『大和(カリフォルニア)』閉塞感から抜け出すためにある言葉の杖

大和(カリフォルニア)(2016)

監督:宮崎大祐
出演:韓英恵、遠藤新菜、片岡礼子etc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

昨年、ブンブンを熱狂させた旅行映画『TOURISM』。この作品の監督・宮崎大祐は、富田克也同様、自分の肉体で感じた《閉塞》というのをアートに滲ませることに長けた新鋭であり、昨今、勝てる映画として浅く薄っぺらい貧困像を物語に染み込ませるズルい日本映画群に辟易としているブンブンが偏愛する数少ない人である。そんな彼の旧作『大和(カリフォルニア)』があつぎのえいがかんkikiで上映されるということなので行ってきました。それにしても、あつぎのえいがかんkikiは富田克也やヤスミン・アフマドといったマニアックな監督の特集を組んでおり、アップリンクが遠くていけないブンブンにはありがたい映画館である。そして、期待に反することなく素晴らしい作品でした。

『大和(カリフォルニア)』あらすじ


「夜が終わる場所」の宮崎大祐監督、「霊的ボリシェヴィキ」「たとえば檸檬」の韓英恵主演による、神奈川県大和市を舞台にした音楽青春映画。厚木基地の住所はカリフォルニア州に属しているという都市伝説がまことしやかに囁かれている神奈川県大和市。十代のラッパー・長嶋サクラは米軍基地とともに発展をしてきたこの町で、日本人の母と兄、そして母の恋人で米兵のアビーに囲まれて暮らしている。アメリカのラッパーに憧れるサクラは、ラップの練習とケンカに明け暮れる毎日を送っていたが、そんなある日、カリフォルニアからアビーの娘レイがやってきた。レイとサクラは大好きな音楽の話をきっかけに徐々に距離を縮めていくが……。
映画.comより引用

閉塞感から抜け出すためにある言葉の杖

スマホがない80年代か?間延びした時が、燦々と照らされる太陽により、じっとりとアスファルトに溶け込んでいる。時の残骸となった朽ちた、金属が、米軍のジェット機による轟音で反響し、スクリーンの外側にまで暑苦しさが染み出す。そこで、一人佇み、原石とも言えよう荒削りなラップを反芻している女の子サクラがいた。彼女は、《暗夜行路》などといった難しい言葉を並べ、巧みに己のリリックを並べていくのだ。

そんな彼女は、退屈が流れる街を退屈そうに歩く。そして眼前に群がるヒップホップ集団に喧嘩を売り、あっさりと負けてしまう。彼女は自分の言葉を掴めずにいて、自分の言葉を探す為、辞書に齧り付く。しかし、彼女は既に言葉の杖の振り方を忘れてしまった。スランプだ。夢では、無数の観客の前で立ち竦む自分が投影される。無意識レベルにまで、言葉を掴めない自分に対する幻滅に心が蝕まれていたのだ。

そんな彼女が、再び言葉の杖を握り羽ばたくまでの過程から宮崎監督は地方都市・貧困層の《閉塞感》を描いている。言葉を知らない者は、自らの複雑な感情を消化できずに暴力的となる。そのメカニズムが閉塞感に通じていると彼は説いているのです。そして、アメリカから来た女の子レイとの関係を通じて言葉の壁とは何かをひたすら掘り進めていく。その演出に使われる要素の一つ一つが非常に鋭利となっている。

例えば、レイが家にやってくる場面。サクラと兄の部屋の狭間には、カーテンが敷かれている。それは国境のようにも思える。兄はフランクにレイと話す。彼女に合わせた言葉を語り、日本文化を紹介する。しかし、サクラは、カーテンの向こうで鎖国している。言葉の杖を使える者と使えない者の断絶が象徴的に描かれている。そして、レイはそんな境界線をヒョイと乗り越え、サクラに猛アタックする。サクラは、辞書に噛り付いている自分よりも流暢に日本語を使いこなす彼女に嫉妬を抱くが、レイはそんな嫉妬のバリアをアッサリと破壊し、「神社とかじゃなく、レイがいつも行っている場所へ案内して!」と距離を詰めていくのです。そして、ドン・キホーテや漫画喫茶、海老名のビナウォーク、ライブハウスなどといった、旅行ガイドには載らないスポットへ連れていくうちに二人は親睦を深めていくのです。またライブハウスの場面で、キレッキレのラップシーンを描くことで、サクラが持つコンプレックスを強調することに成功しています。

宮崎監督は、社会にある意外な境界線を突き、その境界線を取っ払った先にある心の対話の存在を見出している。『TOURISM』では、スマホという境界線を取り外すことで、シンガポール人と日本人との狭間にある本当の異文化交流を明らかにした。本作の場合は紛れもなく言葉である。日本語、英語、はたまたサンプリングでしかないと揶揄されているヒップホップの文法といった言葉の壁を乗り越え、自分の感情を言語化する瞬間を描くことによって生まれる平和を見つけだした。

あれだけ、暴力的で自分勝手だったサクラが、地を這うようにして掴んだ散文形式のリリックは魂を鷲掴みにするパワーがありました。

今後も宮崎大祐を追っていくとしよう。

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