『MINAMATA-ミナマタ-』表層部をなぞる水俣病、演劇だったらまだよかった?

MINAMATA-ミナマタ-(2020)
MINAMATA

監督:アンドリュー・レビータス
出演:ジョニー・デップ、ビル・ナイ、真田広之、浅野忠信、キャサリン・ジェンキンス、國村隼、リリー・ロビンソン、加瀬亮、羽田昌義、アキコ・イワセetc

評価:35点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第70回ベルリン国際映画祭に出品されて話題となったジョニー・デップ主演の水俣病を扱った映画『MINAMATAーミナマター』が日本でも公開された。水俣病といえば、四大公害病の一つとして学校で習ったこともあるでしょう。土本典昭のドキュメンタリーに触れると解像度が少し上がり、長期に渡る闘いによって被害者たちの間にも分断が生まれてしまっていることに気づかされる。さて、そんな複雑な状況を海外からの目線で果たして上手く描けるのだろうか?不安を抱えながら映画館に行きました。

『MINAMATAーミナマター』あらすじ

ジョニー・デップが製作・主演を務め、水俣病の存在を世界に知らしめた写真家ユージン・スミスとアイリーン・美緒子・スミスの写真集「MINAMATA」を題材に描いた伝記ドラマ。1971年、ニューヨーク。かつてアメリカを代表する写真家と称えられたユージン・スミスは、現在は酒に溺れる日々を送っていた。そんなある日、アイリーンと名乗る女性から、熊本県水俣市のチッソ工場が海に流す有害物質によって苦しんでいる人々を撮影してほしいと頼まれる。そこで彼が見たのは、水銀に冒され歩くことも話すこともできない子どもたちの姿や、激化する抗議運動、そしてそれを力で押さえ込もうとする工場側という信じられない光景だった。衝撃を受けながらも冷静にカメラを向け続けるユージンだったが、やがて自らも危険にさらされてしまう。追い詰められた彼は水俣病と共に生きる人々に、あることを提案。ユージンが撮影した写真は、彼自身の人生と世界を変えることになる。「ラブ・アクチュアリー」のビル・ナイが共演し、日本からは真田広之、國村隼、美波らが参加。坂本龍一が音楽を手がけた。

映画.comより引用

表層部をなぞる水俣病、演劇だったらまだよかった?

名カメラマンであるユージン・スミス(ジョニー・デップ)は燃え尽きたかのように酒に溺れている。名声は手に入れたが、金はなく、醜く老いていく自分から目を逸らすように暗室で現像作業をしている。そんな彼のもとへ日本人がやってくる。スミスのファンである者と通訳が現れ、水俣病を撮ってほしいと懇願される。こうして、スミスは水俣へ潜入する。チッソ社内部に潜入し、有害物質と知りながら垂れ流していたこと。そして、住民への見舞金が予算として組み込まれ、金で揉み消そうとしていたことに気づかされる。チッソ社からの魔の手が迫る中、自分を見つめ直していく。本作は、既に名声を得て枯れるだけの人生をトボトボ歩いていた男が、かつての名声の根幹にあった魂を取り戻すまでの過程を描いている。

ジョニー・デップをはじめとする豪華キャストで予算がかかりすぎたのか、アメリカ映画なのにNHKドラマのような安っぽいセットが気になるのだが、そのセットを見ていると、実はアンドリュー・レビタス監督は演劇で水俣病を語りたかったのでは?もとい演劇でやるべき演出だったのではと思ってしまう。

というのも映画として観た時に違和感がある場面が散見されるのだ。例えば、警察が家に殴り込みに来る場面。家をめちゃくちゃにされるのだが、そこで白昼堂々写真を撮っているスミスに警察はなかなか気づかないのだ。しかも気づいたとしてもカメラを取り上げたりせず、「撮るな」と軽く脅すだけに留まっている。これは演劇に比べて現実に近いところにいる映画というメディアで観た時に、チッソが必死に市民を押さえ込もうとする暴力が見えてこない。だが、演劇としてセットという簡素化された現実を前に同様の演出を施すと、スミスと水俣の距離感の表象として効果的なものとなる。本作は、水俣病というどこか遠い世界の公害をフレーム通すことで距離感が生まれる。だが、現実の凄惨さを目の当たりにして段々と、当事者になっていく過程を表す布石となっているのだ。このシーンがあることで、終盤のチッソ前での暴動シーンにおけるスミスの主体的な撮影に説得力が出てくるのだ。彼は暴力によって左目を失う。だが、彼はかつての目を取り戻すことができたというメッセージにも繋がってくる。

映画として観た時に、演出が弱いと感じたところは他にもある。それは病棟に潜入した際のシーン。検問を突破し、物陰でカメラを組み立て、職員を装いながら患者を写真に収めていくシーン。バレるかバレないかサスペンスが進行する。スミスのカメラの持ち方は、戦場カメラマンの持ち方そのもので手慣れた隠し撮りのフォームを取っているのだが、そのアクションが活かされていない。危険な撮影となっているのだが、イマイチ緊迫感が伝わってこないのです。もう少し、職員に見つかって逃げるシークエンスを長めに確保した方が良かったと感じた。

劇映画なので、どうしても史実と異なる部分は出てくる。故に細かい部分についてとやかく言うつもりはない。寧ろ、『水俣一揆-一生を問う人々-』で図解程度に留められていた被害者同士の分断の例を挿話として組み込んだことは評価されるべきであろう。正直、ドキュメンタリーの方は分かりにくかったということもあって慧眼な演出だったと思う。

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※映画.comより画像引用