『DAU. Brave People』#検察庁法改正案に抗議します な日本と通ずる慟哭鎮魂歌

ダウ. ブレイヴピープル(2020)
DAU. Brave People

監督:イリヤ・クルザノフスキー、Aleksey Slusarchuk
出演:Andrey Losev、Darya Berzhitskaya、Alexey Blinov

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

《DAU》ユニバース最新話『DAU. Brave People』が配信されました。久しぶりの2時間半クラスの本作は、ソ連の閉塞感を前3作以上に前面に打ち出した作品でありました。

『DAU. Brave People』あらすじ


It is 1953, Stalin has just died. It is a troubled and uncertain period for the whole of the Soviet Union, particularly for the state security services. In the Institute, a secret research facility, the scientists continue their theoretical and experimental work. Every night they strain their ears to listen for footsteps in the dark corridors: who have they come for this time? Who has reported on who? Having survived the fear and humiliation of an interrogation, the Head of the Theoretical Department, Andrei Losev, refuses to cooperate with the security services, only to face a new ordeal back in his own home.
訳:1953年、スターリンは死んだばかり。ソビエト連邦全体、特に国家安全保障局にとっては厄介で不確実な時代である。秘密の研究施設である研究所で、科学者たちは理論と実験の仕事を続けていた。毎晩、暗い廊下の足音に耳を澄ませていた。今回は誰が来たのか、誰が誰に報告したのか。尋問の恐怖と屈辱を乗り越えた理論部長アンドレイ・ロゼフは、保安部に協力することを拒否し、自宅に戻って新たな試練に直面することになる。
DAUサイトより引用

酒と厭世、時空を超えて日本と繋がる

日本では、昨年から国の醜態の極みな汚職が明るみに出て、それはコロナ禍でさらに加速しました。そして自分の都合の良いことだけ迅速に進む、ヒトラーやスターリンはもちろん、ルイ16世よりもカリスマ性がなくダサすぎるあの独裁者にゲンナリする市民は、STAY HOMEでデモができないことを良いことに検察庁法改正を強行しようとした。これには普段政治的ツイートをしない人々もハッシュタグ#検察庁法改正案に抗議しますで抗議を行った。

この地獄のような汚仕事に覆われた世界での厭世は、《DAU》に通じている。故に我々は観ないといけない作品と言える。

前3作品も常に厭世的世界が広がっていたが、本作はその中でも群を抜いている。どんな書類にも署名が求められ、署名なくして仕事が進まないソ連。『DAU. NATASHA』でも描かれたように、署名さえもらえれば国家は人々を思うがままにコントロールできるので、突然家宅捜査が入ったり、強制連行が行われたりするのだ。研究者は、研究者として真理を掴もうと日夜議論が交わされるが、あまりの閉塞感にチョークを投げ出す始末。『DAU. Brave People』では自由がない世界で精神が蝕まれていく研究者とその家族の肖像を2時間半じっくりと描いていくのだ。

注目していただきたいのは、酒だ。

《DAU》ユニバースでは毎回酒の宴が登場する。しかし、本作での飲酒は明らかに不健康だ。酒を楽しむ訳でも、会話を楽しむ訳でもない。この世の憂さを晴らすため、閉塞感を忘れる為に酒を飲んでいるのだ。「全て上手くいっている」と自分に言い聞かせながら、いつ自分が破滅するか分からない世界を地を這うようにして生きているのだ。私もそうだが、コロナ禍による絶望は憂さ晴らしの酒という麻薬に溺れそうになる。

慟哭の鎮魂歌が流れる世界で精神が侵食され、壊れていってしまうのを身を持って感じながらも数少ない研究者としての自己、家族としての自己を保とうとする。コロナ禍でなければ退屈に感じるであろうこの鎮魂歌に涙する私でした。

なんて厭世的なんだ。そして何故、日本はこの世界と重ね合わさっているんだ!

怒りと嘆きで精神崩壊しそうな佳作でありました。

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