『僕の無事を祈ってくれ』:『LETO レト』に影響与えたヴィクトル・ツォイ主演薬物撲滅作品

僕の無事を祈ってくれ(1988)
原題:Игла
英題:THE NEEDLE

監督:ラシド・ヌグマノフ
出演:ヴィクトル・ツォイ、マリナ・スミルノワetc

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

先日、公開されるや否や高評価が相次いでいるキリル・セレブレニコフ監督作『LETO レト』。ソ連のカルトバンド、キノーの結成を支えた人を独特な表現で描いた作品。私の持っている『LETO レト』ブルーレイ付属の解説書によれば、本作の関連作品に『アッサ』と『僕の無事を祈ってくれ』があるとのこと。『アッサ』はあまり乗れず、感想書く気が起きなかったので、別の方に評をお任せし、『僕の無事を祈ってくれ』について書いてみようと思う。日本では全く知られていないラシド・ヌグマノフ監督とヴィクトル・ツォイの友情の物語も併せて紹介していこうと思う。

『僕の無事を祈ってくれ』あらすじ


モスクワから故郷のカザフ共和国の首都アルマータに戻ってきた風来坊の主人公は、看護婦をしている昔の恋人の部屋に転がりこみ、盛り場で地元のチンピラ相手に与太を売ったりの所在ない日々をすごす。元恋人は上司の医者と愛人関係にあり、モルヒネを地下にさばくフロントの役もさせられていた。主人公は医者に制裁を加え、彼女を連れ出し首都を脱出、車を行ける所までひた走らせ、乾ききった無人の地で、アダムとイヴ的な再出発の生活を始めるのだが……。
Yahoo!映画より引用

『LETO レト』に影響与えたヴィクトル・ツォイ主演薬物撲滅作品

まず、本作の制作背景から語っていこう。ラシド・ヌグマノフはカザフスタン、アルマアタ出身の監督だ。彼はモスクワ映画機関(VGIK)で映画の勉強をし、ダルジャン・オミルバエフ(『Student』)と共にカザフスタンヌーヴェルヴァーグの最前線を歩いていた。彼はソ連のアンダーグラウンドバンドに興味を持ち、短編映画『YAHHA』を制作する。当時、コンサートを撮影することは禁止されており、当時ブラックリスト入りしていたキノーを撮ることは困難を極めました。実際に撮影監督が逮捕され、制作が頓挫する危機に陥った際に手を貸してくれたのがヴィクトル・ツォイだ。ツォイが積極的に撮影に協力したおかげで映画は無事完成しました。その際に、ラシド監督はヴィクトルに「必ずまた映画に出演させてあげる。」と約束するのです。その約束は忘れられることなく実現されました。カザフスタンの映画会社Kazakhfilmから薬物撲滅の映画を撮ってほしいと依頼されたラシド監督は、ヴィクトル・ツォイを主演にすることを条件に出すのです。こうして作られた作品が『僕の無事を祈ってくれ』である。

本作は、実質ヴィクトル・ツォイのプロモーションヴィデオであり、マイケル・ジャクソンの『ムーンウォーカー』のように彼の魅力を画面全体に行き渡らせることを目的としています。そして、そこには『LETO レト』に影響を与えた部分が沢山隠されています。例えば、タイトル場面では落書きでИглаと書く、喧嘩のシーンでは手書きの絵がコミカルにパンチを表現する。これは『LETO レト』の特徴的な演出と一致する技法です。また、『LETO レト』で空手ポーズを取るヴィクトル・ツォイの正体も本作で分かります。実は、彼はブルース・リーのファンで、彼のアクションを本作の喧嘩シーンで取り入れているのです。

さらに、劇中でさりげなく歌詞を排除して「ミッキーマウス・クラブ・マーチ」やThe Whoの「I’m Free」といった西側の音楽が挿入されます。

映画自体は、学生映画のようなB級感、下手にキザで冴羽獠っぽく魅せておきながら、間延びしてダサかったり、プールで黒幕を追い詰める際の無言の圧がバカバカしかったりするのですが、『LETO レト』を踏まえた上で観ると、そのキラキラとした原石に興奮します。

終始スカしたヴィクトル・ツォイの存在感は『アッサ』以上に際立っていたこともあり、個人的には嫌いになれない一本でした。

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