【ネタバレ考察】『Mank/マンク』ハーマン・J・マンキーウィッツという磁場

Mank/マンク(2020)
Mank

監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ゲイリー・オールドマン、アマンダ・セイフライド、リリー・コリンズ、アーリス・ハワードetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

あつぎのえいがかんkikiにNetflix映画『Mank/マンク』がやってきました。本作は『ファイト・クラブ』、『ソーシャル・ネットワーク』、『ゴーン・ガール』の鬼才デヴィッド・フィンチャーが父ジャック・フィンチャーの脚本を映画化したものである。映画のベスト100関連の本には必ずといっていいほど掲載されている名作中の名作『市民ケーン』。その脚本家ハーマン・J・マンキーウィッツの伝記映画である。映画史をかじっている人なら、何故ハーマンの方なんだ?と疑問に思うだろう。彼には天才的な弟ジョーゼフ・L・マンキーウィッツがいる。彼は下積み時代から、ノーマン・Z・マクロード、キング・ヴィダー、フリッツ・ラング、ジョージ・キューカーといった巨匠と組み、『三人の妻への手紙』、『イヴの総て』で2年連続監督賞・脚色賞を受賞する才能を発揮している。

一方で『クレオパトラ』では製作が難航し大失敗をする。そして、最後の作品『探偵スルース』では限りなく演劇的でありながらも映画的に魅せる手腕で有終の美を飾った。通常であれば、マンクといえば弟のエピソードを描きたくなるものだ。しかし、本作は兄を撮った。『市民ケーン』の裏側にフォーカスを当てるといっても、映画をある程度観ている人なら察しがつくだろう。『市民ケーン』のモデルは新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストだが、実はあのモデルこそはハーマン・J・マンキーウィッツだったといいたいのだろうと。そして映画は全くその通りだった。あまりにも陳腐である。しかしながら、デヴィッド・フィンチャーマンを期して放った俺的『8 1/2』またの名を映画史映画はそんなつまらない作品になることはなかった。そもそも父フィンチャーの脚本がどうかしていたのだ。ここではネタバレありで『Mank/マンク』の感想と見所を書いていく。

『Mank/マンク』あらすじ


「ソーシャル・ネットワーク」「ゴーン・ガール」の鬼才デビッド・フィンチャーがメガホンをとり、「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」のオスカー俳優ゲイリー・オールドマンが、不朽の名作「市民ケーン」の脚本家ハーマン・J・マンキーウィッツを演じたNetflixオリジナル映画。1930年代のハリウッド。脚本家マンクはアルコール依存症に苦しみながら、新たな脚本「市民ケーン」の仕上げに追われていた。同作へのオマージュも散りばめつつ、機知と風刺に富んだマンクの視点から、名作誕生の壮絶な舞台裏と、ハリウッド黄金期の光と影を描き出す。「マンマ・ミーア!」のアマンダ・セイフライド、「白雪姫と鏡の女王」のリリー・コリンズ、テレビドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のチャールズ・ダンスら豪華キャストが個性豊かな登場人物たちを演じる。Netflixで2020年12月4日から配信。それに先立つ11月20日から、一部の映画館で劇場公開。
映画.comより引用

ハーマン・J・マンキーウィッツという磁場

薄暗い部屋に男が運ばれる。彼の名前はハーマン・J・マンキーウィッツ(ゲイリー・オールドマン)だ。『闇の奥』製作で忙しいオーソン・ウェルズからの依頼で脚本を任された彼は60日で傑作を生み出さねばならない。だが、彼は交通事故で怪我をしてしまっている。だが飄々と脚本を書くことにする。「自分の知っていることを書け」という格言が提示され、それに従うように彼の複雑混沌とした映画業界人生が交錯していく。彼の助手は、「ひょっとして本作のモデルは、ウィリアム・ランドルフ・ハーストでしょ?」というが、彼はさあねと答える。そして再び過去に潜っていく。もちろん、映画は『市民ケーン』における回想もとい『市民ケーン』そのものを反芻しているのだが、そこにイングマール・ベルイマンの『野いちご』的香りを匂わせる。そうか、これは『市民ケーン』のモデルは新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストだが、実はあのモデルこそはハーマン・J・マンキーウィッツだったという説を軸にしているんだと。あまりに単純すぎる軸ではあるが、その軸を背にまるで大学教授が生徒を無視して延々と自分の専門について語るように饒舌な映画史論を語り始める。当然ながら、『市民ケーン』は知っていること前提なので、もし観ていなかったら困惑するだろう。

劇中では、突然デヴィッド・O・セルズニックの企画会議が始まる。そこにはジョセフ・フォン・スタンバーグやベン・ヘクトといった映画史の錚々たる名前が並んでいる。デヴィッド・O・セルズニックといえば『風と共に去りぬ』、『第三の男』の敏腕プロデューサーであり、あのアルフレッド・ヒッチコックをアメリカに招致し『レベッカ』や『白い恐怖』を撮らせた男だ。ウクライナ移民でイギリス、アメリカへと渡り24歳にして銀行1件宝石店3件開業する敏腕が、宝石店の破産をきっかけに映画業界に参入し、新天地RKOで一肌脱ごうと息巻いている時期だ。その企画会議ではユニバーサルのモンスター映画(『魔人ドラキュラ』、『フランケンシュタイン』etc)を作ろうとしている。野獣が出てくる物語らしいが、通俗で陳腐な物語が提案される。これは明らかに後の『キング・コング』なのだが、注意深く読み解かないとわからないものとなっている。

また、マンキーウィッツは映画業界のしがらみというものに反発している。誰々が評価したとか、誰についたら政治的に上手く立ち回れるのかといったゲスなものに徹底的に反発している。1930年代、世界恐慌禍で豪華絢爛底抜けに明るいミュージカル映画が量産させたことを『四十二番街』でチラつかせることにより、偶像を追い求めてしまう人への反発を肉付けしていく。単に、自分の映画史を見せびらかすだけの配置に留めることなく、ハーマン・J・マンキーウィッツという映画史の陰日向にいる存在をとことん魅力的にするための血骨としてフィンチャー親子の映画史が紡がれるところに唸らされる。そして、アル中で饒舌、エピソード豊富だが道化として消費されてしまう男が、『市民ケーン』という物語を通じて自分を擬似的に殺し、自分だけのハッピーエンドを手にする姿に心踊らされた。

そうか!これは『若きウェルテルの悩み』におけるゲーテか!失恋した悲しみを、物語の中で殺すことで自己を保つ。そんな物語が映画史の中にもあったんだということに驚かされました。

それにしても、2010年代後半から『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』、『ヘイル、シーザー!』、『Curtiz』といったクラシック映画にまつわる映画に注目が集まっている。ならば、ジョーゼフ・L・マンキーウィッツ、デヴィッド・O・セルズニック、アベル・ガンス、ウィリアム・A・ウェルマンの伝記映画が作られてほしいところだ。彼らのエピソードは面白いぞ。

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