【ネタバレ考察】『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』メルヴィル、ザラーにならないように、うっかり殺めないように

ザ・ファブル 殺さない殺し屋(2021)

監督:江口カン
出演:岡田准一、木村文乃、堤真一、平手友梨奈、安藤政信、山本美月、佐藤二朗、井之脇海、安田顕、佐藤浩市etc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

1ヶ月くらい前に、某ハウスで『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』で宣伝やっている方が、本作の宣伝をしに映画仲間とワイワイやっているRoomにやってきた。折角なので観ることにしたのだが、問題児脚本家・渡辺雄介が今回携わっていないためか、前作を遥かに超えるクオリティに仕上がっていました。日本アクション映画は大友啓史、佐藤信介の台頭で明るくなったが、ここに江口カンという天才が現れたことを今回ネタバレありで語っていきます。

前作記事:【考察】『ザ・ファブル』撃鉄から観るファブルの行動心理

『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』あらすじ

南勝久の人気コミックを岡田准一主演で実写映画化した「ザ・ファブル」のシリーズ第2作。裏社会で誰もが恐れる伝説の殺し屋ファブル。1年間誰も殺さず普通に暮らすようボスから命じられた彼は、素性を隠して佐藤アキラという偽名を使い、相棒ヨウコと兄妹を装って一般人として暮らしている。一見平和に見えるこの街では、表向きはNPO団体「子供たちを危険から守る会」代表だが裏では緻密な計画で若者から金を巻き上げ殺害する危険な男・宇津帆が暗躍していた。かつてファブルに弟を殺された宇津帆は、凄腕の殺し屋・鈴木とともに、復讐を果たすべく動き出す。一方アキラは、過去にファブルが救えなかった車椅子の少女ヒナコと再会するが……。岡田准一、木村文乃、佐藤浩市ら前作からのキャストに加え、宇津帆役の堤真一、ヒナコ役の平手友梨奈、殺し屋・鈴木役の安藤政信が新たに参加。前作に続き江口カンが監督を務めた。

映画.comより引用

メルヴィル、ザラーにならないように、うっかり殺めないように

暴力は突発的に起きる。突発的な暴力に支配された世界では、殺しは静かにやってくる。冒頭、夜の繁華街で襲われる女。すると突然、暴力漢の脳天が撃ち抜かれる。場面は切り替わり、公園でヤクザのような人が犬を連れて話していると、これもいきなり突然死する。車では、怯える女を連れて男が車を走らせようとすると、何者かに首を掻っ切られる。そのまま激しいカーレースとなり、岡田准一演じるファブルはトム・クルーズさながらの曲芸を魅せつける。息を呑むようなアクションはハリウッド大作を観ている気分にさせられ、これだけでこの映画の勝利は確約されている。このドライで、大胆かつ厳格なショット捌き、語りではなくアクションで映画を語ろうとする職人芸はジャン=ピエール・メルヴィルS・クレイグ・ザラーを彷彿とさせる。

ただ、この映画はあくまで老若男女、多くの観客に向いており、アート映画に振り切ることは好ましくないと考えており、佐藤二朗等が織りなす福田雄一的スベったギャグを潤滑油として使用する。「ザ・ファブル」自体が、最強すぎて殺しを禁じられた男がその能力を必要に応じて披露する映画なので、全編硬派なアクションに吹っ切れない演出はメタ的でスマートである。

さてこういった緩急ある演出の中で戦うことになるのは、小者感溢れるエクスペンダブルズのようなチームだ。『眠狂四郎 勝負』におけるファンミーティングシーンさながら、「どうやったらファブルを楽しく倒せるのか」を議論して、団地にて決行される。

団地では、ファブルも敵も異様に住人に配慮しながら、部屋の内側/外側を巧みに使ったダイナミックなアクションが展開される。不自然な鉄骨の上をファブルが走り回りながら、前から後ろから下から、遠くから湧き出る刺客を薙ぎ倒し、時として建物の隙間を活用する展開にゾクゾクする。おまけに、少女が何故か鉄骨を渡りながら風船を取ろうとするのを、崩壊する鉄骨走りながら救おうとするファブルに感動を覚えました。

基本的に団地はアクション映画のアイデア宝庫であり、『今際の国のアリス』、『鵞鳥湖の夜』、『レ・ミゼラブル(2019)』、『ベルファスト71』と面白い映画が多い。それに肩を並べられるどころか、手数が非常に多い。国際的に戦えるレベルに仕上がっているのだ。

そしてその手数は思わぬ特典までついている。

クライマックス。車椅子の女の子が堤真一演じる宇津帆を射殺しようとし、地雷を踏んでしまう。どうやって彼女を地雷の爆破から救うのかといえば、彼の子分と協力して、ショベルカーで彼女の足元数センチまでシャベルを移動さる。ファブルが高速で彼女をひっぱり、敵はそのままショベルを地面に突き刺すことで爆破をシャベル内に封じ込めようとするのだ。このアイデアには脱帽です。

江口カンの代表作である『ガチ星』こそ未観であるが、彼は今後も凄いエンターテイメント作品を生み出しそうだ。期待しかない。

※映画.comより画像引用