【ブンブンシネマランキング2020】新作部門1位は『本気のしるし 劇場版』

【ブンブンシネマランキング2020】新作部門

さて、今年も恒例のこの企画がやってまいりました。

「ブンブンシネマランキング」!

2020年は波乱万丈でありました。新年早々、カルロス・ゴーン逃走事件にイランとアメリカの激しい軋轢があり、そして新型コロナウイルスが全世界でパンデミックを引き起こし我々の生活はガラリと変わりました。『AKIRA』いや『麻雀放浪記2020』の世界が現実に訪れ、東京オリンピックは幻となりましたが、映画界隈では「映画館で映画を観ること自体が貴重となる」世界が思いの外早くやってきました。アメリカの映画館が長期間にわたり閉鎖されたことで、ブロックバスター映画は軒並み公開延期となった。そして2010年代、片っ端から映画会社をサノスがごとく買収していったディズニーが、配信中心の映画ビジネスにシフトすると宣言。これにより、『ムーラン』や『ソウルフル・ワールド』といった映画館観賞推奨作が配信スルーとなってしまった。これにより落胆する映画ファンは少なくなかった。しかしながら、良い側面もある。従来、語学や映画の知識が必要であった異次元の映画掘りが気軽にできる環境が密かに整っていたのだ。MUBIのような、未知の映画を配信し続けるプラットフォームだけではなく、Amazon Prime VideoやNetflixでも毎週のように謎のインディーズ映画やインドやアフリカのローカル映画が配信されている。さらには、海外や地方の映画祭もオンライン開催するようになり、見逃すとアクセスする機会のない作品に出会うチャンスが増えた。

映画の世界の広がりが加速したと言えよう。

そんな年だからこそ、私チェ・ブンブンは猗窩座のように「鬼にならないか?」と読者のインスピレーションを刺激したい。

そんな私が選ぶ、異次元の傑作を20本発表していきます。

領域展開!

【ブンブンシネマランキング2020】旧作部門1位は『臆病者はひざまずく』
【ブンブンシネマランキング2020】ワースト1位は『リベルテ』
チェブンブンブックランキング2020 1位は『映像研には手を出すな!』

※タイトルクリックすると詳細作品評に飛べます。

20.映画 おかあさんといっしょ すりかえかめんをつかまえろ!

出演:花田ゆういちろう、小野あつこ、福尾誠、秋元杏月、小林よしひさ、上原りさ、横山だいすけ、賀来賢人etc
シネフィル、日本映画マニアでもなかなか『おかあさんといっしょ』を観ている人はいない。しかしながら、『おかあさんといっしょ』ほど映画理論に忠実で社会派とエンターテイメントとアートを両立させたシリーズはなかろう。映画第二弾である『映画 おかあさんといっしょ すりかえかめんをつかまえろ!』は、赤坂太輔「フレームの外へ: 現代映画のメディア批判」で語られるフレームの外側を潤沢さを大事にしている。『鬼滅の刃 無限列車編』や『新解釈・三國志』、『約束のネバーランド』と最近の映画は、敵の思惑や、その時の心情を全てキャラクターに語らせる。そしてフレームの中だけで世界を描こうとしている。それは一見親切なようにも見える。実際にこの手の映画はヒットしやすい。しかしながら、それは観客の想像力を信用しておらず、どこか窮屈に感じてしまう。『映画 おかあさんといっしょ すりかえかめんをつかまえろ!』では、ガラピコぷ〜の愉快な仲間たちがフレームの外でどんちゃん騒ぎを引き起こし、フレーム内では草原が映っているだけの場面がある。しかし、劇場に来ていた子どもたちは笑って楽しんでいたのである。そして子どもだから分からないでしょうと高を括る事をせずに、イタズラをし続けないと誰にも認知されず消滅してしまう存在のすりかえかめんとどのように関係を紡いでいくのかといった高度な議論に発展していくところに感銘を受けました。

来年の新作『映画 おかあさんといっしょ ヘンテコ世界からの脱出!』も非常に楽しみだ。

【ネタバレ】『映画 おかあさんといっしょ はじめての大冒険』独身男性単身、日本最古のシネコンで観てみた

余談だが、今年の子ども映画関連ニュースには悲劇がある。しまじろう映画を手がけてきた平林勇監督が満を期して大人向けの映画『SHELL and JOINT』を製作したのだが、コロナ禍の緊急事態宣言の騒動によってシネフィルや日本映画ファンの目にほとんど触れず終わってしまったことが無念だ。ロイ・アンダーソンのようなドライな構図の中で延々と癖について語る前衛的なスタイルは、子ども向け映画以外の物語を紡ぎたい監督の強い意志を感じているだけに応援したいものがあります。

