【ブンブンシネマランキング2020】ワースト1位は『リベルテ』

【ブンブンシネマランキング2020】ワースト部門

「そして趣味goûtsとはおそらく、何よりもまず嫌悪dégoûtsなのだ。つまり他の趣味、他人の趣味にたいする、厭わしさや内臓的なたえがたさの反応なのである-ピエール・ブルデュー(1930-2002)」

趣味とは必ず「好き」と「嫌い」がセットになるものである。好きを肯定するため、趣味を肯定するために「嫌い」が生まれてしまうものである。それは言い換えれば、それに関心があることである。よく映画のワーストを発表するべきか否かは論争を呼ぶ。「好き」の裏返しとして「嫌い」がある。だからワーストは重要であり、本当に酷い作品はワーストに浮上しないと言い訳することもできるでしょう。自分は、「好き」に出会うためにワーストを知る、知のアーカイブとして今年もワーストを発表したいと思う。映画の世界は広い。コロナ禍になり大作が軒並み延期になっても、未開拓の地は広大に広がっている。全てを踏破することはできないので、自分の「好き」を研ぎ澄ます必要がある。その為、踏んだ地雷は言語化して蓄積する必要があると思うのです。

無論、以下のワーストは読者を傷つける可能性がある。

なので、勇気ある方のみお読みください。

【ブンブンシネマランキング2020】旧作部門1位は『臆病者はひざまずく』
【ブンブンシネマランキング2020】新作部門1位は『本気のしるし 劇場版』
チェブンブンブックランキング2020 1位は『映像研には手を出すな!』

※タイトルクリックすると詳細作品評に飛べます。

20.続·ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画(Borat Subsequent Moviefilm: Delivery of Prodigious Bribe to American Regime for Make Benefit Once Glorious Nation of Kazakhstan,2020)

監督:ジェイソン・ウリナー
出演:サシャ・バロン・コーエン、Anthony Hines etc

サシャ・バロン・コーエン伝説のドッキリ映画『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』まさかまさかの続編。コロナ禍を舞台に、ドナルド・トランプのコスプレをしながら政治家の演説会場に突撃したり、過激な連中の会場に足を運んで煽ってみたりと相変わらずやりたい放題している映画だ。しかし、2020年においてもはやドッキリは下品に加えて陳腐なものに成り下がってしまった。2000年代はまだ、youtuberという存在が珍しく、テレビや映画がドッキリをすることに価値があった。「誰もできないことをやってのける」ことに対する覗きの誘惑に満ち溢れていた。それだけに『ジャッカス』は4本もの映画が作られた。ただ、今やyoutuberの過激なドッキリが社会問題になる時代。誰しもがSNSで発信できる時代。社会に対する迷惑の後始末を軽視した動画が散乱する時代において、この手の自分のインテリを棚に上げて社会を愚弄する映画は興ざめしてしまうところがあります。時代遅れな映画と言えよう。

9.ノマドランド(Nomadland,2020)

監督:クロエ・ジャオ
出演:フランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン、Linda May etc

今やアカデミー賞レース最前線を爆走しており、第77回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞も勝ち取った作品だが、クロエ・ジャオを過大評価していると思っている。ジェシカ・ブルーダーがリーマンショック後増えた漂流する高齢労働者を調査した『ノマド: 漂流する高齢労働者たち』の映画化であり、フランシス・マクドーマン他最低限の役者以外本物のノマドを起用しているのだが、明らかにプロデューサーの力量不足で原作の深部まで描けていない。

何と言っても最悪なのはAmazon倉庫で働く高齢者描写。Amazon倉庫でロケしているのだが、夏に日本で炎上した高齢者労働者がAmazon倉庫で生き甲斐を見出しているPR映像になってしまっているのだ。原作では、横田増生の『潜入ルポ amazon帝国』のように1日ハーフマラソンぐらいの距離を歩かされたり、機械として淡々粛々と働かされる労働者像が描かれていたのに、それが映画だと隠されてしまうのだ。そしてキャンプ場やビーツ工場の劣悪な環境も徹底的に隠され、高齢者たちのセカンドライフ、サードライフに対する希望に重点を置いている。確かにその面も原作にはあったが、あまりにもバランスが悪い。『Songs My Brothers Taught Me』や『ザ・ライダー』でケリー・ライカート的アメリカにあるanywhereとsomewhereの狭間を捉えている監督として注目しており、少ないセリフで閉塞感を描ける監督だと信じていたクロエ・ジャオが、原作のダイジェストを登場人物にベラベラ喋らせるあたりにもガッカリさせられた。

次回作はMARVEL映画『エターナルズ』ということなのだが、不安である。

8.窮鼠はチーズの夢を見る(2020)

