【セルゲイ・ロズニツァ特集】『国葬』ロズニツァ一撃必殺プロパガンダ映画!

国葬(2019)
State Funeral

監督:セルゲイ・ロズニツァ

評価:95点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

サニーフィルム渾身の企画セルゲイ・ロズニツァ特集、最後に『国葬』を観た。本作はFILM COMMENTの2019年未配給映画ベストにおいて堂々第一位に輝いた作品だ。イメージフォーラムは平日でも混雑するほど大人気な作品だそうで、私も観に行きました。尚、本作は結末に触れないと語れない作品故にネタバレ記事とします。

FILM COMMENTの2019年未配給映画ベスト

1.国葬(セルゲイ・ロズニツァ)
2.Endless Night(エロイ・エンシソ)
3.旅のおわり世界のはじまり(黒沢清)
4.MS Slavic 7(Sofia Bohdanowicz、Deragh Campbell)
5.Present.Perfect.(Shengze Zhu)
6.ダブル・サスペクツ(アルノー・デプレシャン)
7.Tommaso(アベル・フェラーラ)
8.Bait(マーク・ジェンキン)
9.Belonging(Burak Çevik)
10.Midnight in Paris(James Blagden, Roni Moore)
11.ノー・データ・プラン(ミコ・レベレザ)
12.天国にちがいない(エリア・スレイマン)
13.WASP ネットワーク(オリヴィエ・アサイヤス)
14.So Pretty(Jessie Jeffrey Dunn Rovinelli)
15.ジャスト 6.5 闘いの証(サイード・ルスタイ)
16.Bird Island(Sergio Da Costa, Maya Kosa)
17.What We Left Unfinished(マリアム・ガニ)
18.You Will Die at 20(Amjad Abu Alala)
19.Lina From Lima(マリア・パズ・ゴンサレス)
20.The Devil Between the Legs(アルトゥーロ・リプスタイン)

『国葬』概要


国際的に高く評価されるウクライナ出身の鬼才セルゲイ・ロズニツァ監督が、ソ連の独裁者スターリンの国葬を記録した貴重なアーカイブ映像を基に製作したドキュメンタリー。1953年3月5日、スターリンの死がソビエト全土に報じられた。その後リトアニアで、国葬の様子を捉えた大量のフィルムが発見される。200人弱のカメラマンによって撮影されたそのフィルムは幻の未公開映画「偉大なる別れ」のフッテージで、モスクワに安置されたスターリンの姿、周恩来ら各国共産党と東側諸国の指導者の弔問、後の権力闘争の中心となるフルシチョフら政府首脳のスピーチ、そしてヨーロッパからシベリアまで、国父の死を嘆き悲しむ数千万人の群衆の姿が鮮明に記録されていた。人類史上最大級の国葬の記録は、スターリンが生涯をかけて実現した社会主義国家の真の姿を明らかにする。
映画.comより引用

ロズニツァ一撃必殺プロパガンダ映画!

スターリンが死んだ。

あらゆる場所から荘厳な演説が流れる。人はまるでロボットのように皆スターリンの死の方向であろう場所を見つめる。白黒とカラーを交互に組み合わせる。同じ構図を白黒/カラー交互で映し出すことにより、観客の脳内に擬似的な「今」を生み出し、精神は1953年に飛ばされる。劇中では、まるで『鬼滅の刃 無限列車編』で魘夢(えんむ)に眠らされたかの如くコックンと意識を失っている人が散見される。そして私も「堕ちてゆく堕ちてゆく夢の中へ」と寝かしつけられる。だが、夢の世界であっても重々しい旋律とスターリンの死への残像が続いていく。プロパガンダとはこういうものだ、精神の髄までスターリンの死を考えてしまうほどに催眠効果を宿したものなんだとセルゲイ・ロズニツァはスクリーンに焼き付けるのだ。ヒプノシスマイクの比ではない洗脳効果である。

さて、本作は2019年において本気でプロパガンダを作った代物だ。そのテクニックは『イングロリアス・バスターズ』の劇中プロパガンダ映画のような小手先のものではない。特に注目して欲しいのは、場所と音である。スターリンの死により、黙祷の大砲が放たれるのだが、地方の炭鉱のようなところまでその音が伝播しているように群衆が帽子を取り、一つの方向を悲しげな顔で見つめる描写を繋いでいくのだ。『戦艦ポチョムキン』でセルゲイ・エイゼンシュテインは、モンタージュ理論を構築していたが、まさしくその最良の例として『国葬』は人の顔と大砲の音のモンタージュで、ソ連国民全員がスターリンの死を悲しんでいることを強調するのである。その大団円に持っていくために、ウクライナやソ連のあらゆる都市を映す下準備を行う。中国からの来賓であろう人との交流が描かれる。そういった下積みが、あの大砲のモンタージュを強固なものにするのです。

そして本作は何故こうもモノホンのプロパガンダ映画を作っているのか?

それは最後のテロップを語りたいためであった。

赤い闇 スターリンの冷たい大地で』で描かれている通り、スターリン時代は対外的には栄えているように見えて、実は飢餓や虐殺が繰り広げられていた。それをプロパガンダでもみ消していたのだ。その状況を再現するためだけに当時の本気で撮られたフッテージを本気のサンプリングで構成し、究極のプロパガンダ映画を生み出したのだ。本作にはナレーションがない。観察映画がごとく観客はこの荘厳な世界に身を投じその秘密を探りあてる。その真相を知った時の衝撃は忘れることができない。

こんな凄い映画を配給したサニーフィルムキレッキレである。どうやら次はトーマス・ハイゼの3時間半に及ぶドキュメンタリー『Heimat Is a Space in Time』の上映を目指しているようで、これからも応援したい映画配給会社である。

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※映画.comより画像引用

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