尚、本作の応援評を彼のnoteに書かせていただいたのですが、折角子ども映画好きだということもあり、しまじろう映画全作品評を書きました。2020年上半期のハイライトです。

【しまじろう映画研究1】『しまじろうとおおきなき』劇場版おかあさんといっしょの原石
【しまじろう映画研究2】『しまじろうとえほんのくに』喧嘩するのは悪いこと?
【しまじろう映画研究3】『しまじろうとにじのオアシス』ガラガラヘビがやってくるお腹をすかせてやってくる
【しまじろう映画研究4】『しまじろうとフフのだいぼうけん すくえ!七色の花』色彩を持たないハナつくると、彼の巡礼の年
【しまじろう映画研究5】『しまじろうとくじらのうた』いじめっ子の本質を探る

19.国葬(State Funeral)

監督:セルゲイ・ロズニツァ

コロナ禍でセルゲイ・ロズニツの厳ついドキュメンタリー群が公開され、イメージフォーラムが連日大盛況になったことは個人的にミニシアター界の『鬼滅の刃 無限列車編』だと思っている。さて、今年は『ミセス・ノイズィ』といったメディアにおける情報の切り取り方の危うさを描いた作品が話題となったが、その特性をプロパガンダの再構築によって提示した『国葬』に注目していただきたい。睡魔押し寄せる、夢の中にまでスターリンを讃える群衆の声が轟くこのスターリン国葬映像コラージュは、実際のところ『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』で描かれているように対外的に見栄を張っていた事実が圧倒的な荘厳さでかき消される恐怖がヒシヒシと伝わってくる。

よくよく見れば、大砲の轟きが、ありえない場所にまで木霊し、群衆がスターリンの方向を向く映画的ショットになっているにもかかわらず、スターリンの偉大さを思わず信じてしまいそうになる。メディアやSNSの表面的な意見に付和雷同、自分の意見が歪められてしまう今必要な処方箋と言えよう。

18.DAU.ナターシャ(DAU. Natasha)

監督:イリヤ・フルジャノフスキー、Jekaterina Oertel
出演:Natalia Berezhnaya、Olga Shkabarnya、Alexandr Bozhik etc

日本公開2021年2月27日に決まった本作は、『脳内ニューヨーク』を現実にやってのけてしまったイリヤ・フルジャノフスキーたちの危険な離れ業を味わうことができる。ウクライナ・ハルキウに完全再現されたソ連で14本の即興的な映画が作られ、専用のVODプラットフォームで配信された。その1作目にあたる本作は、他者に依存する女ナターシャの暴力と儚き恋を凍てつくナイフのような映像で観る者を斬りつけていく。抑圧のソ連における暴力と依存の関係をアグレッシブに描いた『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン』ともいえる本作はDAUシリーズ屈指の面白さを誇る。その一方で、第70回ベルリン国際映画祭上映時にはパワハラ/セクハラ問題があったのではと疑惑が持たれ非難された作品でもある。

2020年の日本は深田晃司をはじめとする映画人が業界のパワハラ/セクハラに立ち向かい、映画ファンの間でもこの問題に関心を持つようになった。しかしながら、一方でアメリカやフランスの暴力的なデモのようになっているようにも感じられる。アップリンク、ユジクのパワハラ問題は時と共に簡単に風化してしまった。キム・ギドク死去に対して、ヤン・ヨンヒがコメントしたことを筆頭に、キム・ギドクを追討しただけで有罪となってしまう空気が流れた。それにより、今までキム・ギドク映画を好きだと言っていた人がコロッと意見を変えてしまう様子も見た。確かに、パワハラ/セクハラはもはや時代遅れである。しかしながら、その正義を武器に人の思想を無理に変えようとするTwitterの声もまた暴力だと思っている。

そして、『DAU.ナターシャ』公開が決まった時、ほとんど本作の問題点が議論されなかった、アップリンクで公開されるというのに然程話題にならなかったことに欺瞞を感じてしまう。結局、話題に付和雷同なっているだけではないのだろうか?