監督:行定勲
出演:大倉忠義、成田凌、吉田志織、さとうほなみ(佐藤穂奈美)etc

今年の行定勲映画には失望した。BL漫画が社会的地位を得たのか、『性の劇薬』に次いで映画化されたBL漫画映画。しかし、どういうことでしょうか。『窮鼠はチーズの夢を見る』は飲食店に行かないと物語が動かないのだ。何か男二人の関係を変化させようとしたら中華料理や和食を食べにレストランに行かせるのだ。行定勲というベテラン監督が、飲食店に行くことでしか物語を動かせないということに哀しくなりました。無論『劇場』のパワフルな大惨事に比べたら大分マシなのですが、BLをただの男と男の交わりとしか認識していないのではと思ってしまうほどに浅い映画でした。

7.ノットゥルノ/夜(Notturno,2020)

監督:ジャンフランコ・ロージ

ジャンフランコ・ロージは世界三大映画祭2つにおいて最高賞を獲るドキュメンタリー映画界の鬼才である。彼の新作『ノットゥルノ/夜』は『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』のように分かりにくいモザイクとなっているのだが、根本的に傲慢さが前面に出ていた。シリア、イラク、クルディスタン、そしてレバノンの国境を数年かけて取材した作品なのだが、ブレインストーミングした残骸を並べただけにしか感じなかった。中東の兵士たちの日常や陥没した道路などを見せて「中東って大変でしょ」とさも言いたげだが、観客が容易に想像できる凄惨さのその先を見せることこそが映画監督の役割でしょう。その役割を映像美で誤魔化して、ヴェネツィアという安全圏に来る映画人に快感として消化させてしまう姿にゲンナリしてしまった。

6.グッバイ・ゴダール!(Le Redoutable,2017)

監督:ミシェル・アザナヴィシウス
出演:ルイ・ガレル、ステイシー・マーティン、ベレニス・ベジョ、ミシャ・レスコー、ジャン=ピエール・モッキーetc

ミシェル・アザナヴィシウスは『アーティスト』の薄っぺらいクラシック映画に対する愛のパッチワークに衝撃を受けたのですが、そんな彼がゴダールを撮るとなったら不安になるでしょう。その不安は的中した。ゴダールの尖りに尖ったコラージュや色彩は、ゴダールが長年かけて積み上げてきたブランドであり、彼の前衛さはその下地に膨大な映画、文学、美術の知識がある。それを、単なるオシャレ映画、ラブロマンスにしてしまったところが許せない。それでもってゴダール的前衛描写を真似ても浅いこと浅いこと。多分、ゴダールをちゃんと描ける人はガイ・マディンぐらいしかいないだろう(ガイ・マディンは興味ないと思うが)。

5.劇場(2020)

監督:行定勲
出演:山﨑賢人、松岡茉優、寛一郎、伊藤沙莉、浅香航大etc

今年、冒頭20分でやめようと思った苦痛の映画。クズの映画にはクズの美学があるのだが、行定勲の性格の良さのせいで全くクズが描けていない。確かに松岡茉優に依存する山崎賢人クズは、肉欲をチラつかせない今っぽいクズなのだが、それにしたって独りよがりを徹頭徹尾描いて彼の人生は美しいとまとめてしまうのは彼女がかわいそうである。『田園に死す』オマージュから内なる自分と向き合ったクズは演劇の舞台に立つのだが、松岡茉優は観客席で孤独にしている。最後までクズに搾取され続ける松岡茉優に胸が締め付けられた。アベル・フェラーラを見習ってください。

4.人間の時間(인간, 공간, 시간 그리고 인간,2018)

監督:キム・ギドク
出演:藤井美菜、チャン・グンソク、アン・ソンギ、イ・ソンジェ、オダギリ・ジョーetc

先日、韓国映画界の問題児キム・ギドクが亡くなった。ヤン・ヨンヒが彼の壮絶なパワハラ/セクハラを告発したことにより、Twitterでは追討を表明しただけで有罪のような風潮が強まった。そしてTwitterの映画ファンは付和雷同、キム・ギドク過去作に対する「好き」を裏返してしまった。2020年の日本はアップリンクやユジクのパワハラに対して声が上がり、映画ファンもこの手の問題に真剣に向き合う年となった。これ自体はいい流れなのだが、「映画ライターやブロガーよなんか表明しろよ」と圧をかけるツイートが散見されたり、他人の「好き」や立場表明に対して議論を持ちかけているようで自分の意見に無理矢理引き込もうとする姿は良くないと感じた。社会問題に対して意見を述べて世を良くするのは大事だけれども、それで他者の意見を捻じ曲げようとしたり、無責任に他者の行動を変えようとするのは別の暴力だと感じている。

さてそれを踏まえてキム・ギドクの『人間の時間』はどうか?はっきりいって独りよがりな駄作である。アブデラティフ・ケシシュの『Mektoub, my love: canto uno』やラース・フォン・トリアーの『ハウス・ジャック・ビルト』が監督の問題差し引いても傑作なのは、観客を向いており映画として面白いところにあるのだが、安直なデスゲーム映画のような世界観を監督の癖優先させて矛盾に矛盾を重ねた末に、しょうもないアダムとイヴの物語として昇華させてしまっているところに呆れました。映画とはハッタリの芸術であり『TENET テネット』において情報セキュリティガバガバな主人公を信じてしまうのは、そのハッタリを信じたくなる程の面白さがそこにあるからだ。『人間の時間』はただ人間虐めて自慰に耽っているだけの産物でありました。

