【東京国際映画祭】『皮膚を売った男』難民が国境を超えるのは難しい。ならば商品にしてしまえ!

皮膚を売った男(2020)
The Man Who Sold His Skin

監督:カオテール・ベン・ハニア
出演:モニカ・ベルッチ、ケーン・デ・ボーウ、ヤヤ・マへイニetc

評価:95点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第77回ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門にて男優賞(ヤヤ・マへイニ)を獲った作品。今年のオリゾンティ部門は『Nowhere Special』や『迂闊な犯罪』、『イエローキャット』ととにかくレベルが高い。なので第33回東京国際映画祭上映が決まった際に真っ先にロックオンしたのだが、想像を遥かに超える大傑作であった。

『皮膚を売った男』あらすじ


シリアから脱出した男が、現代アートの巨匠から驚愕のオファーを受ける。それは男自身がアート作品になることだった…。移民問題での偽善や、現代アートを巡る知的欺瞞を鮮やかに風刺する人間ドラマ。
※東京国際映画祭サイトより引用

難民が国境を超えるのは難しい。ならば商品にしてしまえ!

中東問題を扱った作品は問題提起が先行してしまいどうしても似たり寄ったりな作品ができてしまうものだが、本作はエンターテイメントに仕上がっており、尚且つ斬新な演出と理論的な問題提起が鋭い点、格が違います。

ぼんやりとした白い空間から、スーツ姿の男が現れ、ぐるぐると鏡や曖昧な空間を周り観る者を錯乱させながら、ある美術品が飾られる場面に立ち会う。しかし、その美術品の正体は分からない。極端なクローズアップで、作品の一部しか魅せてくれないからだ。

さて、場面は変わる。
サム・アリ(ヤヤ・マへイニ)はフラッシュモブ的パフォーマンスで女を口説くのだが、その口説き文句が誤解を招きお縄となる。彼が牢屋に入れられるのだが、カメラがスッと下に降りると無数の囚人がすし詰となっている。これだけでショットの拘りが感じられる。彼は愛する恋人を置いてレバノンに亡命する。ベイルートでヒヨコ鑑別の仕事をしながらフラフラと美術品の取引現場に紛れ込んだのがキッカケでベルギーの鬼才ジェフリーに掴まる。ここでまるでファウストとメフィストの知的で邪悪な駆け引きが始まる。

ジェフリー(Koen De Bouw)はアメリカ人でありベルギー人でもある。そして持てる男だ。彼の弄ぶ姿にムッとなる。彼が詩的に「馬が欲しい」と言うと、「では魔法の絨毯をあげよう」と語り契りを交わすこととなる。

これは挑発的なアートプロジェクトであった。

ジェフリーはアリの背中にシェンゲン・ビザの刺青を入れたのだ。ジェフリーはこう語る。

「難民が国境を渡るのは至難だ。だが商品は容易く国境を超える。ならば人を商品にしてしまえばいいのでは?」

彼はアリは美術品となり、美術館に陳列されることで莫大な富と自由を得た。しかしながら、祖国の家族から「冒涜だ」と罵られ、人権団体からは「あなたを救う」と言い寄られる。そして彼自身は美術館で気軽に人に話しかけることができない。これは本当の自由なのだろうか?人々は本当にシリアの問題と向き合っているのだろうかと猜疑心にかられて苦しみ始めるのだ。

本作は、アートの持つ挑発性をとして実際にあった話をモチーフにしている。そして無から莫大な富を生み出すアートの危うさを批判しつつ利用しつつ、観客に常に問題提起を投げかける。

サム・アリは可哀想な男なのだろうか?

ジェフリーはクズなのか?

そして、僅かな隙を縫って、陰惨な工作が行われたり、チクチクと心の内面をえぐってきたりする演出に度肝を抜かれました。また、背中にビザを描くと言う行為が単なる出オチではなく、美術品としての管理が甘く、背中に吹き出物ができて商品価値が落ちたり、オークションで転々と人身売買がごとく人の手にアリが移動していったりと生々しい描写を畳み掛けており、これぞ映画だと思いました。

これは日本公開して欲しい。

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