『LISTEN(2020)』万引き家族のその後…

LISTEN(2020)

監督:アナ・ロッカ・デ・スーザ
出演:Lúcia Moniz, Sophia Myles, Ruben Garcia etc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

障がいや貧困、ジェンダーといった社会的問題を抱えた者がどのように社会と関わっていくかに特化したオンライン映画祭True Colors Festivalでアナ・ロッカ・デ・スーザの『LISTEN』が配信された。本作は、第77回ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門にて審査員特別賞含め5冠に輝いた注目作だ。ポルトガル・リスボン出身の俳優アナ・ロッカ・デ・スーザ長編デビュー作であり、ロンドンで移民として暮らすポルトガル人一家の苦悩が描かれた作品である。最大の特徴は、物語の中心に聴覚障がい者の娘を配置しており、イギリス社会ないし、福祉の限界や無理解を批判したものとなっています。SCREENDAYLYのインタビュー記事によれば、人々の生活に関連した映画を作ろうと考えた際に、ポルトガルのとある家族から聞いた話からインスピレーションを受けて作ったとのこと。ありがたいことに日本語字幕で観ることができましたので感想を書いていきます。

『LISTEN』あらすじ


ロンドン郊外に住むポルトガル人のベラとジョタには3人の子どもがいた。生活費を稼ぐのに苦労する日々。一方で、学校では耳の聞こえない娘への誤解が起こり、イギリスの社会福祉事業が子どもたちを守っているのか懸念を抱き始める。
アナ・ロッチャ・デ・スーザ監督の長編デビュー作で、移民の両親が家族を守るために法律に立ち向かう姿を描く。2020年ヴェネツィア国際映画祭の「審査員特別賞」と「ルイジ・ディ・ラウエンティス第1回作品賞」を受賞した。
※True Colors Festivalサイトより引用

万引き家族のその後…

とある家族の1日が始まる。何かに怯えたように朝の身支度を始める。夫に重要な注意事項を言い渡す母。何故か味方であるはずのソーシャルワーカーを警戒しているようだ。そして母は子を連れてゴミ捨て場にやってくると、ダンボールを敷き詰め、ここで待っているように言う。灰色の寒空に晒された捨て犬のような赤子を余所に、母はスーパーを目指す。スーパーではカメラを掻い潜って、日用品をベビーカーに押し込む万引きを行い、引きつった刹那の笑みで店員と軽い会話を交わす。

そんなとあるポルトガル移民のサバイバル生活を一通り描くと、本題である聴覚障がい者の娘にフォーカスが当たる。補聴器が高くて買えないので娘とは手話を使って会話をする。学校ではどうもそれが原因でいじめられているらしい。「手話」でしか会話できない娘と対照的に、父親同様病気がちな息子が出てくる。彼は貧困暮らしを強いる原因となった父に反発するように「英語」を使う。父は「家ではポルトガル語を使ってくれ」と語るのだが、息子はそれを無視する。給料日までほとんど口にできない状態となっており喧嘩する体力もない息子の僅かな抵抗がそこに現れる。この構図から、貧困によってコミュニケーションが取れなくなった家族を象徴させており、そこを掘り下げていくことで映画に深みを与えていく。

やがて福祉局の人によって娘、息子を奪われてしまう。力のない父に代わって、母は訴訟を起こそうとする。ようやく娘と対面できても、局員は「英語以外使うな!」と言い放ち、手話でのコミュニケーションすら封じていく。あまりに理不尽なやり方。法に則ってはいるが、あまりにも凄惨な対応に怒りを募らせていく。たった70分の作品でありながらもドライでパワフルなドラマに魅了された。一方で、自分の芸術性よりも人間の生活に力点を置いているせいか、映画表現としての面白さが削ぎ落とされてしまったところに弱さを感じる。『万引き家族』で展開される冒頭の万引きシーンは、ジャン=ピエール・メルヴィルのようなスリルに満ちた視線の交差があった。映画というのは、どうあがいてもクリエイターの好奇心がなければ作れないものだ。故に、社会的問題に注目した作品こそ映画的視覚表現を追い求めるべきだと考えている。それを廃して、さも世の中には大変なことがありますよと訴えても、安全圏から語ることへの欺瞞が滲み出てしまう。

その点で、この映画は弱いし、所詮観る目を失った世界三大映画祭の審査員にウケる映画止まりという印象を抱く。

それでも、コミュニケーション不全という裏テーマを肉付けするために配置した息子像や、面会のシーンの力強さは大いに評価できる。『万引き家族』のその後を描いた作品としての高いポテンシャルを感じるだけにアナ・ロッカ・デ・スーザ監督は応援していきたい。

※clineuropaより画像引用

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