様子や、牛を車に追い込みながら「これは教科書的だhaha!」と笑ったり、冷徹に弱った牛を射殺する場面にゾッとする。

我々の食料は動物の犠牲の上に成り立っているドキュメンタリーは数多くあれども、ここまで人間臭いディストピアを捉えるとはアンドレア・アーノルド監督天才である。MUBIが配給権を持っているらしいが、日本でも劇場公開されないだろうか?

P.S.それにしても第34回東京国際映画祭ユース部門の『クリプトズー』、『牛』は厳つい気がする。

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※第34回東京国際映画祭サイトより画像引用

 

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