昔のはじまり(2014)
英題:From What Is Before
原題:Mula sa Kung Ano ang Noon
監督:ラヴ・ディアス
出演:Perry Dizon,Roeder,
Hazel Orencio etc
評価:75点
先日契約したマニア向けVODのMUBI。
常時1ヵ月分のレア映画が観られるのだが、実は400円課金するとMUBI秘蔵の映画が観られる機能を発見した。ラインナップは、アピチャートポン・ウィーラセタクンの実験映画『ASHERS』やアベル・フェラーラのカルト映画『天使の復讐』、R.W.ファスビンダーの『不安と魂
』、ブリュノ・デュモンの『欲望の旅』など日本では本当に視聴困難。輸入でも入手できないor高額な作品だらけだ。
』、『北(ノルテ)-歴史の終わり』はDVDが出ている)。
これは観るしか!ってことでこの前の週末に鑑賞した。
『昔のはじまり』あらすじ
1970年代。マルコス大統領の独裁の手が忍び寄る時代。フィリピンの辺境のとある村。少女は狂い、人々は倒れ、家が火事になり不穏な事件が相次いでいた。やがて、マルコス大統領が戒厳令を発令。田舎の村にも軍が配備され、人々は行動が制限、居住区も追い出される羽目になる。時間が語る歴史の変遷
ラヴ・ディアスは一貫して《時間》と《歴史》の関係を描いている。4時間、時には8時間と通常の映画の尺を超えた時間をかけてゆっくりと変化する歴史を紡ぎ出す。一見、関係のない場面に見えても、最後の最後で非常に強い結びつきが見えてくる。これは、ラヴ・ディアスが独裁による混沌の歴史的変遷を歩んだフィリピンという国を世界に、後世に伝えていこうとする意思が貫かれている為だと言えよう。中々日本にいると感じることのできない、フィリピン庶民が常に味わう辛酸。それはテレビ番組は、2時間の映画で描かれるフィリピンの貧困像では決して味わえぬ苦汁をラヴ・ディアスは我々に提供してくれる。
そんな彼が『昔のはじまり』で魅せてくれたのは、独裁政治の闇が田舎の限界集落へ伝播していく様子だ。時は1970年から物語が始まる。草原をカメラは映す。フィックスで延々と映し出される草原。段々と、白い服を着た人が一人、また一人と増えていく。そしてゆっくりと、ゆっくりとカメラの方へ向かっていく。そしてやがて観客は気づく。病に冒された女性を運んでいるんだと。そして、儀式の間が映し出される。住民が、その村土着の楽器を奏で、踊り子が舞う。そこに雨音と森林の騒めきが共鳴する。幻想的な儀式が展開される。
観る者を高揚させる儀式。現地民の祈りと叫びが10分近く続くのだが、物語は、その村の信仰を徹底的に潰していくのだった。
観客は、何もヒントがなく、ただただ不条理が支配するこの世界になんなんだと思う。1時間、2時間、3時間経てどもマルコス政権との関係が見えなくフラストレーションすら溜まってくる。そしてようやく、3時間20分経過したあたりで、この村に軍人が駐留しはじめる。一度始まったら、勢いのまま。軍の横暴で直接的な理不尽が爆発する。5時間半のラヴィ・ディアスが導く過去の旅は、1970年代のフィリピンの闇を時間的体感と共に体験させてくれる者だった。
また、終盤で燃ゆる筏が川を流れるシーンがあるのだが、上手く筏が流れなかったのであろう。筏がカメラの手前に流れ着くまでのシークエンスを中途半端にカットし繋ぎ合わせてしまっている。あれだけ、時間を意識した演出をしていたのに、最後の最後で妥協してしまっているのがかなり痛い。
とはいえ、3作しかラヴ・ディアスの作品を観ていないが、本作での反省点がしっかりと『痛ましき謎への子守唄』や『立ち去った女』へと活かされて、キレが増している気がした。
ラヴ・ディアス監督作記事
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