3.ういらぶ。(2018)

監督:佐藤祐市
出演:平野紫耀、桜井日奈子、玉城ティナ、磯村勇斗、桜田ひよりetc

2010年代後半から『ストロボ・エッジ』、『黒崎くんの言いなりになんてならない』、『オオカミ少女と黒王子』と少女漫画映画、青春キラキラ映画の傑作が多数生み出され一ジャンルを築いた。しかし、少女漫画映画でありがちな壁ドンやドSキャラは2020年代においてパワハラ/セクハラの対象になっている。その為か、『溺れるナイフ』を皮切りに青春キラキラ映画の文法が変わってっきて、『ジオラマボーイ・パノラマガール』のように映画理論ゴリゴリに搭載することで思春期の有り余る体力を表象した傑作が生まれるようになった。そんな変遷の狭間で生まれた負の映画遺産が『ういらぶ。』である。スクリューボールコメディのように、S男に搾取される女子高生が描かれるのだが、そこにあるのはパワハラ/セクハラしかなく、暴力で感情を支配された女子高生をせせら嗤う姿に開いた口が塞がらない。お口アングリーバードとなりました。

2.STAND BY MEドラえもん2(2020)

監督:八木竜一、山崎貴
出演:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、宮本信子、妻夫木聡、バカリズムetc

日本は例えコロナ禍だろうと、ポケモン、コナン、クレヨンしんちゃんとある種のプログラムピクチャー、ドル箱シリーズが目白押しな為欧米に比べるとダメージは少ない。そんな確実に稼げるコンテンツに胡座をかいたせいで、のび太に対する憎悪がMEGA MAX!ドラ泣きなんてそこにはなく、ドラ吐きMAX!MEGA MAX!な作品が爆誕した。今や、福田雄一の映画は「映画」としてみなしておらず、『カイジ ファイナルゲーム』、『約束のネバーランド』のような見るからにポンコツな映画は目くじら立ててもしょうがないと割り切っている。それでもこのドラえもんは許さない。

平成、昭和から続くアニメが現代思想にあわせて、例えばクレヨンしんちゃんの世界からはエロ本や体罰がなくなりつつある。それなのに、未だにしずかちゃんと結ばれることがゴールだと考えているのはどうだろうか?しずかちゃんをモノとしか捉えておらず、結婚すればあとはどうだって良いと考えるのび太の思想は、確かに原作通りではありのだが、妙に開き直って大人になっても自己中心的なのび太像に怒りが沸沸と湧いてきました。

おい、のび太、ジャイ子から逃げるな!
ジャイ子と幸せに家庭作って見やがれ!

1.リベルテ(Liberté,2019)

監督:アルベール・セラ(アルベルト・セラ)
出演:ヘルムート・バーガー、マルク・スジーニ、イリアーナ・ザベートetc

今の自分が嫌いな映画は、「アートを気取った」中身のない映画だ。『ノットゥルノ/夜』もそうだが、テレンス・マリックや河瀨直美の作品(『朝が来る』はポンコツながらも丸くなった河瀨直美がいました)なんかも嫌いだったりする。そんな中でも、カンヌで批評家支持率0%だったにもかかわらず、ある視点審査員特別賞を受賞した『リベルテ』は最凶最悪な作品だった。2時間12分にも及び、逃げる貴族の肉欲を見せつけられるのだが、大きなイチモツを魅せれば、インテリな映画人は喜ぶとアルベール・セラは履き違えている。アルベール・セラは奇を衒ったようで履き違えた映画を撮りがちで、『騎士の名誉』ではドン・キホーテの美味しいところを全て抜くことでリアリズムを強調していたが、ただ退屈なだけだった。エロスを絵画的に魅せればいいわけがありません。

最後に…

今年はなるべく当たり屋をやめようということで、そこまでの地雷作は踏んでいない。『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』で紹介されていた『多動力 THE MOVIE』と『STAND BY MEドラえもん2』を全力で踏みにいったぐらいに留めた。

一方で『名もなき生涯』や『デリート・ヒストリー』のように映画祭に出品されて評判高かった作品がNot For Meだったりするケースが多かった気がする。

来年もいい映画に出会えることを信じて残り数日2020年を楽しむとします。

【ブンブンシネマランキング2020】旧作部門1位は『臆病者はひざまずく』
【ブンブンシネマランキング2020】新作部門1位は『本気のしるし 劇場版』
チェブンブンブックランキング2020 1位は『映像研には手を出すな!』

チェブンブンシネマランキング2020年ワースト部門

1.リベルテ
2.STAND BY MEドラえもん2
3.ういらぶ。
4.人間の時間
5.劇場
6.グッバイ・ゴダール!
7.ノットゥルノ/夜
8.窮鼠はチーズの夢を見る
9.ノマドランド
10.続·ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画

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