『仁義』赤くて青い、いや青くて青い

仁義(1970)
LE CERCLE ROUGE

監督:ジャン=ピエール・メルヴィル
出演:アラン・ドロン、イヴ・モンタン、ジャン・マリア・ヴォロンテ、フランソワ・ペリエetc

評価:95点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

ディズニーがコロナ禍を受けて劇場映画から配信用に注力するという話が物議を醸した。2010年代のVOD、サブスクリプションの台頭で、配信が劇場を脅かす時代が来るのは容易に想像できたが、コロナで一気に前進した印象を受けた。では劇場映画と配信用の映画の違いはなんだろうか?『文化系のためのヒップホップ入門3』によれば、音楽は配信主体となったため、最初の1分で要素を畳み掛ける曲が増えたと語っているが、映画も例外ではなくなるであろう。既にyoutubeの世界では、視聴者がチャンネルを変えないように冒頭にインパクトを持ってくることを重要視している。クライマックスをチラ見せするなどして、視聴者の興味を持続させようとする。配信で映画を観ることは、つまらなかったら途中でやめるという行為が極端に容易となっており、映画は冒頭重視、インパクト重視となるのではないだろうか?あるいは、それに抵抗するならばテレビドラマ的なダラダラとした持続という方法を取るかもしれない。さて、それで忘れ去られてしまうであろう映画の魅力《間》について考えていきたい。もはや今いる中でエンターテイメントを《間》で紡ぎ出す監督はS・クレイグ・ザラーしかいないだろう。ドゥニ・ヴィルヌーヴも『ブレードランナー2049』で《間》を潤沢に使っていたが、『DUNE/デューン 砂の惑星』の予告編を観るとそこまで期待できない。

さて、今回そんな映画の《間》を忘れそうな時代への処方箋として『仁義』を紹介したい。『サムライ』で静かに車を奪う場面を重厚に描いたジャン=ピエール・メルヴィル監督作品だ。60~70年代のフレンチノワールは『地下室のメロディー』など芳醇な映画の間を紡ぎ出していた。その中でも本作は屈指の傑作であった。

『仁義』あらすじ


決して会ってはならぬ五人の男が、運命の糸に繰られて対決へ追いこまれる。友情と裏切りがあやなす意地と仁義の男の世界の物語。製作ロベール・ドルフマン、監督・脚本は、「影の軍隊」のジャン・ピエール・メルヴィル、撮影を「サムライ」のアンリ・ドカエ、音楽は「シェルブールの雨傘」のミシェル・ルグラン、出演は「ボルサリーノ」のアラン・ドロン、「パリのめぐり逢い」のイヴ・モンタン、「サムライ」のフランンワ・ペリエ、「クリスマス・ツリー」のブールビル、「血斗のジャンゴ」のジャン・マリア・ヴォロンテなど。
映画.comより引用

赤くて青い、いや青くて青い

護送されている男ヴォーゲル(ジャン・マリア・ヴォロンテ)は厳重な体制で列車に詰め込まれた。二段ベッド上段に手錠が繋がれ身動きが取れない。下の段で警察が目を光らせている。だが、ヴォーゲルはやり手だった。手錠を外し、明け方脱出のタイミングを見計らう。警察が目を覚ます。50cmのスリル。バレるかバレないかの刹那をカットせず描き、そひてえいやと彼は列車から逃走する。追う警官、追われる男。銃を撃つが、木にあたり間一髪難を逃れる。王道クリシェの逃走シーンであるにもかかわらず、スマホが存在せずコンピュータが市民からかけ離れた時代における時間をスパイスとしてまぶした重厚なショットに圧倒される。これが2時間20分失速しないのがジャン=ピエール・メルヴィルの職人芸。

アラン・ドロン演じるムショ上がりの男コレーは明け方のビリヤード場に入る。一人玉突きするのを上から見下ろす。彼が玉を突こうとした時に、横槍が入る青い空間はあまりの美しさに失神しそうになります。彼は横槍を入れた男から金を奪い、車で逃走する。この二人が思わぬ出会いを果たす。食堂でコレーが食事をしている最中、ヴォーゲルが彼のトランクに忍びこむのだ。

コレーが敵ヤクザに捕まり銃を向けられると、ヴォーゲルが後ろから回り込み挟撃に成功する。そのコンビネーションが後にさらなる映画的魅力を引き出すことを予見させながら、血塗られた札束の代わりに宝石強盗を働くこととなる。ヴォーゲルの元仲間でスナイパーのジャンセン(イヴ・モンタン)の手を借り、鉄格子先にあるスイッチを射抜かせようとするのだ。

一つ一つの描写を丁寧に描くことで生まれるスリルを極限まで追求し、例えば窓ガラスを丸く切り抜く際に、僅かな音に警備員が反応する姿や、スイッチを切ども、大事なセンサーが直ぐには切れず一抹の不安を匂わせるところなどにリアルがある。映画は時間の芸術であるが、一方で時間を切り刻む事で失われてしまうスリルがある。ジャン=ピエール・メルヴィルは多くのアクション映画で忘れがちな間によるスリルをとことん追求した大傑作でありました。

※JustWatchより画像引用

created by Rinker
NHKエンタープライズ
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