『ナイチンゲール/The Nightingale』二項対立の危険性をジェニファー・ケントは観客に刺す

ナイチンゲール(2018)
The Nightingale

監督:ジェニファー・ケント
出演:アイスリング・フランシオシ、サム・クラフリン、Baykali Ganambarr etc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

『ババドック 暗闇の魔物』で子育て鬱の心情を絶望的に描き、2010年代を代表とする胸糞映画監督の仲間入りを果たしたジェニファー・ケント。そんな彼女の新作『The Nightingale』が第75回ヴェネツィア国際映画祭で審査員特別賞、マルチェロ・マストロヤンニ賞の2冠に輝きました。19世紀オーストラリア流刑植民地であった性的暴行にインスパイア受けて作られた本作は強烈な暴力シーンから、映画祭上映時から賛否が分かれていました。しかし、本作は今の時代に生まれるべくして生まれた力強い作品だったので紹介していきます。

『ナイチンゲール』あらすじ


Set in 1825, Clare, a young Irish convict woman, chases a British officer through the rugged Tasmanian wilderness, bent on revenge for a terrible act of violence he committed against her family. On the way she enlists the services of an Aboriginal tracker named Billy, who is also marked by trauma from his own violence-filled past.
訳:時は1825年、アイルランドの若い囚人女性クレアは、タスマニアの荒々しい荒野を通り抜けてイギリス軍将校を追いかけ、家族に対して行った恐ろしい暴力行為に対する復讐に屈しました。途中、彼女はビリーという名前のアボリジニの追跡稼業と出会い依頼する。彼はまた、彼自身の暴力に満ちた過去からのトラウマに取り憑かれている。
imdbより引用

二項対立の危険性をジェニファー・ケントは観客に刺す

本作のテーマは、男による女性に対する暴力である。#MeToo運動で明るみに出た男性の暴力の数々は、映画でも沢山描かれてきた。本作も舞台は19世紀オーストラリアながらも、そこにあるメッセージは《今》に向いている。しかしながら、多くの映画が女性対男性の二項対立に持っていこうとするのだが、本作は『Knife + Heart』同様、多層的に問題を捉えることで、安易に消化されない物語へと進化を遂げた。

冒頭、英国人将校ホーキンスのキツい仕打ちが女囚クレアに襲いかかる。彼は、女性を痛めつけ、女性が許しを求めて主従関係が成立するプロセスを楽しむ男だ。邪魔する者は容赦無く射殺する。彼女は、夫と子供の前で犯されてしまう。あまりに酷い場面に目を背けたくなるのだが、それを払いのけるように容赦無く暴力をつるべ打ちにしていく。

家族を失ったクレアは復讐の鬼と化し、旅に出る。道中で、アボリジニの男ビリーと出会い冒険に出るのだ。ここが面白いところなのだが、明らかにクレアはビリーを軽視しているのだ。結局のところホーキンスに近い傲慢さを持っているのだ。弱者や意識的あるいは無意識にさらなる弱者を見下してしまう様を生々しく描いている。そして冒険映画の定石は、犬猿の仲だった二人が最後に溝を埋めていき友情すら芽生えてくるというものなのだが、それはない。ひたすらに平行線ドライな道中を歩み、数歩にじり寄る程度しか溝が深まらないのです。

差別や暴力は、二項関係で語ると、その外側に連鎖的に波及する差別まで捉えることができない。強烈かつアクション映画ばりの見応えある演出で、こうしたメッセージを十二分に伝えていくジェニファー・ケントの技量に圧倒されました。

ブロトピ:映画ブログの更新をブロトピしましょう!
ブロトピ:映画ブログ更新

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です