『FAMILY ROMANCE, LLC』ヘルツォークは何しに日本へ?

FAMILY ROMANCE, LLC-ファミリーロマンス社-(2019)
FAMILY ROMANCE, LLC

監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
出演:石井裕一

評価:80点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

第72回カンヌ国際映画祭スペシャル・スクリーニングで上映され話題となったヴェルナー・ヘルツォークの謎ドキュメンタリー『FAMILY ROMANCE, LLC-ファミリーロマンス社-』がMUBIで配信されていたので観賞しました。本作は、実在する代行・代理出席専門店《ファミリーロマンス社》の書籍『人間レンタル屋』に基づくモキュメンタリーだ。近年、日本では「レンタルなんもしない人」や「レンタルおじさん」、中にはラーメン二郎を一緒に食べるサービスなど、擬似的な交流関係をビジネスとするサービスが密かに流行っている。それは時として、《パパ活》といった社会問題を引き起こしてたりする。そんな不思議の国ニッポンに鬼才・ヘルツォークは目をつけたのである。相当この異様な世界をカメラに収めたかったらしく『マンダロリアン』に出演して制作費を稼ぐ苦肉の努力あって爆誕した本作は、日本公開未定。それにもかかわらず日本語の公式サイトが準備されている不気味さもあって観賞意欲がそそられます。というわけで、日本いながら観測できなかった樹海へ足を踏み入れてみました。

『FAMILY ROMANCE, LLC-ファミリーロマンス社-』あらすじ


ファミリーロマンスは誰かの代わりになる演者をレンタルできる企業。

社会の穴埋めができるんであればと、10年前に人間レンタル屋という代行事業を創設した石井裕一は、自身も体を張って多種多様な代行人を演じていた。そんなある日、一人のシングルマザーから娘の父親の代わりになってほしいとレンタル父親の依頼を受ける。回数を重ねるごとに徐々に本当のお父さんだと信用してくる娘との間に、現実と非現実の境が徐々に分からなくなってきていた。
FAMILY ROMANCE, LLC-ファミリーロマンス社-公式サイトより引用

ヘルツォークは何しに日本へ?

ヘルツォークの撮る《プロフェッショナルの流儀》は当然ながら奇妙な始まりかたをする。

「ぼく自身、毎日”いろんな人”を演じ分けているんです」

不自然に通りに立つサラリーマン姿の男・石井裕一(39)。レンタル家族会社《ファミリーロマンス》の創業者兼代表取締役社長だ。鋭利な顎とヒョロッとした姿はまるでエヴァンゲリオン初号機のよう。この男こう見えて全国から仕事が殺到するカリスぱレンタル家族屋だ。そんな彼の前に、悪魔テイストのパーカーを着たメンヘラそうな少女が通りかかる。何故か、通りを右へ左へ歩きスマホしながら通過する。やがて、石井はそのパーカーの少女に声をかける。

「憶えている?お父さんだよ!花見をしに行こう。」

ねっとりとした口調で、俯く彼女に囁く。彼はレンタルパパとして、設定を語りつつ、彼女の心にポッカリとあいた穴を虚構で埋めようとしているのだ。胡散臭い大根演技。ドキュメンタリーとしては作りすぎだし、かといってモキュメンタリーとしてはリアリティに欠ける。圧倒的虚構がそこにある。そしてこの擬似親子の異質さは周りの空間を歪め始める。彼らが代々木公園を散策していると、やたらと密集してジャグリングの練習をする大道芸人集団がいる。何故か、その集団のど真ん中を二人は歩いていくのだが、モーゼのようにサーッと人は横へはけていく。さらに、都合よく目の前で展開されるチャンバラは、後に石井が語る「刀の持っていない芸人が切腹する夢を見た」というエピソードの再現として提示されることで、作り物の空間であることが分かる。それを踏まえると、密な空間、ハプニングのどこからどこまでがリアルなのかフィクションなのか曖昧になってくる。

ドキュメンタリー映画に見えて、眼前に映し出されるのは園子温映画というパンチが利いています。

ただ、それは同時に-ヘルツォークが意識していたかどうかはわからないが-日本人の「繋がりたい」欲求を正確に捉えていると言える。日本では、SNSのハッシュタグで「○○好きと繋がりたい」定期的に拡散されている。そして仮想世界で出会った者同士が時としてオフ会で集まったりする。大抵は、Face to Faceで会ったとしても仮想世界の仮面を被ったまま交流する。現実世界に仮想世界が侵食する形だ。無論、それは『レディ・プレイヤー1』でも描かれるように普遍的人間の行動であるのだが、日本の場合は、その仮面を被って別の自分を作ることができない人の為のビジネスとしてレンタル《人》が急速に需要を伸ばしていっている。もちろん、冷やかしで呼ぶパターンもあるが、結婚式や葬式に呼ぶ人がいない。仮想世界にも友人がいない人が、その哀しさを埋める為に呼ぶ。また、一人でゲームをするのが寂しかったり、ラーメン二郎へ行くのが恥ずかしい人の心の溝を埋める為に呼ばれたりする。

実際に《ファミリーロマンス社》のPR文には次のように書かれている。

ファミリーロマンスはどうすることもできない事情があり、困っている方々に代行・代理出席を行い、悩みを解決していくサービスを提供している会社です。日本の社会ではレンタル産業が年々増加し、今では様々な代行サービスが存在します。日本社会が抱える孤独・ITの発展に伴うコミュニケーション能力の低下など。人と接する機会が減る一方、人間関係の構築はより難しくなってきています。社会のハンディを背負っている人達に対し、ファミリーロマンスは少しでも心の支えをすることで社会貢献をしていくことを目的としています。

映画は、そんな虚構によるイベントで癒されていく人々の心を捉えていくのだが、同時にディストピア映画としての怖さも描かれていく。例えば、石井がビジネス研究としてロボットホテル《変なホテル》へ行く。そこは接客を全てロボットが行っており、なんと水槽に入っている魚もロボットなのだ。フィリップ・K・ディックの世界観である。また、ハリボテのホテルで、クライアントから「あなたと暮らしたい」ととうとう虚実が分からなくなった人が登場するのだが、彼女に対して、「僕が死んだことにして関係を終わりにしましょう」と言い始める。さらには、如何にも怪しい光ファイバー業者の人が40代女性の家に現れるのだが、突然、「おめでとうございます」とスタッフが踊り狂いながら偽りの祝福を行ったりする。バズりたい目的の夜の街の女性と思しき方は、新宿の飲み屋街で、オタク役の人を沢山雇い、ゲリラ撮影会を観光する。「働いたら負け」Tシャツや、ド派手な痛いコーデをしたオタクが撮影をしていると段々人だかりができて、外野の一般人も写真撮影したりする。その中には外国人もいる。

SNSでよく、承認欲求を満たす為に、フォロワーを買うビジネスがあるが、それが現実レベルにまでメルトダウンしているのだ。そしてこの歪な映画を観ると、人間は孤独な生き物なんだ。嘘を愛する生き物なんだなと思う。確かに、低評価したくなる映画ではあるのだが、個人的にめちゃくちゃ楽しく観賞しました。

本作はイメージフォーラムやユーロスペースで是非とも公開されてほしい。2010年代の終焉に公開された不思議の国ニッポン映画のマスターピースと言えよう。

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