というわけで是非とも『DAU.ナターシャ』は実際に観て、傑作か駄作か自分の内心に従って判断してほしい。

『DAU. Degeneration』密です、疎です。二人合わせてダルです。
『DAU. NORA MOTHER』その結婚は勲章のため?オカン、娘に圧迫面接の巻
『DAU. THREE DAYS』ユニバース映画の戦略論〜クズ男の生態森羅万象〜
『DAU. Brave People』#検察庁法改正案に抗議します な日本と通ずる慟哭鎮魂歌
『DAU. KATYA TANYA』男に消費され、女に癒しを求める。ちょっと陳腐かなぁ
『DAU. STRING THEORY』能ある鷹は罪を隠す

※正直、映画版DAUに関してはKnights of Odessaさんが詳しいので下記あたりを参照することオススメします。
イリヤ・フルジャノフスキー&エカテリーナ・エルテル『DAU. ナターシャ』壮大なる企画への入り口
イリヤ・フルジャノフスキー『DAU.』主要登場人物経歴一覧

17.TOMMASO

監督:アベル・フェラーラ
出演:Cristina Chiriac、ウィレム・デフォー、アンナ・フェラーラetc

監督の癖や心象世界をひけらかす自慰映画というジャンルがある。テレンス・マリックや河瀨直美がその代表である。ただ、どちらも面白いかと訊かれたら「NO」と答える。一方で、アベル・フェラーラの自慰映画との相性は抜群である。アベル・フェラーラは信仰を失ったかのように見える汚れた街にある微かな信仰というものを一貫して描いている。『TOMMASO』はウィレム・デフォー演じる家族ほっぽり出して、イタリア語教室の先生やBARの女を口説き、アーティストとしてスランプに陥っていることをひた隠しにしようとする男が、妻という存在が遠くなる現象を通じて「誰かをコントロールしたい」欲望と向き合っていく。サイケデリックな映像の中で、クズ男が内なる悪と対峙していく様子は人間味に溢れていてとても面白かった。

16.Kajillionaire

監督:ミランダ・ジュライ
出演:エヴァン・レイチェル・ウッド、デブラ・ウィンガー、ジーナ・ロドリゲス、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフetc

銀行の金庫から金目のモノを奪い、壁から泡が染み出してくる空間を拠点にせせこましく生活するコソ泥家族に新メンバーが加わったことで、ヒロインのオールド・ドリオが動揺する。狭いコミュニティで、人間関係が変わるときに感じる疎外を奇抜な表現で提示する本作は観ていてとにかく面白い。特に、地震を使った表現が親近感を抱き、人間関係が崩れる音が自分の心にも響き渡りました。

恐らく、日本の方が刺さる人多いと思われるので一刻も早く日本公開してほしい。

15.死ぬ間際(Sepelenmis Ölümler Arasinda)

監督:ヒラル・バイダロフ
出演:Orkhan Iskandarli,Rana Asgarova,Huseyn Nasirov etc

コロナ禍でアカデミー賞系の作品が少ないおかげで第77回ヴェネツィア国際映画祭は変わった国のユニークな作品に注目が集まった。今回の『ノマドランド』もそうだが、『JOKER/ジョーカー』、『ROMA/ローマ』、『シェイプ・オブ・ウォーター』と知名度だけで金獅子賞を獲っている傾向が強いのですが、それでもアゼルバイジャンからやってきた初長編監督作『死ぬ間際』をコンペティション部門に入れたヴェネツィアは素晴らしいと思う。さて、本作はテオ・アンゲロプロスの霧マジックをアゼルバイジャンの大地に当てはめ、観たこともないような緑の霧を駆使して、死を呼び寄せる磁場を持つ男の放浪を美しく描く。バイクから花嫁と降り、丘を歩くと濃霧がかかり、そのまま何故かバイクのもとに引き返す長回しの圧倒的迫力、『蛇の道』や『蜘蛛の瞳』の黒沢清を彷彿とさせる乾いた銃声がシャープに決まった本作を観ると、ヒラル・バイダロフ監督の今後に期待である。

14.皮膚を売った男(The Man Who Sold His Skin)

