『DAU. 退行』密です、疎です。二人合わせてダルです。

DAU.退行(2020)
DAU. Degeneration

監督:イリヤ・クルザノフスキー、Ilya Permyakov
出演:Vladimir Azhippo、ドミトリー・カレージン、Olga Shkabarnya、Alexei Blinov etc

評価:40点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

ウクライナ・ハルキウに物理学者レフ・ランダウが生きた時代を再現し、1万人以上に及ぶエキストラをその空間に3年間送り続け、700時間に及ぶ映像から、
・『DAU. NATASHA』
・『DAU. DEGENERATION』
・『DAU. BRAVE PEOPLE』
・『DAU. NORA MOTHER』
・『DAU. THREE DAYS』
・『DAU. KATYA TANYA』
・『DAU. NEW MAN』
・『DAU. SASHA VALERA』
・『DAU. THE EMPIRE』
・『DAU. STRING THEORY』
・『DAU. NIKITA TANYA』
・『DAU. CONFORNMISTS』
・『DAU. NORA SON』
・『DAU. REGENERATION』
の14作品が作られ、2020年代を生きるシネフィルをソ連の世界に没入させようとするプロジェクト《DAU》。

先日、『DAU. NATASHA』を観て感銘を受けた私は続けさまに6時間を超える第二段『DAU. DEGENERATION』を観ました。『DAU. NATASHA』がランダウの人生の外側にある生活を描いていたのに対して、本作では遂に研究所の内部にカメラが向けられていた。あのピラミッド型の装置はなんなのか?研究所が作ろうとしている超人類(=the perfect person)とはなんなのか?私はハゲマッチョスパイMaxim Martsinkevichと共に研究所に潜入したのであった…

※2021/8/28(土)まさかの日本公開決定。邦題は『DAU.退行』です。

『DAU. 退行』あらすじ

A secret Soviet Institute conducts scientific and occult experiments on animals and human beings to create the perfect person. The KGB general and his aides turn a blind eye to erotic adventures of the director of the Institute, scandalous debauches of prominent scientists and their cruel and insane research. One day, a radical ultra right-wing group arrives in the laboratory under the guise of test subjects. They get a task – to eradicate the decaying elements of the Institute’s community, and if needs be, destroy the fragile world of secret Soviet science.
訳:秘密のソビエト研究所は、動物と人間に対して科学的で神秘的な実験を行い、完璧な人を作ります。 KGBの将校と彼の側近たちは、研究所の所長のエロティックな冒険、著名な科学者たちのスキャンダルな執事、そして彼らの残酷で正気でない研究に目をつぶります。ある日、過激な超右翼グループが被験者を装って実験室に到着しました。彼らは、研究所のコミュニティの腐敗した要素を根絶し、必要に応じて、ソビエトの秘密の科学の壊れやすい世界を破壊するという任務を負います。
DAU公式サイトより引用

密です、疎です。二人合わせてダルです。

2010年代は、テレビシリーズと映画の垣根がなくなった時代と言える。Netflixを筆頭に、サブスクリプションのプラットフォームがシリーズを製作し、そのノリで映画を作るようになった為、映画がテレビシリーズ的になってきたとも言える。ただ、これには2時間で世界を凝縮させる映画の特性を軽視してしまう危うさがある。そして3時間を超える映画、続編ありきな映画は観客を無理矢理世界観に没入させる為高評価を得やすいことに胡座をかき、昨今の映画祭映画はやたらと時間が長い作品が多くなってきている。それに胡座をかくことで生じる問題は何か?

それは編集に対する怠慢が前面に出てしまうことである。

『DAU. Degeneration』はまさにその典型と言える。

あらすじを読むと、潜入もののバレるかバレないかサスペンスが楽しめたり、『武器人間』的ヤバめな実験光景を楽しめるのではと期待するでしょう。しかし、蓋を開けてみれば6時間に及びダラダラとした会話が展開され、画面は《密です!》と言わんばかりに密集しているのですが、中身はあまりに薄く引き伸ばされ、《疎です!》と言いたくなる代物であった。

冒頭、テスラコイルを囲み、理論的実験なのか、宗教的儀式なのかよく分からない光景が描かれ、そのままプロジェクトが孕む宗教的壁に対する熱い講義と議論が行われる。端に、爆睡している人がいるような気もするが、博士は御構い無しに講義をする。当のレフ・ランダウ博士は、既に老衰状態で、要介護の状態だ。そんな彼を横目に、『DAU. NATASHA』から15年近く経過したカフェなどを経由して連日関係者はお祭り騒ぎだ。

そんな研究所にKGBからスパイMaxim Martsinkevichが送り込まれる。彼のミッションは、被験者として研究所に潜入し、内部から組織を解体することだった。ハゲマッチョな彼は、己の肉体を鍛錬させながら少しずつ、内部を汚染させていく。日常が崩壊していく過程は、今の世界こそ超高速で移ろいゆくが、本来は徐々に徐々に侵食され、気が付いた時には後戻りできなくなっているものだ。その《徐々に》を描くために6時間という長さを要したのだろう。ただ、猥雑で虚無、まるで知らない人の結婚式に紛れ込んだような退屈さを6時間体感させるのは拷問に近い。

そして、崩壊する過程を体感させるのであればやはりインスタレーションの方がむいていたような気がする。実際に、《DAU》はパリでインスタレーションとしても展開された。本作の崩壊までのプロセスは、長時間観客の五感を完全にソ連に投げ入れ、混沌と偶然の中から崩壊の糸を見つける演出の方がよかっただろう。映画は、映画として固定されている。偶然という一回性も、複製されてしまう。それ故に、《編集されている》という状態が重要となってくる。そう考えると、偶然性が支配するインスタレーションの方が傑作になり得たであろう。

さて、どうやら後に続く作品の中には8時間の代物があるようだ。果たして全作品完走できるのか、先行きが不安でしょうがないブンブンでした。

《密です、疎です。二人合わせてダルです。》

な作品になっていないことを祈る…

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