【ネタバレ考察】『その街のこども』ヒールと段差、聖域と破壊

その街のこども(2010)

監督:井上剛
出演:森山未來、佐藤江梨子、津田寛治etc

評価:99点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

NHKで阪神淡路大震災で亡くなった方を悼んでか『その街のこども』を放送していた。本作は阪神淡路大震災から15年が経過したことを機に製作されたドラマであり、震災後に残る心の傷を捉えている。東日本大震災の直前にあたる2011年1月15日に劇場版が公開されたこともあり話題となった作品だが、正直ずっと避けていました。もうそろそろ東日本大震災から10年を迎えることもあり、今回観てみました。結論を言うと、10年寝かせておいてよかったと思う。今観ると圧倒的大傑作であり、沁みるものがありました。

『その街のこども』あらすじ


2010年1月16日、新神戸駅で偶然知り合った勇治(森山未來)と美夏(佐藤江梨子)。ふたりには、誰にも言えず、抱え続けてきた震災の記憶があった…。震災15年目の朝を迎えるまでの一晩の神戸を舞台に“語れずにいた想(おも)い”が不器用にあふれだす。脚本は映画「ジョゼと虎と魚たち」の渡辺あや。神戸で学生時代を過ごした渡辺、子どものころに震災を体験した森山未來と佐藤江梨子が、リアルな感情で挑む。
※NHKより引用

ヒールと段差、聖域と破壊

会社の人を放置して突然新神戸駅に降り立つ勇治(森山未來)。ナンパするように美夏(佐藤江梨子)に迫るが、彼女から声をかけられて気まずくなる。間合いの衝突が居心地の悪さを与え、行きずりで一緒に三宮を目指すことになる。そして居酒屋で、阪神淡路大震災の時の話をする。勇治は、あの時の悲惨さから目を背ける為、自分を大きく見せるために父親が屋根商売で儲けた話をするのだが、あまりのゲスさに彼女はドン引きして去っていく。しかし、コインロッカーの鍵を彼が持っていたことから再び二人は巡り会い、三宮を目指す。10年以上ぶりに故郷に戻ってきた二人が会話を通じて、傷を癒し、過去と対峙するプロットなのだが、会話に頼らず空間で心理的距離感を作り出していく。その演出技法が凄まじくて画面に引き込まれた。

例えば、美夏のヒールに注目していただきたい。勇治がストーカーしている場面では、エスカレーターが使われることで気にはなない。そして彼女が話しかける時の、周囲からの目線も単に痴漢摘発か何かをみた時のような不信感の目と認識するだろう。しかしながら、段々とカメラが引いていくと、森山未來との身長差がかなりあることに気づかされる。そして彼女が改札に向かっていくことで全身が明らかとなり、高いヒールを履いているため180cmくらいの大きさだと言うことがわかるのです。そして、自分から行動して巻き込まれた突然の出会いによる困惑から落ち着きを取り戻すと、彼女との身長差が気になってか距離を取るようになる。コインロッカーで荷物をしまう際も、逆身長差カップルという好奇な目を回避するように陰にいるのだ。そして絶妙な距離を保ちながら、一緒に街を歩く。

そんな二人が居酒屋で阪神淡路大震災のことを語り合う。勇治は俯き越しに、父親が屋根商売で儲けたが村八分みたいな状況になり東京に上京したことをポジティブに語り、まるでオンラインサロンの人のように貶す人を「嫉妬だよ」と見下す。それに腹を立てた彼女は去ってしまう。だが、コインロッカーの鍵は彼が持っていたので再び二人は合流する。すると、彼女は高いヒールからブーツに履き替えて、一緒に三宮に行くことを提案し、歩み寄ってくるのだ。長年、蓄積されてきた心の膿を居酒屋で少し吐き出せた彼女は、彼に想いを寄せるのです。

「彼なら自分の痛みをわかってくれるかもしれない。」

自分の膿を出すのは辛いことである。それは居酒屋で勇治が俯きながら偽りの自分を演じ、過去と向き合う情況を見て彼女は知っている。だからタクシーやチャリンコといった短時間で目的地に着くツールを拒絶する。また、途中にあるライブハウスをスルーすることで、一対一の関係から自分を見つめ直そうとしているのだ。とはいっても、そうそう簡単に彼女は自分の聖域に他者が足を踏み入れることを受け入れられない。何かが破壊されてしまいそうだからだ。それを象徴的に表現するように、「ここが私の生誕地」として紹介する公園の一角に彼が入ろうとするのを拒絶したり、大事なことを話そうとする際には段差に登り彼と距離を取ろうとしたりする。そんな彼女に、ヒョイっと優しく歩み寄っていき、聖域の中で痛みを絞り出して行く勇治。

説明台詞で描いてしまいそうな映画でありながら、身体的動きでひたすら痛みを描いていくからこそ本作は力強いと言える。最後に、二人が握手をした時の高揚感に私は涙しました。1年後に二人はどうなったのか?は気になるし、当時高校生だった自分が東日本大震災から10年の時が経ったことに痛みを感じる今に観て正解だっと言えよう。

※映画.comより画像引用

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