『GENUS PAN』森が本能を呼び覚ますラヴ・ディアスの魔法

ジーナス・パン(2020)
英題:GENUS PAN
原題:Lahi, Hayop

監督:ラヴ・ディアス
出演:Nanding Josef, Bart Guingona, Don Melvin Boongaling etc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第77回ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門で監督賞を受賞したラヴ・ディアス『GENUS PAN』を観ました。

『GENUS PAN』あらすじ


Four years after winning the Golden Lion in 2016 for The Woman Who Left, Lav Diaz is back in Venice with yet another story of marginalization shot in vivid black and white and reflecting on the notions of “human” and “humanity”.
※festival scopeより引用

森が本能を呼び覚ますラヴ・ディアスの魔法

金鉱で長閑に人々は歌う。給料日だからだ。金鉱のシーズンが終わり、労働者は給料持って故郷に帰るのだ。Andres(Don Melvin Boongaling)は故郷に帰るためにBaldomero(Nanding Josef)に航海の手配をしてもらうのだが、給料日になりマネージャーから恐喝されて給料をピンハネされてしまう。旅費も払ったら彼にはお金があまり残っておらず病気の妹に薬を帰るか怪しくなってくる。旅立ちの前から怒りに震える彼を仲間のPaulo(Bart Guingona)がなだめつつ旅が始まる。

本作は2018年に作られたオムニバス映画『それぞれの道のり』の一編『Hugaw (Dirt)』でのアイデアを長編化させた作品であり、「労働者3人が密林で不思議な体験」というプロットを軸にしている。フィリピンはアメリカ、スペイン、日本などに侵略搾取されている歴史を持っており、その結果アイデンティティーが複雑怪奇となっている。そして、そこへ貧困が重なり、信仰が失われ本能的暴力に支配されている。

搾取される男Andres、搾取する男Baldomeroの間に立つPauloは宗教を自分の中へ取り込み理性を保とうとするが、AndresとBaldomeroは森の深淵に入るうちに内なる暴力が爆発していく。そして、その暴力は道中で出会った女にまで向けられる。

ラヴ・ディアス監督は、FILMMAKERのインタビューで次のように語っている。

Filmmaker: What does it mean that Paulo and Baldomero, both biracial sons of Hugaw Island’s Japanese occupiers, indulge in the same sexual tryst with a sex worker on a “holy day” before their journey home that the Japanese did when they abducted women from the neighboring islands during their occupancy of the Philippines?

Diaz: I call it the garrison mentality, commonly practiced when a group or a great number of the male species are concentrated in an isolated area, and the natural craving to connect with the female species overwhelms them. This culture [resorted] to, [most gravely] during wartimes and occupations, crimes on women. Japan, for one, admitted to the comfort women atrocities, where in their occupied territories, women were abducted and were forced to be sex slaves of the Imperial soldiers.
訳:
Filmmaker:フーガウ島の日本人占領者の息子であるパウロとバルドメロが、帰国前の「聖なる日」に、フィリピン占領中に日本人が近隣の島々から女性を拉致した時と同じように、セックス・ワーカーとの性行為に耽るというのはどういうことなのでしょうか?

ディアス:私はこれを「駐留メンタリティ」と呼んでいます。これは、ある集団または多数の男性種が孤立した地域に集中し、女性種とつながりたいという自然な欲求が彼らを圧倒するときによく行われるものです。この文化は、戦時中や占領下では、女性に対する犯罪に[最も深刻な形で]頼っていた。日本は、占領地で女性が拉致され、帝国軍兵士の性奴隷にさせられた慰安婦残虐行為を認めています。

植民地化のトラウマは、それを経験した文化から逃れられない研究を基に彼は暴力の連鎖を描いている。宗教も文化も搾取によって破壊されたフィリピンにとって暴力は、より弱者へ弱者へと向かっていく。AndresはBaldomeroやマネージャーに、Baldomeroは狂人Inggo(Joel Saracho)に、マネージャーはもっと大きな存在に搾取されていく。その底なしに蹂躙されていく、まるで肉食動物のように獲物を仕留め貪り食う。

ラヴ・ディアスとしては短く分かりやすい、一方で悪い意味で陳腐な弱肉強食劇になっていたりするのですが、これは比較的日本公開しやすいのではないだろうか。日本人が知らない、フィリピンでの搾取を知る機会にもなっている作品でした。

※IMDbより画像引用

参考資料

“My Faith (and It’s Not Catholic) In My Cinema Remains Pure”: Lav Diaz on Genus Pan(Aaron Hunt,2020/9/12)

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