【東京国際映画祭】『国境の夜想曲』美は社会問題を消費させる

国境の夜想曲(2020)
旧邦題:ノットゥルノ/夜Notturno

監督:ジャンフランコ・ロージ

評価:15点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』で第70回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、『海は燃えている〜イタリア最南端の小さな島〜』で第66回ベルリン国際映画祭では金熊賞を受賞し、ドキュメンタリー監督初の三大映画祭金賞コンプリートに王手がかかっているジャンフランコ・ロージ監督が数年の歳月をかけて、シリア、イラク、クルディスタン、そしてレバノンの国境を訪問した作品『ノットゥルノ/夜』が第33回東京国際映画祭でお披露目となったので観てきた。先日行われたヴェネツィア国際映画祭での評判もかなり高いらしく期待していたのだが、これが今年ワーストクラスの代物であった。

※2022年2月邦題『国境の夜想曲』で公開決定

『ノットゥルノ/夜』概要

イラクやシリアなど中東の国境付近を監督が訪れ、凄惨な紛争を生きた人々の思いを、美しさの残る景観とのコントラストの中で静かに描き出す。戦闘行為の残虐さに血が凍りつつ、夜明けの希望も抱かせる圧巻の映像詩。
※東京国際映画祭より引用

美は社会問題を消費させる

本作も例のごとく複数の被写体をモザイクのように散りばめていく作品だ。そこには説明がなく、『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』の時みたいに相当事情通でなければ何を言わんとしているのかわからない箇所が多い。

軍隊の行進に始まり、銃声が聞こえる中、ボートで一人行動する男。地面が破壊され舗装が追いつかず道なき道となった場所を何食わぬ顔で横断する車たちに、子供たちのイスラム国イラスト、そして中東情勢への怒りを演劇にするパートエトセトラエトセトラ。監督が数年間で見つけた映えるショットと面白いエピソードを並べて、我々が中々知ることのできない中東問題の深部を提示しようとしている。

だが、「破壊の中の美しさ」で批評家の同情と好感を得ようとするあざとさが全開で非常によくない作品となっている。よくカンヌ国際映画祭がフランスでもっとも富める場所から、社会の底辺を描いた作品を賞賛する構図が下品だと批判の対象にされるが、本作はまさしく傾向と対策で、凄惨な社会の中にある美しさを提示しておけば勝手に観客は脳内補完し高評価を与えるだろうと傲慢になっている印象があります。

特に、子どもたちにイスラム国へのトラウマを描かせ、その一人に吃り吃り辛い状況を語らせるという演出が下品過ぎてドン引きした。見ようによってはカンペを読ませているようにも見え、日本の24時間ナンタラテレビのような、いやそれ以下の偽善に満ち溢れていた。

正直、あまり好きではないが『ノマドランド』が金獅子賞を獲って良かったと思う。『ノットゥルノ/夜』なんかが獲った日には、なんて社会問題に土足でズカズカ踏み入れる映画祭なんだろうと失望していたところだ。

美で釣っている問題提起映画に気をつけろってところですかね。

※映画.comより画像引用

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