【MUBI】『荘園の貴族たち/MALMKROG』貴族のマウント合戦に参加しないか?

荘園の貴族たち(2020) 原題:MALMKROG

監督:クリスティ・プイウ
出演:Agathe Bosch、Ugo Broussot、Marina Palii、Diana Sakalauskaité、フレデリック・シュルツ・リチャードetc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第70回ベルリン国際映画祭エンカウンター部門にて監督賞を受賞し、2020年のカイエ・デュ・シネマベストテンにて4位に輝いた超長尺映画『MALMKROG』がMUBIにて配信されたので観てみました。クリスティ・プイウといえばルーマニアを代表とする監督であり『Aurora』、『ラザレスク氏の最期』、『シエラネバダ』と2時間半を超える作品を作る傾向にあります。今回の『MALMKROG』は前作『シエラネバダ』と対の関係にある作品とも言える。というわけで感想を書いていきます。

『MALMKROG』あらすじ

Among the guests who come to the mansion of aristocratic landowner Nikolai over Christmas are a politician, a young countess, and a general with his wife. They dine and discuss topics such as progress and morality. As the debate becomes more heated, cultural differences become increasingly apparent.
訳:クリスマスに貴族の大地主ニコライの屋敷にやってきたのは、政治家、若い伯爵夫人、そして妻を連れた将軍だった。彼らは食事をしながら、進歩や道徳などのテーマについて話し合う。議論が白熱するにつれ、文化の違いが次第に明らかになっていく。

※MUBIより引用

貴族のマウント合戦に参加しないか?

本作は偶然にもコロナ禍とリンクしており、前作『シエラネバダ』では狭い部屋に何人もの人を密集させてルーマニア史における世代断絶によるヒリヒリとした会話と遅々として進まない物事が描かれてきたのに対してこの『MALMKROG』では終始ソーシャルディスタンスを取りながら同様の属性違いによる意見の対立とマウント合戦が描かれていく。間合いを取り、終始絵画的構図を作っていく人間の配置の美学に圧倒される一方で、展開される哲学的な議論は非常に難解で一度観ただけではわからないところも多い。内容と歴史背景に関しては他の方に考察を譲りたいと思う。

ここでは、本作が演劇的、絵画的でありながらも圧倒的に映画的な部分について語りたいと思う。私は演劇的映画が嫌いである。それは演劇でやればいいものを何故映画にする必要があるのか?という疑問から来るものである。『マ・レイニーのブラックボトム』が嵌らなかったのも、映画を観ている快感が得られなかったからだ。

一方、本作は映画を観ている気分になれた。それは世界に没入するカメラワークのおかげにある。大島渚が『飼育』で実践していた、話し手に激しくカメラをパンさせていく手法を取ることで、観客の目線の動きをメタ認知させる。絵画的構図を取るように動く人の流れという、どこか世界の外側にいるような感覚とその手法が波のように交互に提示されることで、観る者はいつしか貴族たちの痴話喧嘩の渦中の仲間になっていることに気付かされるのだ。

そしてこう思うであろう『失われた時を求めて』におけるサロンの会話は、現代におけるオフ会でのマウント合戦と大した違いはないことに。故に、この痴話喧嘩も屋敷の外側で行われている政治や戦争とは無関係に、安全圏から言葉を銃に撃ち合いをしているだけにすぎないことに気付かされる。

だからこそ、中盤で屋敷が襲撃される部分は皮肉に満ち溢れている。安全圏からの議論が、外側から無理矢理蹂躙されてしまうこのブラックさにニヤリとさせられるのだ。なんだ、オフ会というよりかは居酒屋でおっさんが政治に関してぶーたれているだけではないのか?

終盤の顔だけの切り返しによる議論のシーンこそ退屈で辛いものがありましたが、クリスティ・プイウの鋭い風刺画でありました。

※MUBIより画像引用

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