チェブンブンブックランキング2020 1位は『映像研には手を出すな!』

チェブンブンブックランキング2020

師走の季節、皆さんのベストテンが乱立する時期ですね。私チェ・ブンブンも映画だけでなく、今年はいろんな本に挑戦できたと思います。コロナで世界中が100年に1度の混乱の中に突き落とされ、安泰だといわれた大企業、華型の業界の地盤も揺らいでいる状況です。現実逃避として世界一周などといった放浪すらできないこの地獄を生き抜くヒントは本や映画に隠されていると思い、スマホを会社に持っていかず昼休みは読書に力をいれました。

さて、今年のベスト本を10冊選出しましたので書いていきます。

【ブンブンシネマランキング2020】旧作部門1位は『臆病者はひざまずく』
【ブンブンシネマランキング2020】新作部門1位は『本気のしるし 劇場版』
【ブンブンシネマランキング2020】ワースト1位は『リベルテ』

10.本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜第一部「兵士の娘I」/「兵士の娘II」(香月美夜)


近年、異世界転生ものや「なろう系」と呼ばれる漫画やラノベジャンルが流行っている。「本好きの下剋上」は単なる、異世界に転生した者がかつての記憶を駆使して無双する話ではなかった。もはやビジネス書、東洋経済のコラムになりそうな程に異世界で豊潤な情報と引き込まれる言葉と、社会を生きるサバイバルスキルが凝縮されていた。1巻では図書館司書になるつもりが、死亡し、身体の弱い少女として生まれ変わった本須麗乃が「マイン」として生きる中で、紙と文化史を紡ぎ出す。石版やパピルスといったものを試行錯誤しながら作り出す過程で、需要がないモノに対する価値が見えてくる内容となっている。2巻では、経済の話が中心となる。紙を製造する糸口を見つけたマインが、仲間と協力してさらなる探求を続ける中で、生産者と販売者、消費者の関係性やマージン、情報ビジネス、いかに付加価値をつけていくのかといった幅広い話題で実践的なビジネス戦略を刻み込んでいく。これはライトノベルなんかじゃない、そこらへんの薄っぺらいビジネス書をなぎ倒すヘヴィーノベルだ。

子どもに読ませるライトノベルはこれで決まりである。

9.世界ヤバすぎ!危険地帯の歩き方(丸山ゴンザレス)


海外旅行ができない今、旅に飢えている私が手に取ったこの本は、ありそうでなかった視点に満ち溢れていた。沢木耕太郎の『深夜特急』を始め、ディープな海外旅行本はどうしても危険な局面を乗り切った武勇伝ばかりが注目されがちだ。そして、筆者の感覚に依存した書きっぷりとなってしまい実用的ではない。その一回性が旅の醍醐味でもあるのだが、そこに丸山ゴンザレスは斬り込む。いかに危険な局面を安全に乗り切るのかといった側面で、飄々としつつも為になるアドバイスを並べていく。例えば、よくハードコアな旅行ではタバコが便利と語られるが、その理由として「蚊除け」、「取引をする際のタイミング調整」、「支払いの対価」があると彼は解説していくのだ。さらには、どのようにしたらスラム街の暗部に入れるのか?警察やガイドといかにして仲良くなるかといったことまで書かれているのだ。実践するかどうかは自己責任として、旅人の知恵をまとめたこの本は貴重である。

8.謎とき『失われた時を求めて』(芳川泰久)


プルーストの超絶長い小説『失われた時を求めて』の解説書。以前から「失われた時を求めて」は映画的だなと思っていたが、本書を読んで確信に変わりました。窓の景色を覗き込む。すると窓というフレームに切り取られた他者の人生が広がっており、そこにインスピレーションを掻き立てられるといった場面や、ヴェネツィアの景色からコンブレーを思い出すといった「見る」というアクションを通じて過去が呼び覚まさせるギミックは映画でも多用されるもの。ここで提示される様々な「見る」アクションに対する考察から、シャンタル・アケルマン『囚われの女』が一見プルーストと無関係に見えて本質的な部分で繋がっていることに気づかされました。「失われた時を求めて」自体が私のアイデアブックなのですが、その補助教材として役に立ちました。

7.ノマド: 漂流する高齢労働者たち(ジェシカ・ブルーダー)


ノマドランド』の原作。リーマンショック以降、アメリカではキャンピングカーで渡り鳥のようにAmazon倉庫やキャンプ場を転々としながら労働し続ける高齢者が急増しており、それを追ったドキュメント。海外では評判の高い映画版がプロデューサーの調整不足か、表面的なことしか描けておらずAmazon倉庫での勤務シーンが炎上した例のCMのような気持ち悪さをもっており駄作だと感じた。本書では高齢者のセカンドライフとかキラキラした文言、キラキラした広告とは裏腹に、1日ハーフマラソンレベルに歩かされたり、マシンガンのように降り注ぐビーツを仕分けしたり、若者が荒らしに荒らしたキャンプ場を清掃する過酷な生活の中で自分らしさを見出そうとする高齢者の哀愁と、アメリカ社会の異常さが心に刺さります。そして、アメリカ社会の現実が急速に日本にも押し寄せている点ホラーでもあります。横田増生の『潜入ルポ amazon帝国』と併せて読むことをオススメします。

6.定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー(フランソワ・トリュフォー)


