【考察】『海辺の映画館 キネマの玉手箱』大林宣彦最期の遺言状

海辺の映画館 キネマの玉手箱(2019)

監督:大林宣彦
出演:厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦(細田よしひこ)、吉田玲etc

評価:50点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2020/04/10本来の公開日に他界した日本映画界のレジェンド大林宣彦最期の遺言状がようやく公開されました。従来は有楽町スバル座でひっそりと公開される大林映画なのですが、今回はTOHOシネマズで公開され、満席続出につき上映館が17館から69館へ増えることとなっている。そんな最期の遺言状、大林映画ファンの私が観ないわけに行かぬとTOHOシネマズ新宿で観てきました。

『海辺の映画館 キネマの玉手箱』あらすじ


名匠・大林宣彦監督が20年ぶりに故郷・尾道で撮影し、無声映画、トーキー、アクション、ミュージカルと様々な映画表現で戦争の歴史をたどったドラマ。尾道の海辺にある映画館「瀬戸内キネマ」が閉館を迎えた。最終日のオールナイト興行「日本の戦争映画大特集」を見ていた3人の若者は、突如として劇場を襲った稲妻の閃光に包まれ、スクリーンの世界にタイムリープする。戊辰戦争、日中戦争、沖縄戦、そして原爆投下前夜の広島にたどり着いた彼らは、そこで出会った移動劇団「桜隊」の人々を救うため、運命を変えるべく奔走するが……。主人公の3人の若者役に「転校生 さよならあなた」の厚木拓郎、「GO」の細山田隆人、「武蔵 むさし」の細田善彦。2019年の東京国際映画祭で上映されたが、劇場公開を前に大林監督は20年4月10日に他界。本作が遺作となった。
映画.comより引用

大林宣彦最期の遺言状

大林宣彦最期の遺言状は、有終の美に相応しい映画史映画となっている。大林宣彦82年の歴史で通過してきた映画と監督の関係性を、未来を背負う者に託した。彼は語らせる「観客は傍観者じゃないんだと」。

閉館する映画館の最終日にジョン・フォード映画のように人々が集まってくる。宇宙からオウム真理教のアニメがごとく棒読みで男が降り立ち、案内人として海辺の映画館へ連れていく。そこではヤクザ、シネフィル、老若男女が戦争映画を楽しみに心待ちとしている。『キートンの探偵学入門』のようにヒロイン希子が銀幕へ飛び込む。しかし、映写機の故障で、スクリーンが燃えてしまう。彼女を救うため、馬場毬男、鳥鳳介、団茂の3人は雷に巻き込まれるように銀幕の世界へ吸い込まれていく。サイレントからトーキー、戊辰戦争から広島投下原爆投下までを駆け巡り、何度も異世界転生しながら何とか彼女を救おうとする過程で、バッドエンドが保証されている原爆で死ぬ運命にある桜隊を救おうとする。

本作は、『この空の花 長岡花火物語』から毎作作られる余白ない遺言状の集大成と言える。斉藤一美、芳山和子、橘百合子と尾道三部作のヒロインが映画の中で共存し、『その日のまえに』のフッテージが挿入される。ジョン・フォードに扮する大林宣彦が『静かなる男』に想いを寄せたように映画の自由さ、群の美学を語っていく。

タランティーノは『イングロリアス・バスターズ』でヒトラーが映画をプロパガンダとして使ったことへの怒りを「物理的に映画館で殺す」というフィクションで過去を変えてみせた。一方、大林宣彦の場合、荒涼とした未来の日本を写し、変えることのできない過去も写す。安易に映画で歴史をハッピーエンドに変えることはしない(『野ゆき山ゆき海べゆき』の逆をやっている)。彼は、何度も転生し死を阻止できない3人の若者を通じて、「観客は傍観者であって良いのか?映画は過去を変えることはできないが、未来を変えることができるのでは?」と3時間に渡って、膨大な映画講義で持って語り尽くす。『無法松の一生』における検閲で切り刻まれても尚傑作であり続けた歴史、単に映画による知識ではなく中原中也の詩、第二次世界大戦時のベートーベン『月光』の扱いをイマジナリーラインを無視し、色彩、サイレント/トーキーを横断させながら紡いでいくのだ。映画館の都合で割愛となっているが、中盤にはインターミッションが設けられている。製作委員会方式にもかかわらず、もはや大林監督の暴走は誰にも止められなかった。
『この空の花』以降、大林宣彦映画は説教臭くなっていったのだが、毎回その説教臭さは圧倒的映像演出で希釈されていった。しかし、前作『花筐/HANAGATAMI』でガンによる余命僅かを経験した彼は、本当にこの作品が最後になるかもしれないと思ったことでしょう。彼の描きたいこと、言いたいことをヤサイニンニクマシマシ、ラーメン二郎のように盛りすぎた結果、従来以上に説教臭さが強烈なものとなりドン引きしてしまった。

また「あなたは傍観者じゃない。映画で得た教訓で今を変えろ!」というメッセージは、冷笑が渦巻き静かに沈みゆく日本にいる今の我々に刺さる者があるのだが、それを言うだけに3時間ごちゃごちゃ断片を置いていく、スパゲッティコードになった脚本が果たして映画として良いのか?と思ったところで、点が一箇所へ綺麗に収斂していく『この空の花』と比べると精彩を欠くこととなっている。

『イメージの本』がゴダールだから許されるのであって、本作は大林監督だから許される作品であり、前者は語ることを放棄した極みであるのに対し、こちらは語らないことを放棄した極みと言えよう。この無限の手数に圧倒されるものの、この遺言状には首を傾げるものがありました。

P.S.『無法松の一生』といえば、芝居小屋の升席で強烈な匂いをさせ料理を貪り食うシーンがあるのだが、そのオマージュを映画館の注意書き「他店から飲食物を持ち込むべからず」でやらないのかが長年の疑問である。私が映画館マナーCM作るなら絶対にオマージュする。

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“Ç”「異人たちとの夏」!元々は「氷の微笑」路線の映画だったw
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