監督:カオテール・ベン・ハニア
出演:モニカ・ベルッチ、ケーン・デ・ボーウ、ヤヤ・マへイニetc

第33回東京国際映画祭で一番の掘り出しモノは中東を扱った映画の中で群を抜いてエンターテイメントとしての面白さを持った社会派サスペンスであった。フラッシュモブ的動画がきっかけで逮捕された男の壮絶な逃走劇はヒッチコック『三十九夜』を彷彿とさせられる。逃げ惑う男は、危険なオーラを纏う芸術家に雇われ、背中にビザを焼き付けられ、美術館に展示される。富と安全を手に入れた彼だったが、アート論争の渦中にいながら、モノ故に蚊帳の外という疎外感の中でモヤモヤを募らせていく。観客をチクチクと刺す芸術との向き合い方を軸に、どこに転がるかわからないストーリーテリングで弄ばれる感覚が好きでした。

日本公開してほしい。

ちなみに今年のヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門はアタリが多く、最近のイラン映画とは風格が違う意欲作『荒れ地』、『迂闊な犯罪』、カザフスタンから現れた『サムライ』のアラン・ドロンのモノマネをする男が映画館を作ろうとする『イエローキャット』、死の淵に瀕した男が息子の里親を探す『NOWHERE SPECIAL』などといった秀作が集まっていた。コンペ以上にオリゾンティ部門重要だなと感じた年でした。

13.天国にちがいない(It Must Be Heaven)

監督:エリア・スレイマン
出演:エリア・スレイマン、アリ・スリマン、ロバート・ヒグデン、Sebastien Beaulac etc

エリア・スレイマンの風刺コントは相変わらず面白い。ツイアビがヨーロッパに渡った際に目にした白人の滑稽なライフスタイルを彼の言語で表現するように、エリア・スレイマンも婉曲に婉曲な表現を重ねて企画を断るフランスのプロデューサーや、街ゆく人皆が銃を持っていてタクシーからロケットランチャーが出てくる異様な姿を画面に紡ぐことで滑稽な風刺を生み出している。フランスの噴水広場の椅子を死守するために、椅子を尻にあて続けながら移動したりする姿は爆笑である。尚、劇中に謎の日本人がエリア・スレイマンに語りかけてくるシーンがあるのですが、あれは監督の実体験だそうです。

D.I.』からパワーアップしたエリア・スレイマン新作『天国にちがいない』は日本公開2021年1月29日です。

12.透明人間(The Invisible Man)

監督:リー・ワネル
出演:エリザベス・モス、オルディス・ホッジ、ストーム・リードetc

リー・ワネルのエンターテイメントホラー映画『透明人間』はジョージ・キューカーの『ガス燈(1944)』の色を纏った辛辣な社会派映画でありました。無駄に広くて冷たい空間を逃げ惑う女を描くところから、一切妥協のない映画だということがわかるのですが、DV夫が死亡してから巻き起こる様々な怪奇現象を誰も信じてくれず、ドンドンと人間関係が崩壊していく姿は本当に怖かった。DVに遭っている者がどんなに声をあげようとも寄り添うのは暴力だけという現実問題を透明人間に例えたリー・ワネルのセンスに拍手したい。

尚、透明人間のフォルムがめちゃくちゃカッコイイのも、DVする側が持つ妙な魅力と紐づいていてよかったです。

それにしても、エリザベス・モスって床を這いつくばって暴れる演技がうまいですよね。

11.SWALLOW/スワロウ(SWALLOW)

監督:Carlo Mirabella-Davis
出演:ヘイリー・ベネット、オースティン・ストウェル、デニス・オヘアetc

妻というラベルの下にただの存在として抑圧されてしまう痛みを「飲み込む」というアクションで表象したCarlo Mirabella-Davis『SWALLOW/スワロウ』は背筋が凍るトラウマ映画でした。夫は優しいが、どこか妻を自分の世界の外側に追いやろうとしている孤独に耐えきれなくなった女が、ビー玉、画鋲とあらゆるモノを飲み込む癖に目覚める。腹の赤子を殺して構わない勢いで、痛みを快感にしてしまう彼女を「異常」と捉えて精神病院に入れてしまう夫にどこか『ミセス・ノイズィ』の傍観者に徹する夫像が重なります。そんな女性の痛みを映画文法に翻訳したCarlo Mirabella-Davisの才能は今後注目である。

日本公開は2021年1月1日(新年早々観る映画ではない気が…)

【ブンブンシネマランキング2020】ワースト1位は『リベルテ』
チェブンブンブックランキング2020 1位は『映像研には手を出すな!』

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