もはやシネフィルの聖書となっているフランソワ・トリュフォーがアルフレッド・ヒッチコックを取材した本。ヒッチコック映画とは相性が悪いのだが、常時右から左から不条理、困難が降り注ぎ、その対処を軽妙に語るヒッチコックのトーク力に魅せられる。映画よりも撮影秘話やヒッチコックの人生自体が面白い。カメオ出演することで有名なヒッチコックが『救命艇』という小舟の中だけで描く作品のどこに出現しようか頭を捻った結果、ライザップCMのように新聞に自分のダイエット前後の写真を忍び込ませるアイデアを採用した話は爆笑である。またフランソワ・トリュフォーも彼は彼で意外とお茶目な一面があり、ヒッチコックと出会う場面の一騒動は映画的だったりしてコミカルだ。

5.人間レンタル屋(石井裕一)


ヴェルナー・ヘルツォークが『マンダロリアン』に出演した金を使って日本極秘ロケで取った半ドキュメンタリー映画『FAMILY ROMANCE, LLC』の一応の原作。「レンタルなんもしない人」やラーメン二郎を食べてくれる人といった人間レンタルビジネスが密かに話題となっている中、人間レンタルを専門にしている《ファミリーロマンス社》のCEOがニッチ業界の裏側へと誘います。結婚式の人数合わせに始まり、漫才コンテストやライブのサクラまでこなす彼のブラックなユーモアに包まれた珍エピソードの数々にニヤリとさせられる一方で、社会システムから外れてしまった人に手を差し伸べる石井祐一が仏様に見える異様さがここにはあります。そんな彼にも修羅場があり、例えば何件も身代わり父親を演じてきたせいで、着ぐるみショー会場にて右から左からクライアントの子が「パパ、何しているの?」と鉢合わせてしまうエピソードは戦慄しました。

4.本気のしるし1〜6(星里もちる )


深田晃司監督の4時間に及ぶブラックコメディ『本気のしるし』の原作。妙に人を惹きつける女・浮世に引き寄せられた二股中の辻が、次々と現れる自分の思い通りにならない人々によって内面の汚が露見していく様を描いた本作は、荒波立てないように上手くやっている人のゲスさを暴きだす。仕事はできるが会社の男ウケが悪い細川尚子とは、自宅で情事に励む。細川はじっくりじっくりと関係性を築いてきたのに、彼はいとも簡単に浮世を家の中に入れ濃密な関係を紡いでしまう。「あなたは強い、一人でやっていける」という言葉に細川の心は踏みにじられる。モテないから一生懸命に「強い人間」であろうとしたが故に見放される残酷さがそのまま、辻に跳ね返ってくる演出に感動しました。映画版では、漫画から意図的大胆に省略することでさらにエッジが利いたものとなっており、どちらも今年最高の物語でありました。

3.サイレント映画の黄金時代(ケヴィン・ブラウンロウ)


9,000円以上するもはや鈍器。サイレント映画といったら今や、映画の勉強をする人が苦しんで観る、あるいはシネフィルの人が新規開拓・研究で観るイメージが強く化石のような存在になっているが、それをダイヤモンドのように輝かせる代物が『サイレント映画の黄金時代』である。『トランボ』、『ヘイル、シーザー!』、『MANK』、『CURTIZ』と大昔のハリウッドを扱った映画が定期的に作られる今ですら映画化されていない物語が沢山あるのだ。アベル・ガンスの狂気の『ナポレオン』製作記や、デヴィッド・O・セルズニックが語るウィリアム・A・ウェルマンの凄まじさ、実は『ジャズ・シンガー』が最初のトーキー映画ではない説といった内容の洪水に浸れる本書は9,000円の価値ある名著と言えよう。

2.フレームの外へ:現代映画のメディア批判(赤坂太輔)


鬼滅の刃 無限列車編』に始まり、福田雄一監督の映画と今の日本映画は映っているものの中で全てを語ろうとする傾向にある。またテロップで人物や時代を説明しがちである。本来、映画は映っていないものをどう表現するかが重要だったはずだ。赤坂太輔の本書は膨大な映画の引用から、フレームの内側/外側の関係性を観察し、今の映画の問題に斬り込んで魅せる。これを踏まえた上で『イタリア旅行』や『ミュリエル』を観ると美味しくいただけるのはもちろん、意外にも『映画 おかあさんといっしょ すりかえかめんをつかまえろ!』がフレームの外側を丁寧に描いている作品だということに気がつくことができます。

1.映像研には手を出すな!1〜5(大童澄瞳)


アニメ化されて話題に話題を呼んだ本作は、「最強の世界」を創ろうとするクリエイターに対する人間賛歌だ。ごちゃごちゃ混沌とした町にするお転婆トリオが映像研を爆誕させ、アニメで最強の世界を作るために生徒会や学校と闘う。高校だからって容赦はしない。モラトリアムから飛び出し対価、予算、コストを切り詰めながら、ギリギリの状態で工夫工夫ひたすら工夫で世界を創造していく。ここには金持ちキャラの水崎ツバメが登場するが、彼女には美や財を使わせない。アニメの腕に注力させているところに好感がもて、金森さやかの圧倒的マネジメントスキルに元気付けられた。もはやビジネス書。サラリーマン必読の名著である。

最後に

今年は映画関連書が多かったので2021年は小説や他のジャンルの本に挑戦していきたいです。

【ブンブンシネマランキング2020】旧作部門1位は『臆病者はひざまずく』
【ブンブンシネマランキング2020】新作部門1位は『本気のしるし 劇場版』
【ブンブンシネマランキング2020】ワースト1位は『リベルテ』

チェブンブンブックランキング2020年

1.映像研には手を出すな!
2.フレームの外へ
3.サイレント映画の黄金時代
4.本気のしるし
5.人間レンタル屋
6.定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー
7.ノマド: 漂流する高齢労働者たち
8.謎とき『失われた時を求めて』
9世界ヤバすぎ!危険地帯の歩き方
10.本好きの下剋上

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